アーヴェン(1-3)
「くそっ!」
咄嗟にアーヴェンは腰に折り畳んだ槍へと手を伸ばす。そのまま敵本拠地で戦闘になってしまうのは不本意だったが、先手を取る方が最優先だった。
しかしアーヴェンはその臨戦態勢を途中で止めることになる。ナコがアーヴェンに対して全く反応もせずに資料を拾ったのだ。
「というわけで、こちらが魔物の大移動に関する資料。そして、姫の捜索についての資料となります」
ナコは声色一つ変えることなく黒師へと拾った資料を手渡す。
その様子を見つめながら、アーヴェンは油断することなく槍の穂先を机の下からナコへ向けていた。
「生贄に必要な奴隷の数は減り続けているか……。これがなければ姫に逃げられる前に儀式を行えたのだがな」
「どうやら奴隷商を狙った暗殺者のような者がいるようです」
「厄介な。おかげで魔物の大移動のために信徒を使うことになった。その上で冒険者に止められるとはな。暗殺者はまだしも、大移動を止めた冒険者の名はわかっているのか」
「どうやらその資料にあるアーヴェンとクロという二人の冒険者が活躍したようです」
ナコがそう言って資料を捲る。その音を聞きながらアーヴェンは不思議そうに首を傾げた。
大移動で活躍した冒険者として第一に名前が出るのはルーのはずだ。そしてその次に仲間としてアーヴェンとクロの話題になる。だとすれば、アーヴェンとクロを知るナコはルーも知っているはずなのだ。
「この二人を始末することは可能か?」
「難しいかと。この前の生贄に加えて儀式や姫捜索に使っている人員で信徒は使い切っています。黒師様もあまり王城から動けない身とすると、始末できる者がいません」
「仕方ないか。この件は保留にする。その上で姫捜索の方へより人員を回せ」
「お任せください」
ナコが一礼する。その仕草を見つめて一度頷くと、黒師は振り返って部屋の出口へと歩みを進めた。
「黒師様、資料の方はどうしますか?」
「そこで燃やしておけ」
ナコに声をかけられた黒師は、部屋の暖炉に顎を向ける。ナコはその暖炉に資料一式を放り入れた。
ひらりと投げた資料の一部がアーヴェンの机の下へと舞い降りるのを気にした様子もなく、ナコは暖炉に火をつけると黒師と部屋から去っていった。
「この資料は……」
暖炉の火を急いで止めたアーヴェンが一部焼け焦げた資料を確認する。そこに書かれていたのは、ルーチェ姫という少女を探しているという情報だった。
そしてもう一つ、アーヴェンへと舞い降りた資料には冒険者ルーの活躍した情報が描かれている。
その二つを見比べて、アーヴェンは驚愕するように目を見開いた。
「間違いない。ルーはこの国の姫だ」
アーヴェンは真相に辿り着き、資料を回収すると急いで街へと戻った。
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