第48話:賢者と再びのドラゴンガール

 一応ながら、俺も接近戦の心得がないわけではない。

 というのも、俺自身は回復支援がメインのマリアンナの護衛を兼ねることもあったからだ。


 リンは……元々が生物として格上であるため、接近戦も高水準で強かったため特に必要ではなかったな。


 まあそれは置いておいて、基本的にはフィンとガリアンが前衛として前を張り、俺とマリアンナはその支援。そしてその後ろからリンが火力のある魔法で攻撃するのが我が勇者パーティの基本戦術だった。

 そのため、万が一にでも前衛の二人を抜けた際に、前衛がフォローに回れるだけの時間稼ぎができるようにと特訓したのが俺である。

 賢者であればリンほどではなくとも攻撃できる魔法に加えて、身体強化や強化陣によるバフも使用可能だから、というのも大きな理由の一つだ。


 だからこそ、旅の途中で何度もフィンやガリアンの相手をしたものだ。


「くっ……! おにーさん、戦いづらいんだけど……!」


「接近戦では、それが取り柄なもんでな……!!」


 自身の周囲に常に魔法陣を展開し、多種多様の魔法をタイミングを見計らって発動させる。

 相手が嫌がることを徹底的に。これが俺の接近戦における基本原則。


 攻撃の瞬間、息を吸う瞬間、俺にしか視線が向いていない瞬間、集中が途切れる瞬間。

 そういったタイミングで、上から、下から、横から、背後から、死角から。ありとあらゆる方向から展開した魔法陣による魔法を発動させる。

 フィンやガリアンにさえ『戦うには面倒で厄介な相手』と言わしめた俺の戦法を、とくと御覧じてもらおうか……!


「くぅっ……ちょこまかとっ! おにーさん!! 逃げてばっかりでずるぅーいっ!」


「戦いで常に優位を保つことは悪いことじゃないんだよ!」


 とはいえ、俺自身も攻めあぐねていることは事実である。

 というのも、思っていた以上にドラゴンガールの防御が固いのだ。あの鱗も見せかけではないらしく、中途半端な魔法では突破は困難だ。

 状況を変えようと思うなら火力のある一撃を叩き込むか、もしくは簡易結界に引きずり込んでしまうほかないだろう。


「ぐっ……!」


「もらったわ!!」


 自身の防御を信じて無理やり魔法の散弾を突破してきたドラゴンガール。多少の傷はついているものの、致命傷とは言えない程度だ。


 振り下ろされる龍爪の一撃。杖を差し込む暇もない。


 結局大した防御力を持たない簡素な防御陣しか展開できず、仕方なく俺はその攻撃を腕で防ぐ。

 身体強化で多少の防御向上があるとはいえ、やはり痛いものは痛い……!


「あはっ♪ やっと一撃入った! もー、お兄さんしぶといよぉ?」


「痛ったいなぁ……肉は……抉れてない、よかった。ったく、何度も言うが俺は後衛職なんだよ……」


 希少な素材のローブであるため、防刃に関してもしっかり機能してくれているようだ。衝撃はともかく傷に関しては心配はいらないだろう。


 しかし……まずいな。

 杖を構えながらドラゴンガールの一挙一動を注視する。


 何がまずいかと言えば、何よりも時間的な問題がある。

 というのも簡易結界を展開できていない以上、今俺がいるのはあのハムスターモドキが展開した結界の中。

 当然ながら宝石の騎士ジュエルナイトと同じ空間であるため、鉢合わせてしまえば俺の姿を見られることになるだろう。


 そうならないために作った簡易結界であるが、その発動を許さないガールと化しているのが目の前のドラゴンガールである。

 恐らく、俺が何かそれらしいアクションを起こすだけで先ほどのように攻めて来る。


 ……久しぶりにやるが、一か八かでやってみるか?


 このままの状態が続いても、宝石の騎士ジュエルナイト側の戦闘が終わればあのハムスターモドキが感知してこちらに来てしまうだろう。

 そのリスクを背負うくらいなら、ここで賭けに出た方がいい。


 気取られるなよ、津江野賢人……最初の基本を思い出せ……!


「いくぞっ……!」


 杖で地を削り、俺はドラゴンガールに向けて突貫する。

 ここからは時間と正確さ、何より演技力が重要となるぞ!!


「『我こいねがうは破邪の知恵。賢人の名の下に我が祈りを奉る』」


「っ……! 何をするつもりか知らないけど、何もさせてあげないんだから……!」


 必死に口を回しながら動くことはやめない。 

 先ほどまでの戦闘も俺自身にとってはかなりの負担であったが、それに付け加えてこんなことまでやっているのだ。難しくないわけがない。難易度なんてルナティック

も目ではない。


「『火、水、土、風、雷、光、闇。あまねく万物に宿る精霊よ。今一度我が下に集い給え』」


 何度も何度も杖を振るい、ドラゴンガールを追い立てる。

 そうだそっちだ、そちらに動け。そして今度はこっちへ逃げろ……!


 頭が熱暴走でも起こすんじゃないかと、そんなことを考えている暇さえない。

 少しでも狂えば、途端に違和感を持たれてしまう。それにはまだ早すぎるのだ。


 もっともっと、動け。考える隙を与えるな……!

 俺の言葉でかき乱せ……!


「『さあ御照覧在れ。これより披露する一撃は、我が友勇者の一撃なれば』」


「いい加減に……! そーゆーのやめてもらえる……!」


「グッ……!? 『人を思い、人のために歩み、人の未来を照らす勇者の、その一撃の再現なれば』……!」


「っ……!? おにーさん、やってくれたわね……!」


 さあよくここまでもった。

 最後の一辺。地を削った杖を振るい、描いた魔法陣に魔力を注ぐ。


「『行くぞ我が友勇者フィン。この一撃をもって、その証の証明を』!!」


 近接戦を仕掛けながら描き切った魔法陣。こちらから攻め立て、ドラゴンガールが描く陣の線上を常に動くよう誘導し、かつそのことを悟られないようにする。

 かなり難しかったが、俺はやり切ったぞ……!


 光を放つ魔方陣は既に俺とドラゴンガールの真下にある。今から逃れようとも、もう逃げられない。


「いったい、どんな攻撃を……」


「『必殺!!』 ……なんてな、『簡易結界』発動!!」


 その瞬間。

 俺たちは、俺が作った結界に飲み込まれるのだった。

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