『あさま』で生テレビ

凹田 練造

『あさま』で生テレビ

「さあ、始まりました、『あさま』で生テレビ。今日も、この長野新幹線『あさま』号の中から、生中継でお届けします。

 すでに、『あさま』号は、高崎駅を通過しております。この特別列車は、このまま長野駅まで停車せずに走り続けます。

 司会は、いつものように、私、田原総一朗でお送りします」

 この一両だけ、座席を撮影用にアレンジし直した、スタジオ仕様に改造されている。

 専用の照明が煌々と灯り、せっかくの景色もほとんど識別できない。

 この車両から、上空を飛んでいる何機かのヘリコプターに電波を飛ばし、そこからさらに送信してもらうのだ。

「今日のテーマは、『まったく最近の若い嫁は』対『お姑さんが煙たくてかなわない』。

 尚、長野新幹線はトンネルが多いため、トンネルに入るとCMが流れます。CM中の発言内容は、トンネルを出たところで、私、田原総一朗が、要約してお届けします。

 それでは、『あさま』で生テレビ、スタートです」

 おなじみのテーマミュージックが流れ、本日の出演者が次々に大写しになる。

「それでは、まず最初に、一番端のお姑さんから、口火を切っていただきましょう」

 その途端、トンネルに入る『あさま』。

 だが、指名された姑は、緊張した面持ちのまま、話し始める。

「だいたい、近頃のお嫁さんは、根性がなってないんですよ。ちょっとしたことで,すぐに嫌になったり、さっさと実家に帰ったりするんですから」

 ここで、列車はトンネルから出る。

 田原総一朗氏が、さっそくまとめにはいる。

「ただいま、トンネルの中での御発言ですが、お姑さんから、お嫁さんも大変だ、色々なことがあると思うが、少し長い目で見て、頑張ってみたらどうか、という内容でした。

 それでは、今度は、そちらのお嫁さんから、御意見をどうぞ」

 またトンネルに入る。

「だいたい、年寄は、頭が固いんだよ。こっちのやることなすこと、全部、自分とおんなじじゃなきゃ、気がすまないんだから」

 トンネルから出て、田原総一朗氏が、まとめにはいる。

「お姑さんからの御指導、さすがに長年の経験が反映していて素晴らしいです。私の考えも、もう少し聞いてもらえると、もっと嬉しいんですけど、という話でした。

 それでは、次のお姑さん、御意見をどうぞ」

 列車は、また、トンネルに入る。

「だいたい、最近の若い嫁が作る料理って、ありゃ、なんです。

 ほとんど出来合いのものを買ってきて、電子レンジで、温めたり。鍋で炒めるのなんかは、まだ、ましな方ですよ。

 そもそも、出汁を取らずに、だしの素を入れて作るなんて、あんなものは味噌汁じゃありませんよ」

 『あさま』号は、トンネルから出る。

「ありがとうございました。只今のお姑さんの話は、とても頑張って料理を作っているのは感心だが、もう少し手間をかけた方が、家族も喜ぶのではないか、というお話でした。

 それでは、今度は、こちらのお嫁さんから一言、どうぞ」

 列車は、またしてもトンネルへ。

「だいたい姑は、口うるさいんですよ。

 出汁の取り方から、味付け、火を通す時間まで、細かく言ってくるんですから。

 最後には決まって、『こんなのはうちの味じゃない』ですからね」

 ここで、トンネルを出る『あさま』号。

「今の発言で、お嫁さんとしては、料理をいろいろお姑さんから教えてもらえるのは、勉強になります。ただ、私にも私のやり方がありますから、もう少し自由に料理をさせてもらえないでしょうか、ということでした。

 さあ、今度は、そちらのお姑さん、お願いします」

 またしても、トンネルに入る列車。

「うちの嫁なんかは、掃除一つ禄にできやしない。

 四角い部屋を丸く掃くんだから、あきれ返っちまうよ」

 話し終わると同時に、トンネルを出る列車。

「今のお姑さんの話ですが、お掃除を真面目にやってくれるのは嬉しいけど、もう少し丁寧にやってもらえると、更にいいんだけど、という内容でした。

 さあ、今度は、こちらのお嫁さん。

 そう、あなた、どうぞ」

 途端にトンネルに入る新幹線。

「掃除したあと、いちいちチェックするの、やめてもらえないかしら。

 障子のさんをいちいち指で確認してみたり、天井から額の裏まで、ちょっとでも埃があると、いつまでもネチネチとうるさいんだから」

 新幹線は、トンネルをようやく出る。

「只今のお嫁さんからは、掃除にかんして、気が付きにくいところまで監督・指導していただいて、誠にありがとうございます。

 こちらも一生懸命やっているので、もう少しやわらかく言ってもらえないでしょうか、という内容でした。

 次は、そちらのお姑さん、お願いします」

 もう一度、トンネルに入る、列車。

「うちの嫁の味付けは、なんとかならんかね。味が濃すぎて、喉ばっかり乾くし、食えたもんじゃないんだよ」

 ちょうど列車がトンネルを出て、田原総一朗氏が話し始める。

「ありがとうございました。

 お姑さんとしては、お嫁さんに料理を作ってもらえるのはありがたい。

 ただ、年寄りは薄味が好みだから、もう少し加減してもらえるともっと嬉しい、とのことでした。

 それでは、次のお嫁さん、どうぞ」

 トンネルに入る、新幹線。

「もうねえ、お義父さん、お義母さんに、味付けを合わせてたら、子供が食べてくれないんですよ。

 私と夫だって、ちゃんとした味付けのものが食べたいじゃありませんか」

 そこでトンネルを出る新幹線。

「お嫁さんとしては、いろいろ味に気を使っているけれど、年配の方と、子どもたちと、両方に丁度いい味を出すのに、苦労している、というお話でした。

 続いて、そちらのお姑さん」

 ここで、トンネルに入る、列車。

「あたしが孫になにか買ってやろうとすると、嫁が怒るんだよ。

 ちょっとぐらい何か買ってやったって、いいじゃないか」

 トンネルを出る列車。

「ええと、孫は可愛い、宝物だ。もう少しなにか買ってあげたい。それくらい可愛い、というお話でした。

 では、次は、あなた。

 そう、そこのお嫁さん、お願いします」

 トンネルに入る列車。

「こっちは、子供の栄養から何から、計算してるんですよ。それを勝手に甘いものを与えたりして。

 お小遣いだって、自分できちんと計画できるように、考えて与えてるんだから、親の目を盗んで、なにか買い与えたりすると、困るんですよ」

 トンネルから出る列車。

「お嫁さんからは、お子さんを可愛がってくれるのはありがたいが、あんまりやりすぎると却って子供のために良くないこともある、とのことでした。

 さあ、次のお姑さん、どうぞ」

 トンネルに入る列車。

「だいたい、結婚してから、息子が私に冷たくなったんだよ。

 嫁が息子に、有る事無い事吹き込んでるのに違いないんだ」

 トンネルから出る列車。

「まあ、息子さんも、自分とお嫁さんの間に入って、いろいろ気を使っているんだろうと、そういうお話でした。

 それでは、次のお嫁さん、どうぞ」

 また、列車がトンネルに入る。

「旦那が全然、私の味方になってくんないのよ。私を守ってくれるのが普通じゃないの。

 なんだか、いつまでもお母さんから離れられないみたいで、甘えてんじゃないわよ、って感じ」

 ここで、列車がトンネルを出る。

「まあ、旦那さんも、嫁と姑の間に入って、大変だと思うけど、もう少し上手に家庭の中をまとめてほしい、と、そんな感じでした。

 それでは、そちらのお姑さん」

 列車はまたまたトンネルの中へ。

「まったく、財産狙いが露骨なんだよ。

 私の財産の相続が目当てでなかったら、どうせ同居なんかしてないんだろうさ」

 トンネルから出る列車。

「まあ、将来の財産分与のことなどもあるだろうけど、とりあえず今は、家族で一つにまとまっていきたい、ということですね。

 では、もうお時間もなくなってきました。最後に、そちらのお嫁さん、どうぞ」

 トンネルに入る列車。

「もうほんとに、姑と一緒になんか住みたくないのよね。

 なんかもう、半分だまされたみたいな感じで。これで、財産が手に入らなかったりしたら、なんのために苦労してるんだか、分かんないじゃないねえ」

 ここで、列車はトンネルから出る。

「いろいろあって一緒に住むことになったけど、いつかその日が来るまでは、よろしくお願いしますと、そういうことでした。」

 長野駅が近づき、スピードを落とす新幹線『あさま』号。

 再びテーマミュージックが流れ、田原総一朗氏がエンディングに入る。

「お送りしてまいりました、『あさま』で生テレビ。

 お別れの時間がやってきてしまいました。

 今日も、白熱した議論が展開されました。お集まりいただいた皆さん、本当にありがとうございました。

 次回は、『全く近頃の若い者は』対『年寄は考えが古い』、をお送りします。

 それでは、『あさま』で生テレビ、次回もお楽しみに」

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