ルーチェ(4-2)

「ルー、クロ。予定通り、俺から離れてろ!」


 魔物達が目の前へと迫る最中、アーヴェンが叫ぶ。その理由はアーヴェンの戦闘方法にあった。


『----!』


 魔物の咆哮が響き渡り、草原の各所で冒険者と魔物の戦闘が連続して発生する。


 その中でも一人突出していたアーヴェンが魔物に即座に囲まれた。しかしそれも一瞬のこと。


「弾けろ!」


 練り上げられた剣気を収束させ、解放することで生み出される爆発が連続で魔物を襲う。


 敵の外部内部問わずに炸裂する衝撃はアーヴェンが振り回す槍の周囲で絶えず発生していた。


 巻き起こる爆発にアーヴェンに寄った魔物の身体が吹っ飛ぶ。槍先に触れるだけで肉が抉り取られる空間に、魔物は近づくことすらできなかった。


「やるわね、アーヴェン。素材を考えなかったら一番優秀なんじゃないの?」


「あれなら大丈夫ですね。わたくし達も戦いましょう」


 クロとルーチェは単身で魔物の群れに突っ込はんだアーヴェンを少しだけ確認すると、それぞれが武器を構えて魔物達と交戦していった。


 小人や小鬼。狼や山猫、兎に獅子。多種多様入り混じる魔物を相手に冒険者達の攻撃が降りかかる。


 弱い魔物はすぐ倒され、残るのは厄介な魔物達だ。


「ちっ、硬いわねこいつ。アーヴェン、任せたわよ!」


 敵の攻撃を身軽に避けながら魔法で石の雨を降らせていたクロは、硬い鱗に覆われ傷つかない魔物が残るのを見てアーヴェンに蹴り渡した。


「ははっ、いいじゃないか。爆弾代わりだな」


 近くまで来た硬い魔物にアーヴェンは槍を突き入れる。


 剣気を集中させた槍は容易く硬い鱗を貫いた。


 収束させた剣気を解き放ちながら槍を引き抜いたアーヴェンは、魔物を蹴り飛ばし群れの中に放りこむ。次の瞬間、魔物の身体は内側から爆ぜた。


 硬い鱗が衝撃で飛散し、周囲の魔物を傷つける。


「わたくしも、いきます!」


 研ぎ澄まされた剣気がルーチェの横でキリキリと音を響かせる。


 続いて振るわれた剣から放たれた剣気は空気を切り裂き、迫る魔物達を次々と両断した。


 戦いは順調だった。


「よし、このまま押し切れるぞ!」


 誰かの声が響き、呼応するように冒険者達は魔物に突撃していく。


 しかし、そこでようやく冒険者達は異常に気がついた。


「おい、おかしいぞ。もう、俺は十体以上の魔物を倒してるはずだ!」


「俺もだ! どうなってやがる!」


 次第に騒ぎが広がる。多くの冒険者が大量の魔物を倒しているにも関わらず、敵の数が減ったように見えなかったのだ。


「誰か確認しろ!」


 響いたその声に、斥候の一人が魔物の群れを抜けて草原の奥へと向かう。そこで斥候は絶句し顔を蒼に染めた。


「嘘だろ……。さっきはこんな数はいなかったはずだ! 何処から現れやがった! 瞬間移動でもしてるってのか!」


 斥候の目に映ったのは、千を超えてなお迫る魔物達の姿だった。


 一瞬、斥候はその情報を叫ぶことを躊躇う。伝えれば、冒険者達の士気が落ちることは明白だった。


 だが、伝えずとも過酷な状況に変わりはない。


「魔物の増援だ! その数……。その数、千を超えてる!」


 無慈悲な現実が草原に響き渡り、冒険者達の絶望は瞬く間に伝染した。

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