?????(2)
「何故これだけ探して見つからない?」
夜も深くなってきた頃、ナコが率いる白装束の男達は街中でルーチェを捜索していた。街の出入り口から酒場や商会。夜に開いている場所は全て回った。唯一の情報は、冒険者組合にボロボロの貴族がやってきたという噂があることだけ。誰かに匿われているわけでもなければ、見つからないはずがなかった。
「仕方ない。一度しか使えないが、捜索の奇跡を使うか」
「それで捕まえればいいだけのことだからな」
黒師から念のためにと渡されていた箱をナコは取り出す。それは中に探したい人の血を入れることで対象を探し出すことのできる呪具だ。ルーチェの生贄の血を分析するために採取した血を使えば、その呪具でナコはルーチェを見つけることができる。ただし、採取した血は一回分しかなかった。
「よし、箱に血を垂らした。後は待つだけか……」
ルーチェの血を捧げられた箱が淡い光を放つ。光は形を変えて蝶の姿となった。ひらりひらりと羽を広げて、光の蝶は闇夜を進んだ。
「あっちだ。けど、これは裏路地に向かってるのか?」
何者かにルーチェは保護されているのかと思っていたナコは、光の蝶がどんどん人気がない方へ進み困惑する。そうして蝶を追いかけた先、ナコたちを遮ったのは黒髪の青年だった。
「おや、どうも。フェクトと申します。貴方達は探し人の最中でしょうか?」
狭い路地に立ちはだかった青年はフェクトと名乗りながらにこりとした笑顔を浮かべた。
「あぁ、そうだ。このような人相の少女を探している。心当たりはあるか?」
「あぁ、はい。もちろんですとも」
フェクトに白装束の一人がルーチェの人相描きを見せて問いかける。するとフェクトは考えるように斜め上を見上げた後に、小さく頷いた。
「居場所を教えてくれ」
白装束がフェクトに詰め寄る。けれどフェクトは気圧された様子もなくにこにこと笑っていた。不気味な人だとナコは一歩後退りする。
「構いませんが、貴方達は何を差し出してくれるのでしょう?」
「はっ、なんだ見返りか。何でもくれてやるぞ。金だろうが命だろうがくれてやる。私達の崇高な使命の前には、命さえ惜しくないのだからな」
フェクトの現金な問いかけに白装束の一人が笑いながらそう返した。フェクトはその言葉を嬉しそうに聞いて頷く。
「わかりました。確認ですが、その女性に貴方を会わせれば良いのですね? その代わり、何でもいただけると」
「あぁ、その通りだ」
「他の方々も?」
フェクトはナコを含めた白装束達全てに視線を向けた。その視線を受けた白装束達はナコを除いて一様に頷きを返す。ナコだけは、フェクトの不気味さに頷きを返すことができなかったのだ。
「承りました。では……」
パチンとフェクトが指を鳴らした瞬間、白装束の一人が倒れ伏す。それはフェクトと言葉を交わしていた白装束の一人だ。
「何を……」
咄嗟に倒れた白装束に寄った一人が、その脈を確認して言葉を失う。たしかに倒れた白装束は死んでいたのだ。
「命をいただけるとのことでしたので」
にこりとした笑みを崩さぬままにフェクトは悪気のない様子で白装束達に近寄った。それだけで、一人また一人と白装束が倒れていく。
「何が……。何が起こってるんだ!」
白装束の一人が錯乱して叫ぶ。それも束の間、その白装束も即座に死んだ。
「おかしい! 何故倒れた奴らは死んだのに転化しないんだ!」
自らの命を差し出すことも躊躇わないと言っていた白装束達が、激しく動揺をしていた。
「転化……。生贄をそう呼んでいるのですか。だから貴方達は死を恐れていなかったと。ですが、変なことを言いますね。命を先に私に差し出したのだから、貴方達の信じる者へ届けられるはずもないでしょうに」
「そんな! 我らが主にこの身を捧げることもできないというのか! 先ほどの話は無しだ、逃してくれ! 頼む!」
ばたばたと白装束が倒れていく中で、一人がフェクトに擦り寄る。しかし、フェクトが冷たい目で見つめただけでその白装束も倒れ伏してしまったのだ。
そこで白装束達は半狂乱となり逃げだし始めた。
「おや、逃げるのですか? まぁ、いいでしょう。十分に私は利を得られましたからね」
逃げ惑う白装束を見つめてフェクトは冷酷に笑うと右手を掲げる。そこの上には、脈動する光のようなものがあった。
「【トクトク】と刻む命の効果。なかなかこれは得られませんからね。ところで、貴方様は逃げないので?」
手のひらの光を見つめていたフェクトは、未だ逃げないナコに視線を移してにこりと微笑む。その笑顔を受けて再び後退りながらも、ナコは逃げ惑うことはなかった。
「ルーチェはお前が匿っているのか?」
「えぇ、現状は」
「そうか、ならば伝えておけ。お前がこの街にいる限り、我らは必ずお前を捕まえると」
「承りました。では貴方様の上に立つ者にはこれを渡すといいでしょう。逃げた罪は問われないはずですよ」
ナコの言葉に頷いたフェクトは、脈動する腕輪を一つ投げ渡した。それは、命の効果を付与した腕輪だ。
『助けて。私を主へと導いて』
腕輪から声が聞こえて、ナコは背筋を震わせた。死んだ白装束の命がその腕輪に宿っていると気がついたのだ。そしてナコが腕輪から再び視線をフェクトに向けようすると、すでにフェクトの姿はどこにもなくなっていた。
捜索の蝶も消えルーチェの居場所はわからず、従えていた白装束達も死ぬか逃げた状況にナコは深く息を吐く。
「ふぅ、戻るか」
誰にともなく呟いたナコは、王城へと戻っていった。
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