?????(1)

「おい、どういうことだ! なぜルーチェ姫がいない!」


 王城地下牢にて、ルーチェが閉じこめられていた牢屋の前で倒れ伏していた見張りに仮面の男が怒鳴り声を響かせる。


「報告します、黒師様。命令により牢屋の鍵を開けたところ、生贄の少女が体当たりをしてきました。そのまま私は頭を打ち気絶。今に至ります」


 見張りは起き上がり、黒装束の仮面の男である黒師に跪くとそう報告した。


「なに? 誰の命令だ」


「黒師様です」


 訝しむような声音の黒師に、見張りは淡々と答えて顔を伏せる。


「なんだと? くそっ、意識がまた混濁していたのか? あぁ、早く急がねば」


 ぶつぶつと呟きながら黒師は身体を掻き毟った。ばりばりと音を響かせ、血が滲むのさえ躊躇わずに黒師は自らの身体を引っ掻く。尋常ではないその様子を、見張りはただ沈黙のままに見つめた。


「そうだ、ルーチェ姫を連れ戻さねば。君、名前を何と言う」


「白の七十五と呼ばれております」


「ならば、作戦のためにお前は今からナコと呼ぼう。いいかナコ、お前が他の白徒を引き連れて生贄の姫を取り戻すのだ! いいな!」


「はい、わかりました」


 有無を言わさぬ様子で叫ぶ黒師にナコは深々とお辞儀をすると、他の白装束の仮面の者達を引き連れて街へと繰り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る