生徒会長は素直になれない

ジータ

序章 始まりの季節

プロローグ 完全無欠の生徒会長

 私立愛ヶ咲学園。

 小中高一貫のこの学園には、絶大な人気を誇る生徒がいた。


「愛ヶ咲学園のみなさん、おはようございます。この後行われる外部編入生の入学式では40名の方々を向け、そして先ほど挨拶された五人の新しい先生方をお迎えし、愛ヶ咲学園の新たな年度が幕を開けます」


 巨大な体育館の壇上に立つのは一人の女生徒。

 彼女の年齢は十六歳。その真っ白な肌は汚れなど知らないかのようで、腰まで伸びたその髪は肌と対を為すような漆黒。


「春休みを終え、またこのようにみなさんの元気そうな顔を見ることができたことを、心より嬉しく思います。三年生となられた先輩方、みなさんはいよいよ最高学年となりますが、私達後輩にとって憧れの先輩となっていただけるよう、最高学年となったのだという自覚を持っての行動をしてくださるようお願いします」


 薄く色づく唇から紡がれる鈴とした声音は、聞く者を魅了する。そしてその容姿は誰もが振り返るであろうほど美しい。傾国、絶世……彼女の美しさを形容する言葉は数多あるが、そんなものは必要なかった。彼女を見れば誰もが心で理解するのだから。


「そして二年生となったみなさん。いよいよ先輩として後輩達から見られることになります。中等部と高等部では異なる部分も多くあります。みなさんも一年生の頃は不安な気持ちがあったはずです。ですが、先輩方からのサポートを受けながら学園生活に慣れ、ここまで歩んできたはずです。今度は同じように一年生をサポートしてあげてください」


 体育館の中にいるのは教員と、そして高等部の生徒達。

 一学年三百人。十クラス編成だ。約九百人の生徒がいるこの場において、そのほとんどが彼女の言葉に静かに耳を傾けていた。


「本学園の今年の全体目標は『質実剛健、文武両道』です。これらを目標に勉強にも、部活にも……そして恋なんかにも励んでくださいね。もちろん節度は守っていただきますが。それでは、新たなクラスの仲間と共に本年度も頑張っていきましょう」


 最後に小さくウインクして、彼女は挨拶を終えた。

 壇上を降りる彼女のことを生徒達は万雷の拍手で送った。

 その名は桜小路綾乃。

 文武両道にして才色兼備の少女。今年高校二年生になったばかりの生徒会長である。

 

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