#女子高生、他愛も無い。

小林真紘

第1話 告白の秘密

「男子から、告白されたっ!」

「……へぇ、そうなんだ」


 なんて、適当な相槌を打って――っと。


「……反応リアクション、薄くない?」


 帰宅の脚も止めないで。

 佑菜ゆうな怪訝けげんな顔してる。


「えぇ、そうかなぁ?」


 ふふっ。私の声、


 だとしたら、多分それ。

 あまりに奇遇だったから、逆に反応薄くなったヤツ。


 だって私、ついさっき。

 掃除終わりの放課後に、2組の男子に裏庭で――告白された、ばっかりだからっ。


 よし、この話。

 佑菜の話題が終わったら、最後に話して驚かせてやろっ!


「あー暑い、暑いね、佑菜。今日で4月も20日だし、もうすっかり青春ハルだね」

「え、どうしたの急に。有佐ありさ、頭バグったの? 高校ウチの入学式で会ってから、まだ1ヶ月も経ってないのに……。あたしの名前、分かる?」

藤沢ふじさわ佑菜」

「正解……! よかったぁ〜! あ、ちなみに有佐は“櫻庭さくらば有佐”ねっ」

「いやバカにし過ぎ」


 佑菜、大きく開いた口で。「あははは」って、いつもみたく――


 ヒュオッ!


 っ、風が……ぁ。


 くりっとした魅力的な双眸そうぼう、肩に掠めるボブヘアが。

 佑菜の魅力を、風が手引きして。ほんの一瞬だけ、


 瞬間、今、この風景。

 なんて事ない商店街の、どうって事ない背景が。

 藤沢佑菜を中心にした、一種のパノラマ写真みたいに。


 ――まぁ、視えたよね。

 同じ制服ブレザー、学生鞄。

 なのに佑菜って、アイドルみたい。

 私も長い黒髪から、茶髪のボブにしよっかなぁ。


「で、あたしの告白話なんだけど!」

「あ、うん」


 そうだった。


 佑菜、溜め息くみたく――


「今回も――断りましたぁ」

「あー、そうなんだ」


 うん。佑菜って、スゴい。

 入学してから学校で、もう3人から告白なんて。

 こんなに普通、ぽこじゃかされない。私は今日がお初ですけれど?


「で、今回ダメな理由は? 1人ぐらいは付き合ってみても、損はしないと思うけど?」


 なんて、有識者みたいだ。

 私、恋愛初心者なのに。


 でも佑菜、「んー」って神妙に――


「……意味不明だから」


 えーっと、


「どういう意味……」

「そのまんまの意味だよ、有佐っ。だってホントに顔も名前も、知らない赤の他人から! 1人で体育倉庫に来いとか、“あーボコボコにされるんだぁ”って、滅茶苦茶ビクビクして行ったらさぁ――」


 私は裏庭呼ばれた時、ドキドキ甘酸っぱかったんだケド。


「急に“付き合って下さい!”なんて、もう安心を通過して、意味不明だったんだよね。お互い、見ず知らずの学生。何組かも知らなかったんだよっ? それにほら、見てよこれ」


 って、突然自分の財布から。

 佑菜、万札を3枚――え?


「何その大金……」

「お年玉。3万これで許してもらおうと、あらかじめ準備してたマネー」


 佑菜って、本当ホント面白い。


「――っ、ふふふっ!」

「え、有佐? 何の笑い?」

「いや、ううん、何でもない。けど佑菜、告白は意味不明じゃないって。だって佑菜はアイドルだから」


 それに、胸の発育も良いし。うん。


 ――恋愛って、予約が効かない。

 本当はシーソーなんかじゃない、早い者勝ちの椅子捕りゲーム。

 4人目、5人目、あるんじゃない?


「えぇ、ますます意味不明だけど……。有佐、やっぱりおかしくない?」

「おかしくないってば。みんなが佑菜に一目惚れ、ただそれだけの事だって」


 って、お世辞みたいな真実を――


「いやいやいやぁ。有佐みたいな美人ならともかく、あたしに一目惚れなんて無いって!」


 は?


「ぇ、私が美人……?」

「うん。あれ、言わなかったっけ? 特にツリ目な感じとか〜! あたし、めっちゃ好きだけど」


 ぅえ、そ、そんな事っ……!?


「ぁ、あーもー! 佑菜と話すと調子狂うっ!」

「え、あたし何かしたっ……!?」

「しましたー」


 っと、話してる内に駅前だ。

 帰りの電車、同じ方向だったら良いのに。


「それじゃあ佑菜、またあし――あ、そうだ。佑菜に告白した男子。3人目って、どんな人?」


 からの、私の告白談サプライズ

 佑菜の反応、想像付かないっ!


「どんな人って――2組の。バスケ部所属の西平にしひら君」


 は?


 


 じゃあ、私って。


 藤沢佑菜の、んんッ!?


「――ふは、フハハハハッ……!?」

「うわ、有佐ブッ壊れた」

「大丈夫、すぐ治る。ところで佑菜、西平君の弱味とか知らない?」

「え。……部室で飲酒してやがる」

「そっか、ありがと。証拠押さえて、バスケ部顧問にリークしとくね」

「有佐……西平君の、教えてもらったけど使う?」

「使う」


 「じゃあその内、怒りの理由教えてねっ!」て。

 佑菜、他愛も無い約束して。


 踏切の先に、消えてった。






 ――あれから3日。


 消えた佑菜、戻らない。


 裏アカに投稿されていた、西平君の飲酒写真。

 私のいきどおりに点いた、炎は鎮火したよ。ざまぁ。


 けれど、私の大切な。クラスのアイドル、藤沢佑菜。

 私の為に、堂々と――うっかり巻き込まれて消えた。


 春の裏アカ大精算。

 西平君が教室で撮った、1枚の写真背景に。

 携帯ゲーム機密輸じさんして、奮戦エンジョイしている佑菜の姿が、ねぇ……。


 ……あぁ、もうっ!


 佑菜って、そういうトコある!


 早く停学から、戻って来ぉいっ!

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