芋の芽が出てきたぞ、こいつは助かる

 さて、季節も移り変わって夏になった。


 そしてだいぶ前に俺がアパートの一回から持ち出した野菜を焼き畑の片隅に埋めたやつだが……。


「おお、芽が伸びてるな」


 サツマイモとジャガイモは芽を出して成長してくれている、と言うかジャガイモは芽が出ていたやつをそのまま埋めたわけだから其れがちゃんと伸びたというべきか。


 とは言えジャガイモはあんまりうまく育ってる気はしないな、ジャガイモはもともと南米の寒い高地の作物らしいから今のこの時代の関東だと暖かすぎるのかも知れないな。


「まあ、芽が出て育ってくれただけよしとするか」


 もう一方のサツマイモも原産地は南米だが割りと暖かい地域でも土地が痩せていても育つ繁殖力の強い作物で日本に入ってきた後は救済作物とされて広く栽培されるようになった。


 サツマイモと呼ばれるのも薩摩半島の痩せた土地のほうがむしろうまく育つ事によりそこから広まったからのようだ。


 この時代の関東は富士の火山灰であるロームと表土は黒ボク土というロームと腐植土の混ざったものなのだが、この土は、色も黒くて、良く肥えていそうな見た目をしており、保水性や透水性も良く、土の硬さも柔らかく、その為掘り起こすのが容易であることから他の土壌に比べて物理的に畑に用いるには向いているのだが、酸性度が高く、植物養分として重要なリン酸の吸着力も高いのでなかなか植物が育ちにくい。


 こうした環境でも育つのはススキで関東平野ではまずススキがたくさん生え、其れが枯れて土となりそこにやっと木が生えていったらしい。


 東日本では落葉樹のクヌギ、コナラ、クリ、シイ、トチといった固くて厚く、繊維質の多い落葉性の広葉樹が多かったが、西日本では照葉樹のシイ、アラカシ、シラカシ、ウラシロカシなどが多かった。


 落葉樹が多いということはそれだけ落ち葉が多く、木の実も多いのだ、其れにより木々は自分が落とした葉を栄養にして育っているわけだな。


 それはともかく酸性の土壌をアルカリにするためにはアルカリを混ぜればいいわけであるが、そのために行うのが焼き畑なわけだ。


 スンダランドあたりの熱帯から温帯にかけての多雨地域では植物が育つのが割りと早い、がスンダランドの火山性の土地では土壌はやせて酸性のため、作物の栽培に適していない、まあ熱帯性雨林というのはそもそも雨が多すぎて栄養もろともミネラルが流されてしまうので火山性の土地でなくても酸性土壌になるんだけどな。


 だから熱帯雨林に火をつけて燃やすことで焼畑農業を行ってきた。


 木を燃やしてしまえば木々を切ったり切り株を掘り返したりせずに開拓でき、木々が焼かれてできた灰が土が酸性であっても中和してくれたり灰が肥料となったりするし、土が焼かれることで土の窒素組成が変化し、熱により地中の種子や腋芽の休眠覚醒をおこなえ、 雑草、害虫、病原体の防除もできるといういい事ずくめの焼き畑で作物を育てることができたわけだ。


 最初の作物はおそらくバナナやサトウキビだったんだが、焼き畑を繰り返していくうちに、焼けた芋が食えることに気がついて、芋も栽培することにしたんだろう。


 しかし芋は生ではうまくないと言うか毒性がある、とろろを生のまま皮膚に塗るとかぶれるのは毒のせいだぜ、だから、芋を食うために焼いているうちに焼けた粘土が固くなる事に気がついて土器を作り上げたというところだと思う。


 で、氷河期が終わってスンダランドが海に沈んだ時にダブルカヌーに麻も含めたいろいろな食い物や生活道具などをもって海に出て日本までたどり着いたのが縄文人の祖先のひとつというわけだ。


 ただし、この時に日本にはすでに人が居た。


 氷河期にマンモスやナウマンゾウを追ってシベリア方面から樺太へ渡り北海道から本州へ渡ってきた狩猟民たちだ。


 彼等は磨製石器を使って丸木舟を作り、寒冷な地域では残りやすい潟湖などでのモリやヤスを使った漁労をするとともに、マンモスやオオツノシカなどを狩って食べていたわけだが、南から来た人間は元から日本に居た人間とは割とすぐに仲良くなったようだ。


 大型哺乳類が居なくなって食料に困っていた人たちと土地を失って流浪していた人達、どちらの数もさほど多くはないわけだから生き延びるために協力するのは当たり前ということも在るし、12万年ほど前にアフリカを出てシナイ半島からレヴァント地方、今のシリア・レバノン・イスラエルあたりに到達した集団は豊かなメソポタミア地域で過ごす間に、ことばと感覚器官との関係を豊かにしユーラシア大陸を東と西に分かれて拡散した。


 ここで東に向かった集団が旧石器時代から居る原始日本人で、西に向かった集団がクロマニヨン人だな。


 こうしたアフリカを早い時期から出た人間は長い氷河期に耐えるために我慢強くあまり怒ったりせず、協調性が高いらしい。

 

 話しが大幅にそれたが、とりあえず芋が育ってくれれば今後の食糧事情がより好転するかもしれないのは喜ばしい。


 一方他の野菜だが、人参は完全に駄目で腐っていた、人参は育てるのが難しいらしいからまあ仕方ない。


 葱と玉ねぎは芽が出たが玉ねぎは結局ダメだった。


 この時代の環境に玉ねぎは合わなかたんだろうな。


 一方、根っこを切って植えたネギはなんとか育っていた。


 ヒョロヒョロであんまり大きくなりそうではないが、化学肥料がない以上は仕方ないか。


 木を燃やした灰が肥料になってるとは言え現代の化学肥料をちゃんと巻いた畑とは栄養は比べ物にならんだろうしな、ねぎは肥料が沢山必要な作物なんだっけ?


 意外なことにかぼちゃはちゃんと芽が出てちゃんと育っていた。


 意外とかぼちゃは生命力が強いらしいな。


 うまくすれば秋にはジャガイモ、サツマイモ、ネギ、かぼちゃが食えるかも知れないぞ。


「これはかなり楽しみだな」


 育ったとしても今年は種芋をとっておかないといけないだろうが、そのうちたくさんの芋が育つようになるかもしれないぞ。

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