第33話 自称綾乃のライバル
〈綾乃視点〉
零斗と一緒に放課後ショッピングモールに行く約束ができたオレは上機嫌で席に着いていた。
今は朝の八時過ぎ。まぁだいたい終わるのが四時くらいだとして後八時間くらいか。あぁもう待ち遠しなぁ。今日生徒会の仕事無くて良かった。
生徒会のことを引き合いに出したけど、これって完全に放課後デートだよね。
放課後デート……うん。なんだかすごく恋人っぽい響き。何しようか考えてるだけでふわふわした気持ちになる。
あ、そうだ。更紗といずみにショッピングモールにどんなものがあったのか聞いておかないと。
そんなことを考えていた時だった。
「あら桜小路さん、今日は朝からずいぶんとご機嫌ですわね」
「あ、小鳥遊さん。おはようございます」
「おはようございます」
声をかけてきたのは小鳥遊さんだった。小鳥遊さんはこのクラスの委員長だ。
小鳥遊トワ。綺麗な金髪と碧眼は染めたりカラコンだったりするわけじゃなくて、ハーフだかららしい。縦ロールの髪型なんて漫画とかでしか見たこと無かったけど、さすがに本物のお嬢様がやると見事に似合ってる。
今日も朝からバッチリだ。まるで小鳥遊さん自体が光輝く太陽なんじゃないかと思うほどに。
「どうしましたの? わたくしの顔をジッと見つめて」
「あ、ごめんなさい。やっぱり小鳥遊さんは綺麗だなって思って」
「な、なんですの急に。褒めても次の中間テストは手を抜きませんわよ?」
「別にそんなつもりで言ったんじゃないんですけど」
「なら良いですわ。今回の実力テスト、わたくしは二位であなたは一位。この屈辱は次のテストで必ず晴らしてみせますわ」
「あはは……」
小鳥遊さん、悪い人じゃないんだけど彼女はずっとこの調子だ。
去年入学してからずっと目の敵にされてる。生徒会選挙でオレに負けてからは特に顕著になった。彼女は内部進学生で次期生徒会長間違いなしとか言われてたから特に悔しかったのかもしれない。
でも嫌がらせとかをされるわけじゃない。彼女はあくまでまっとうに、まっすぐ正面から挑むのが流儀らしい。
そういう快活さはわかりやすくて好きだけどね。でもずっととなるとさすがにオレも疲れるというか。
今は委員長としてこのクラスのまとめ役を買って出てくれてる。彼女の優秀さはよく知ってるし、小鳥遊さんが委員長をやってくれてる限りはこのクラスは安泰だろう。
「それで桜小路さん。どうしてそんなに機嫌が良さそうなんですの? 今日は何かありましたかしら?」
「大したことじゃないんです。今日の放課後にショッピングモールに行くことになったんです。ほら、最近できたばっかりの」
「あぁ、あそこのショッピングモール。でしたらよく知ってますわよ。お父様が出資者ですもの。お父様と一緒に視察に行ったこともありますわ」
「えぇ!? そうだったんですね!」
小鳥遊さんの実家がかなりのお金持ちなのは知ってたけど、まさかあのショッピングモールにまで関わってたとは思いもしなかった。
「お父様も納得されてましたし、わたくしもかなり満足の出来でしたわ」
「へー、そうなんですね。ますます行くのが楽しみになってきました」
「でもどうしてショッピングモールへ? 何か欲しいものでもあるんですの?」
「そういうわけじゃないんですけど。今週末からゴールデンウィークが始まりますから。その前にどんな場所か知っておいた方が良いかと思いまして。トラブルになりそうな場所があったら注意しなければいけませんから」
「生徒の危機管理も生徒会の仕事ですものね。さすが桜小路さんですわ」
「こういう時ばかりは風紀委員が欲しくなってしまいますね。なんて、甘えですかね」
この学園にも風紀委員がないわけじゃない。というか去年まではあった。でもまぁ色々とやらかしてくれたおかげで一度解体、生徒会に吸収という形になった。というかした。
そのせいで今は風紀委員の仕事まで生徒会が受け持つことになってしまったのだ。本来ならショッピングモールのことだって風紀委員の管轄なわけだし。
まぁ今はそれで零斗と放課後デートする口実になったと思えば、風紀委員を解体した意味もあったかもしれない。
「桜小路さんはよくやっていますわ。多少の愚痴程度言ったところでバチは当たらないでしょう」
「…………」
「な、なんですのその意外そうな顔は」
「いえ、まさか小鳥遊さんにそんなこと言ってもらえるとは思わなくて」
小鳥遊さんは完璧主義だから、こういう弱音は嫌うと思ってたんだけど。どうやらそういうわけでもないらしい。ちょっと意外だったかも。
「あなたはライバルですもの。常に万全の状態でなければ挑みがいがないですもの。そ、それでその……ショッピングモールに行くのであればわたくしが案内して差し上げてもいいですわよ?」
「あ、それは大丈夫です」
「へ?」
「実は零斗、副会長と一緒に行くことになってまして。彼も週末に行ったそうなので。ですから小鳥遊さんにそこまで気遣ってもらわなくても大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきますね」
「…………」
「小鳥遊さん?」
「そ、そうですの。ならいいですわ。えぇ別に気にしていませんとも。あぁもう白峰零斗、またそうやってわたくしの邪魔をしますのね」
「??? すみません、何か言いましたか?」
「なんでもありませんわ」
なんだろう。小鳥遊さんの言い方にちょっとだけ棘があるような。気のせいか?
後半なんて言ったかわからなかったし。
「ふぅ……まぁあなたが行くならいい機会ですわ。あなたの意見を聞かせてくださいな。ではまた。今日も一日、身を入れて過ごしましょう」
「えぇ、頑張りましょう」
うーん、結局なんで声かけてきたんだろう。それに最後何を言ってたのか結局わからなかったし。
もしかして一緒にショッピングモールに行きたかったとか? なんて、それは無いか。
オレを目の敵にしてる小鳥遊さんがそんなこと言うわけないし。でも、せっかく同じクラスになれたんだから普通の友達くらいにはなりたいな。
そのためにも、彼女を失望させないように生徒会も勉強も頑張らないと。
そんなことを考えながら、オレは離れていく小鳥遊さんのことを見送るのだった。
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