息子との初めての一緒の狩猟
さて冬になって来ると植物に関してはほとんど取れなくなる。
魚や貝もシャンやシャオみたいな連中を除けば、あまり取りに行くやつは居ない。
真冬でも素潜りで魚を取ってくるのはすげえと思うがな。
そういうわけで俺は狩猟に出かけるわけだが、今日は初めて息子も一緒に連れて行く。
狩猟そのものをさせるというより同行させて、どういうことをしているのか知ってもらうのが目的だ。
「準備はできたか?」
「うん、大丈夫だよ父さん」
全身を覆う毛皮の衣類に革の長い靴と手袋に手製の弓と竹をあんで作った矢筒を背負った息子は見た目だけならもう立派な猟師のようだ。
念のためにボーラも持たせているがな。
俺もそういった装備に加えて縄や解体用のナイフをもってワンコたちと一緒に立ち上がった。
ちなみにワンコもここに来た時には子犬だったやつが、今でももう立派な成犬となっていて子犬も生まれてる。
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい、行きましょう」
俺と息子が出ていこうとすると双子が並んで手をふってくれた。
「いったらっしゃー」
「いったらっしゃー」
俺達は振り返って手をふりかえした。
「おう、行ってくるな」
「行ってくるね」
そしてワンコたちが各々ついてくる。
「よし今日もよろしくな、お前たち」
”わんわん”
ちょこまかついてくるワンコたちだが、こいつらが居なければ俺達が鹿や猪を仕留めることはかなり難しい、子犬は子供のいい遊び相手でもあるしほんとにありがたいぜ。
息子も犬に話しかけている。
「たのんだよ、君たちが頼りだからね」
”わんわん”
直接会話できる訳ではないものの、犬は人間がいっていることをある程度理解できる。
こっちも表情や仕草でなんとなく犬の思ってることはわかるようなきがする。
「今日はできれば猪じゃなくて鹿がいいな。
猪は結構危ないしな」
足の長い鹿にはボーラも効果が大きい。
それに比べると脚が短い猪には効果が小さい。
鹿や猪、狼もだが昼間はうつらうつらしてるので俺達は日が昇ってから準備してゆっくり集落を出る。
そして獣道や水場、泥浴びをするヌタ場、岩からミネラルがでている湯場などを鹿が集まりやすい場所の近くで寝ていることが多いからまずは足跡、食み跡の下見をしてからワンコたちと一緒に林に入る。
ワンコたちは最初はゆっくり匂いをかぎながら歩いている、が。
”わん”
とワンコたちが走り出した。
「よし、見つけたみたいだからついていくぞ」
「はい、おとうさん」
この時代は子供だからと言ってそんなに脚が遅いわけでもない。
そして俺は弓矢を息子は俺の後ろでボーラを構えて頭上で振り回し、鹿が追い出されてくるのを待つ。
”わんわん”
犬が吠え立てて鹿が追い立てられてくる。
「いまだ!」
「はい!」
鹿の姿が見えた時、俺は息子に鹿に向かってボーラを投げるように指示する。
”ひゅん”
といきおいよく飛んでいったボーラは鹿の前足に絡みついて、鹿は勢い良く転び、ころんだ鹿の首筋をワンコが噛んで仕留めてくれた。
俺は息子の頭をなでてやった。
「よしよし、よくやったぞ大手柄だ」
「ありがとうございます」
褒めて褒めてーとばかりに集まってくるワンコの頭も軽くなでてやったあと、鹿の首の頸動脈をナイフで切って血抜きをしつつ、水の中に投げ込んで冷やす。
十分冷えたら、二人で肩に担いで村に戻る。
「ただいまかえったぞ、今日の獲物は鹿だ」
双子がトテトテと走ってきた。
「とーしゃおきゃえー」
「とーしゃおきゃえー」
「おう、いい子にしてたか?」
双子は頷く。
「してたー」
「してたー」
「よしよし、いいこだそおまえたち」
俺は担いでいた鹿をおろして双子の頭をなでてやった。
「いいこー」
「いいこー」
それからイアンパヌや上の娘がにこにこしながら出迎えてくれた。
「これでしばらくのんびりできるわ」
「誰も怪我がなくって良かったです」
家に残った女たちは、獲物が取れるよう無事戻ってくるように祈ってくれるのだ。
気休めって言うなよ?結構大事だぜ。
「おう、こいつらも褒めてやってくれよな」
”わんわん”
「あなた達もありがとうね」
「ご苦労様、えらいえらい」
”わんわん”
今日は鹿肉を果実酒に漬け込んで焼いてみようと思う。
「多分こうすればうまくなるはずだ」
安いステーキ肉も料理酒に漬け込めばうまくなったりする、これはアミノ酸を浸透させるからだ。
まずはじっくり火を通して焼き上げた鹿肉の山葡萄酒漬けを食べてみる。
「うん、やっぱりそのままより断然うまいな」
「そうね」
そして山葡萄酒でじっくり煮込んだ鹿のスネ肉の煮込んだものも柔らかくなってうまかった。
「スネ肉って硬いけどこうして煮込むと美味しくなるのね」
「そうだね、姉さん」
下の双子には一口大に小さくまとめて細かく刻んだ鹿肉のミートボールだ。
念のためこれは酒はくわえていない。
「お前たちちゃんと手は洗ったか?」
俺が双子に聞くとコクコク双子は頷いた。
「あらったー」
「あらったー」
「じゃあこれを食べてみろ、手をだしてみな」
双子が出して手のひらに吹いて冷ました鹿のミートボールを載せた。
双子は迷わず口にそれを入れたハムハムと頬張る。
そして笑顔で言った。
「うまー」
「うまー」
大人たちが美味しそうに食べてるのも有って興味があったんだろうけど味にも満足していただけたようだ。
ワンコたちには新鮮な内臓を食わせる。
”わんわん”
犬には腸の中の半分消化された葉っぱや樹の皮などが大事なんだよな。
今日も無事に怪我なく過ごせてみんなで食事できたことをカムイに感謝しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます