夏の川は食料の宝庫だ・人類は何を食べて生き抜いてきたか

 雪解け水の季節が過ぎて夏になり川の水温が上がると川の生物も活発に動き回るようになる。


「よし、イアンパヌ、今日は川に魚を取りに行こう」


「ええ、行きましょう」


 こうして俺はイアンパヌと一緒に魚を取りに来ている。


 乳袋が女性に行き渡ることで女性でもさほど危険ではない魚とりなどができるようになったのは嬉しい誤算だ。


 例えば女性が腕を上げ下げしたり、左右に振ったりして衣服が動いてその布が乳首に擦れても痛くないとか、女性が走ったりした時に胸が上下に揺れて痛くならない、というのは女性の運動能力に大きく関わってるらしい。


 そして夏は魚などの海や川の食料源を最大に取れる時期だ。


 この時代はすでにモリやヤスによる刺突漁・釣り竿と釣り針などを使った釣漁・投網や仕掛け網、地引網などでの網による漁猟が行われているが川での漁は更に他の方法もある。


 暖かくなればこいふなあゆなまずうなぎなどの川魚や川エビなどが取れるようになるが釣りや投網の他に葦で作ったうけと言うものを沈めておく方法がある。


 現代では竹でつくったり、ガラスやプラスチックで作ったものなどが在るが使い方は皆同じで、うけの中にえさを入れ、魚が入れる口を下流のほうに向けて仕掛け、えさにつられた魚が中に入ると、出られない仕掛けになっている。


 小さい魚は餌だけ食べて出ていけるので小さい魚まで取ってしまう心配はない。


 このうけを夕方に仕掛けて、翌朝に取りに行くと結構中に魚が入っていたりする。


 早速昨夜沈めておいたうけを見てみると……。


「よしよし、ちゃんと取れてるな」


 中には大きな鯉が入っていた。


「今日は美味しいものが食べられそうですね」


 一緒に魚などを取りに来たイアンパヌも嬉しそうだ。


 どうやら今日の食事は鯉の煮物になりそうだな。


 一緒に沈めておいた木の枝を川から上げると川エビがいっぱい取れた。


 エビが夜寝る時にこういった木の枝などを巣にする習性を利用したのだが、ちっちゃい川エビがいっぱいいる。

 

 その他にも漁法としてはサポニンを含むムクロジ、エゴノキなどの実をすりつぶしたものや貝殻を焼いた灰などを流すことで魚がサポニンや灰汁にあたって浮いてきたところをとえらえたり、川や中州の端へ石や杭を並べて流れを誘導し、魚の留場をつくっておき、石を投げ込んで、魚の気絶したところを捕らえたりすることもできる。


 最も縄文時代の人間はあまり乱獲しすぎて魚が減らないようにしていたし、こういうやり方は現代では法律に抵触するのでできないけどな。


 あと、河口近くではしじみがよく取れるからついでにシジミも取っていった。


 貝は取るのは楽なんだが食える場所が少ないのが欠点だ。


 まあ、貝殻を焼いて灰にして畑に巻けばちょうどいい肥料になるけどな。


「しじみはだしが取れて美味いよな」


「ええ、小さくて食べづらいですけどね」


 俺達は笑いながら飯を食っていた。


 実のところ縄文時代の狩猟採集生活というのは長い人類の歴史でも最も食料が豊富な時代でも在る。


 土器の中に海水と取ってきた後さばいた鯉や川エビやしじみを入れたものを煮ながら食べていると俺は幸運だなとしみじみ思う。


 多摩川には秋になれば鮭や鱒が遡上してくるので其れまでは海や川の魚を取れば十分に食料は得られる。


 秋になればクルミ、クリ、ドングリ、栃の実などの堅果類も取れる。


 冬でも取ろうと思えば魚も取れるがまあ夏や秋などの比べると水に落ちたらやばいし、魚もとれづらくなるので、鹿や猪の狩りが主流になるが、一年中狩りをしなければならないのと比べれば大変さが違う。


 そして春になれば食べられる野草や山菜やアサリなどの貝が取れるからな。


 じゃあ遠い昔はどうだったかというと、まず現存する哺乳類の大部分の祖先である、原モグラは約1億年前に登場する、が、この頃は恐竜、恐鳥などの大型爬虫類の天下であり、原モグラは昼は木の根の下や土中に隠れ棲み、夜になってから起き出して、主に昆虫などを食べていたらしい。


 この原モグラからモグラとげっ歯類、要するにネズミがまず別れ、6500万年前に隕石の落下により急激な寒冷化と其れに伴う食糧の減少が起き、恐竜や大型爬虫類が絶滅して、恒温動物であり進化した恐竜でも在る巨大鳥類の恐鳥が食物連鎖の頂点に至った。


 こんな感じで原モグラたちが住んでいた北米やヨーロッパ付近では巨大鳥類がまず陸上を制し、原モグラは隠れ住んでいた、しかし、アジアから北米に肉食哺乳類が入ってくると巨大鳥類は駆逐された。


 マダガスカルやニュージーランドのように哺乳類が入ってこない島ではかなり最近まで生きれたが人間が入るとダチョウを除いて恐鳥はほぼ絶滅してしまったな。


 これは卵を食われてしまうからだったりする。


 その時北米では原モグラはげっ歯類に繁殖力などで負けて、餓死しそうになり、完全に地中に潜ったのが現在のモグラになり、原モグラのプルガトリウスは、するどいカギ爪を使って木に登り、果物や昆虫を食べて生きながらえた。


 この地上を追い出されたプルガトリウスが猿の祖先で猿は樹上生活をすることで果物や木の芽、昆虫などを食べ蛇以外に天敵となる危険生物がほとんどおらず、食料も不足しないで済む環境を手に入れた。


 さてここで問題が起こった、猿は力の強いボスザルにメスざるが付き従い、縄張り争いに敗れた猿は本来であれば餓死するのだが樹上を独占した猿は、縄張りを追い出されたら死ぬはずの弱い雄猿たちが、樹上には食料となるものがたくさんあるがゆえに餓死しなかった。


 だが、食料は得られるが子供はつくれず、ボスザルの縄張りの端っこで食料を掠め取って生きるのは、絶えずその場から追い出される可能性による多種のストレスにさらられることになり、そういった弱い雄ザルは闘争本能を抑止し、ボス猿に対する追従本能と親和本能を発達させし、さらに敗残者同士でお互いに依存し、縄張りを持たない敗者たちが生きるために互いに身を寄せ合うようになった。


 そして、ミラーニューロンを発達させし共感能力を得たわけだ。


 人類が持っている共感性による無意識というのは縄張り争いに負けた雄ザルによって培われ、それは遺伝子を通じてメスザルにも伝わっていって、やがてボス猿はそういった敗者の群れのオスたちを群れに引き入れた、こうして猿は群れを作るようになったわけだ。


 さて果実食が中心で大型化し当初はかなり広い地域に住んでいた類人猿だが、1000万年前ほどに始まったヒマラヤ山脈の形成にくわえておよそ800万年前から、大地溝帯付近の造山運動が盛んになりその東側の寒冷化と乾燥により、果物という食料を失って葉を食べる猿である旧世界猿との縄張り争いに敗れその生存権を大きく縮小させた、旧世界ザルというのはニホンザルのような猿だな。


 で、生き延びるために、小型化したのがテナガザル。


 逆に大型化戦略をとったのがオランウータンやゴリラ、ギガントピテクスなど。


 集団性を高めていったのがチンパンジーやボノボで人間も集団性を高めることで生き延びようとした。


 そんな状況で人間はチンパンジーと別れたのだが、理由は先祖返りにより木に登れなくなり果物の多い森の中から追い出されたのだな、これが700万年に現れた猿人だ。


 ここで問題となったのは一般の哺乳類はビタミンCを体内で生成する能力を持つが、果物を常に食べ続けてきた霊長目はその能力を失っていることだ。


 ビタミンCの不足により様々な弊害が起こったが、メスは早産が頻発した。


 そして早産により生まれてもすぐには動けず母親にしがみつく力も弱く、自立行動も遅い未熟な赤子をメスが抱きかかえて育てるために猿人は二足歩行が進んだらしい。


 500万年前のラミダス猿人の頃にはオスメスともに二足歩行が進み走れるようになっていく。


 理由はたどたどしい二足歩行では地上で肉食獣などに襲われた時には素早く逃げられないからだ。


 メスは森や洞窟で子守をして、オスは森や洞窟の外で食料を見つけてはそれを両手に抱えて急いで危険な生物のいない巣である洞窟に持ち帰るためにオスも二足走行を強いられたのだな。


 人間は二足歩行したから人間になったのではなく、足や尻尾で木をつかむことが出来なくなり、木に登れなくなったことで二足歩行を強いられて、やがて走るという動作を身に着けていったんだ。


 肉食獣の活動は主に夜だったか猿人は主に昼に活動していた。


 昼間に走れば当然体温が上昇する。


 全身で汗を書き、体毛が薄くなったのはこの頃かららしい。


 ちなみに汗というのを全身でかくのは人間と馬と一部のネズミだけらしい。


 基本的に哺乳類は寒い場所や夜などの気温の低い状況で活動するのが基本で昼間に走り回るのは例外中の例外だったりするんだな。


 当然この頃の猿人の食生活はとても貧相でよく滅ばなかったものだとすら思えるくらい毎日が餓死の危機にさらされていて、ビタミン不足や骨粗鬆により寿命はとても短かったらしい。


 人類700万年の歴史のうち、699万年以上は常に飢餓と背中合わせの生活だったのだ。


 さらに乾燥化が進んだ300万年前、その食料危機に対応して、猿人は2つに別れた


 頑丈な顎を持ち、草原のイネ科植物の茎や根などを木の棒で掘り起こして食べるように適応し、身体が大型で顎が発達したパラントロプスと、肉食獣の食べ残しを石で割って食べて脳容量を増やしたアウストラロピテクスだ。


 しかし、身体がでかく顎も強い頑丈型の猿人には、武器となる鋭い爪も牙もなく、素早く逃げることもできず、頑丈であっても肉食獣に襲われたらどうにもならない程度の力でしかなかったためアフリカでは150万年ほど前に絶滅した。


 オランウータンと同じ場所に住んでいたギガントピテクスは其れよりは長く生きられたが、ジャイアントパンダとの生存競争に負けてこちらも絶滅した。


 しかし同時期に生きていた原人は肉食獣の食べ残した、頭蓋骨の中の脳や、骨の中の骨髄を石を使って割ることでそれらを食べて生き残り、脳や骨髄を食べることで結果として自らの脳容量を増やし、道具を使うことが可能になって、石器による狩猟技術を手に入れた。


 そうして生まれた原人であるホモ・エレクトスは180万年ほど前にアフリカを出て各地に広がりアジアでは北京原人やジャワ原人として生活していた。


 しかしまだこの時点では高い狩猟能力は原人は得ていなかったので食料を得るのが大変だったのは変わっていないようで、主に骨髄や脳を食べていたのは変わらないようだ。


 現代人が豚骨や鶏ガラなどの骨髄スープを好きなのはこの時の名残らしい。


 さて人は洞窟に隠れ住んだことで、洞窟という湿った寒い環境に適応をしなくてはならなくなった。


 人はいつしか火を使う事を覚えた、火を使うことで今まで食べらなかったものも多少は食べられるようになったようだ。


 しかし、其れは完全ではなく洞窟は温度や湿度が高く、これによりさらに体毛が薄くなっていったようだ。


 人間は未熟児として生まれ、アフリカの草原を危険から逃げるために走り、やがて洞窟に住むことで毛のない猿になったわけだな。


 ちなみに発情期はチンパンジーには在るが人間にはない、これは人間はチンパンジーほど食料に恵まれていなかったことや湿気が多い洞窟生活にくわえ、洞窟生活による昼夜を問わない生活、栄養も不十分で死産や子どもの死が多発したことで、チンパンジーと同じでは種として残れないことにより発情期と言うものをなくして、多産ができる体質にしていったらしい。


 ちなみに哺乳類は多産だと思われがちだが双子、三つ子を産めるサル目はヒトだけらしいぜ。


 ホモ・エレクトスら原人は東アフリカから地中海沿岸の中東、ペルシャ湾岸からインド、スンダランド、中国までの沿岸部で約20万年前には各地に進出したネアンデルタール人やデニソワ人との生存競争に敗れて絶滅し、約7万年前に最後まで原人が残っていたスンダランドでもホモ・サピエンスとの生存競争に敗れて絶滅したらしい。


 さてその次にアフリカに50万年前に出現し、20万年ほど前にアフリカを出たのはネアンデルタール人やデニソワ人などの旧人だ。


 と言っても、現代ではこれ以前の人類である原人と現代人類に交雑はなかったが、ネアンデルタール人やデニソワ人とは交雑していたので、現生人類にとっては従兄弟のような存在と考えられてるけどな。


 彼は今までに比べればかなり精細な石器を作り、なついた狼やイヌを連れて、石斧や石槍で大型の象や野生の馬、牛、ヘラジカ、トナカイなどを狩って食べていた。


 彼等は氷河期には狩った獲物の毛皮を身につけることもしていたらしい。


 ただし革を鞣したり縫ったりという技術はなかったと考えられているけどな。


 彼等も原人と同じく世界中に広がったが、原人よりも内陸に住むことができた。


 これは狩猟により毛皮を手に入れることができたから、血を飲むことで塩分を補給できたなどの理由らしい。


 ただし、獲物が取れないときは牡蠣などの貝も食べていたし、狩った獲物の胃の中にある植物の木の実や木の枝や根も食べていたらしい。


 とは言え他の食料を補助的に取ることはあっても、基本的には狩猟を行い大量の肉を食べるというのがネアンデルタール人など食生活だったようだ。


 彼等が滅んだのは色々理由があるが鈍足な大型の動物は狩ることができても小型の動物は狩れなかったこともあるらしい。


 これはネアンデルタール人が手づかみで魚を取れるほど器用ではなかったかららしいな。


 さて次に出てくるのが現代人類だな。


 現代人類は何回かに別れアフリカを出てきた。


 まずは13万年ほど前、その次が7万年くらい前、最後が4万年ほど前だ。


 最初は狩猟を行っていたがやがて採取も併用して行うようになって、中国の揚子江では1万5千年ほど前から、簡単な農作が行われていたらしい。


 現代人類はデンプンの分解酵素であるアミラーゼを多く持っているのでイネ科の穀物や芋なども食べられ其れを育てることができ、魚をとるだけの器用さがあり、小型の素早い動物や鳥類を狩ることもできる。


 人類の長い歴史の中でも狩猟採集の生活は餓死とは割と遠い生活なわけだ。


 ご先祖様たちは大変だったようだし、来たのが日本の縄文時代初期でよかったと本当に思うぜ。

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