第18話 膨らむモヤモヤ
〈綾乃視点〉
教室まで一緒に来たオレと零斗は、そこで別れて自分の席へと向かった。
授業の準備をしていると、いずみと一緒に更紗が教室に戻ってきた。
そうしていつもの日常に戻っていく。
だけど……。
「…………」
なんだろう。今までにないほど胸がモヤモヤしてる。
朝、零斗と一緒に登校してた時はあんなに楽しかったのに。
「どうしたの綾乃ちゃん。なんだかボーッとしてるけど」
「あ、ごめんねいずみ。なんだかこの辺りがおかしくて……」
「胸? も、もしかして病気とか!?」
「それは大丈夫だよ。この間の健康診断も異常なしだったし」
それは間違いじゃない。俺の主治医の先生のところでついこの間受けた健康診断では特に異常も見つからなかった。だから健康状態がどうこうってことはないと思うんだけど。
「うーん、なんでなんだろう。白峰君のことを見てるとモヤモヤして……いつもはこんなことないのに」
「……ねぇ綾乃ちゃん。それってもしかして」
「ストップだよいずみ。それ以上は言っちゃダメ。自分で気づかなきゃ意味ないんだから」
「あ、そっか。ごめんね。でもこれってやっぱりそういうことなのかな」
「うん、間違いないと思うよ」
「? どうしたの二人とも。なんだかニヤニヤしてるけど」
「「なんでもないよ」」
「???」
なんだろうこの感じ。ハブられてるわけじゃないけど、なんかオレだけわかってないっていうか。もしかして二人はわかってるのかな。オレのことのモヤモヤの原因。
チラッと零斗の方を見る。そこにはいつもと同じように水沢君と話してる零斗の姿があった。そんな姿にますますオレの中のモヤモヤが大きくなる。
全部、あの零斗の下駄箱に入ってた手紙を見た時からだ。
少し前。
「ん? なんだこれ」
上履きに履き替えようとしていると、零斗が下駄箱の中に手紙が入ってることに気づいた。
「どうしたんですか? って、それはもしかして……」
それを見た瞬間、ピンと来た。だってそれはオレが去年何度も貰ったものと酷似していたから。
いやでも、まさかそんな……。
「まさか……ラブレター?」
その言葉を聞いた瞬間、ドクンッと心臓は跳ねる。
ラ、ラブレター? 零斗に? そんなのいったいどこのどいつが。
「ま、間違いとかでは……」
「それはないだろ。ほら、思いっきり『白峰君へ』って書かれてるし。この学園に白峰なんて、俺と妹くらいしかいないだろ?」
「いや、それは……そうだけど。で、でもじゃあ一体誰が零斗にラブレターなんて!」
「おい綾乃、素が出てるぞ!」
「あ、ごめん。ねぇ、差出人は誰なの?」
「パッとみた感じ書かれてないな。中はわからないけど、さすがにここで開けるわけにもいかないしな。またタイミング見て中身確認しとく。まだラブレターって確定したわけでもないしな」
いや、でもそれはさすがに無いんじゃ……だってハートのシールだよ? わざわざ下駄箱インだよ? 手渡しじゃない当たり、奥手な子なのかもしれない。それでも零斗に想いを伝えようとしたってことはそれだけ本気ってことなんだと思うし。
「ね、ねぇ。やっぱりちゃんと中を確認しないと」
「え? いやだから後でちゃんと確認しとくって。ほら、それよりも教室に行こうぜ」
「あ、ちょっと」
結局零斗が手紙の中身を見せてくれることはなく、オレ達はそのまま教室へと向かうことになった。
下駄箱でのやりとりを思い出して、尚更モヤモヤが増す。
あの手紙に書かれてたことが気になる。気になってしょうがない。
零斗はもう見たのかな。さっき一人でふらっとどこかに行ってたけどもしかしてその時に……。
でも、まさか零斗が告白されるなんて。だって去年はそんなこと一度もなかったのに。ううん、それともオレが知らないだけでもしかしてあったのかな。
なぜか急に不安になったオレは更紗といずみに聞くことにした。
「ね、ねぇ二人とも。ちょっと聞きたいんだけどいいかな」
「ん? なに?」
「わたしで答えられることなら答えるけど」
「その……白峰君のことなんだけど」
口にしようとした途端、今度は急に頬が熱くなる。もしかしてオレは今とんでもなく恥ずかしいことを口にしようとしてるんじゃないか、そんな気になったのだ。でも一度言い始めてしまったものを無かったことにはできない。
「その……ね、今日、白峰君がラ、ラブレターを貰ってたみたいなんだけど……」
「「ラブレター!?」」
「しっ! 二人とも声が大きいよ!」
慌てて周囲を確認する。
はぁ、よかった。聞き耳を立てられてる感じじゃない。
「気をつけて。他の人にも聞かれちゃうかもしれないでしょ」
「ご、ごめん……」
「でもびっくりしちゃった。あの後にそんなことあったんだ。ホントにラブレターなの?」
「それは間違いないと思う。わざわざ手紙にハートのシール貼ってあったし。それにラブレターでもないとあんな場所にわざわざ置かないと思うし」
「今時ラブレターって、かなり古典的な手だと思うけどね」
「でもいいよねー、ラブレター。わたしも憧れちゃうなー」
「綾乃はいつも貰ってるもんねー」
「いつもってほどじゃないけど……って、今はそれはどうでもいいの」
「はいはい。それで、何が聞きたいの?」
「その……白峰君って、モテる……のかな?」
「……はぁ?」
「どうしてそんなことが気になるの?」
「私、今までそんなこと気にしたこともなかったから」
零斗がモテるかどうかなんて今まで気にしたこともなかった。というよりも、誰それがカッコいいとか、そんな会話にまるで興味が無かったからそんな会話に参加したこともなかった。
「うーん、白峰君がモテるかどうかねぇ。いずみはどう思う?」
「えぇ、わたし!? 急にそんなこと言われても……あんまり話したこともないし。で、でもいい人だとは思うよ」
「なんて当たり障りのない意見。まぁでも話したこと無かったらそんな程度の印象だよね。でも、あたしから言わせると結構モテると思うよ」
「そうなの!?」
「そんなに驚かなくても。だって白峰君って結構イケメンだし。身なりちゃんとしたらかなりいい線いくと思うんだよね。その上で真面目で面倒見もいい。モテる要素はそれなりに揃ってるよね。というか実際あたし何度か聞かれたし。綾乃と白峰君って付き合ってるのかって。白峰君のことが気になるっていう子からね」
「そうなの!?」
「うん、だから白峰君がラブレターを貰ってもおかしくはないかな。さすがにこのタイミングは驚いちゃったけど」
「そう……なんだ……」
初めて知る事実に驚きを隠せない。そうなんだ。零斗、モテるんだ。
零斗は友達だから……別に気にすることないのに。なんでこんなにざわざわするんだろう。
「綾乃、気になるの?」
「別に気になるわけじゃ……わけじゃ……気に、なります」
「そっか。まぁそりゃ気になるよね。気になるなら調べるしかないよねぇ」
そう言って更紗はニヤリと何かを企むような笑みを浮かべた。
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