採取狩猟民には雨は天敵、なら雨具を作るしか無いね

 さて、縄文人のような採取狩猟民族にとっては雨は天敵だ。


 強い雨が降っているときは基本的に住居から出ないで一日を過ごす


 なんでかっていうと、この時代一度濡れてしまうと身体を温め直すのがとても大変だからだ。


 なんせフカフカで水を拭き取れるタオルも温かいお湯の溜まった湯船もない


 各家庭に温かい布団と毛布もない。


 一階の大家さんの部屋から持ってきた布団などは乳幼児が暖かく寝るために使われているからな。


 これで乳幼児の死亡率が少しでも減ればいいのだが。


 ちなみに竪穴式住居は換気と湿気対策のために入り口に扉はないし、天井部は換気口が開いている。


 そういう状態で濡れ鼠になったら、身体を温め直すのがどれだけ大変かはわかってもらえるだろう。


「ああ、ほんとやっちまったな」


 そういうわけでこの時代に雨に濡れるのはやばいんだが俺は今にわか雨に打たれてようやく木陰に逃げ込んだところだ。


 ちなみに縄文人は海や風の声を聞けるので俺みたいににわか雨に打たれて濡れ鼠になることは少ない。


 そもそもなんで俺が一人で雨に打たれているかというかというと、単純にそろそろ腹も減ったし貝でも取りに行くかと砂浜へ貝を取りに来て、調子に乗って貝を取りまくっていたら、一天俄にかき曇り、にわか雨にやられたというわけだ。


 春や秋は天気が変わりやすいから気を付けないといけなかったんだが、降られたものはどうしようもないので、とりあえず貝を入れた土器を抱えて、海岸から離れて一番近くにある木立に生えてる木の下に逃げ込んだわけだ。


「ぬおおお、超冷てえ」


 とりあえず冷たい風が強く吹いているわけではないので、上に来ているものを脱いで下着だけになった。


「ぬおおおお、ちょうさみぃ!」


 この時代平均気温は現代よりちょっと温かいとは言え、まだ春の気温では麻の褌一丁じゃ寒くて死にそうだ。


「くそぅ早くやんでくれないかな……」


 しかしすぐに止むような感じでもない。


 そういえば雨をやますために荒天の神(カムイ)に言う呪言みたいなのが有ったっけ。


 ”荒天の神よ、あなたにそれができるなら、この土器いっぱいに水を入れよ!

 あなたにそれができないならすみやかにどこかへたちさってくれ!”


 俺はイアンパヌに大きな呪言を教わったとおり唱えてみた。


 俺の切なる願いが届いたのか、単なる自然現象かは分からないが、しばらくして雨はやみ雲間に晴れ間が見えたかと思うと、やがて雲が立ち去って、あたりは晴れ渡った。


「はあ、助かった、おまじないも聞くもんなんだろうな」


 縄文人は厳しい自然や強い動物にひれ伏すのではなく敬いながらも対等に付き合うことで人間は自然に生きる者の一つとして考えている。


 こういう考えがあれば無駄に自然を壊すこともないのだろうな。


 俺は濡れた服を土器にかぶせて、褌一丁で集落へ戻った。


 イアンパヌに心配されつつ怒られたのは言うまでもない。


「いや、本当に済まなかった」


「本当に気を付けてくださいよ」


「今度からは一緒に行こう」


「そうしてください」


 まあ、なんとか謝って今度から貝や魚を取るくらいなら一緒に行くということで話はついた。


 濡れてる服は炉の周りで乾かすとして、俺自体は火にあたって手をかざしつつ、なんとか温めようとしたのだが。


「火にあたるより、こうした方が温かいですよ」


 とイアンパヌがぎゅっと抱きしめてくれた。


「大丈夫か?イアンパヌは冷たくないか?」


 と俺が聞くと。


「うふふ、私は大丈夫ですよ」


 と微笑んでいってくれた。


 その心遣いと身体がとても暖かく、彼女の笑顔が俺には女神に見えたのは言うまでもない。


 そして食事の後俺達は仲良くぴったりくっついて一夜を過ごした。


 とても暖かかったのは言うまでもない。


 それはともかく、交易などで長距離を移動したり雨続きになったりした時に雨を避けることができる雨具はほしい。


 頭にかぶる笠や蓑などは稲の茎で作るのが基本だった気がするが、稲はまだ量がないから水辺に生えてるはずの菅(すげ)かススキの茎である茅(かや)を使えばいいだろう。


 これは俺自身がやるより麻を編んで衣服を作れるイアンパヌに相談したほうがいいかな。

 早速俺はイアンパヌに相談することにした。


「イアンパヌ、相談が在るんだけど」


「ん、何かしら?」


「茅を使って頭にかぶるものと、体を覆うものを作って欲しいんだよ」


 彼女は不思議そうに答えた。


「頭にかぶるものと身体をおおうものですか?」


「ああ、頭にかぶるものは形はこんな感じで」


 と平べったい三角錐を木の枝で家の床に書いてみた。


「これが在るとどうなるのですか?」


「真夏の暑さを遮ることができたり、頭が雨に濡れるのを防いだりできたりするはずだ」


 麦わら帽子なんかは頭に直射日光が当たって日射病にならないように使うものだしな。


「身体をおおうものはこんな感じ」


 茅をある程度編んで其れを腰蓑や肩から下の上半身を覆うような形に作るのを伝えてみた。


「なるほど、多分大丈夫だと思うわ」


 俺が言ったことを何となく理解してくれた彼女は茅を編み込んでまず笠を作ってくれた。


 麻の紐を通して顎で止めれば原始的な帽子でもあり雨具でも在る笠の出来上がりだ。


「おお、いい感じだ、ありがとうな」


「えへへ、うまくできてよかった」


 続いて蓑を作ってみてもらった。


 こちらは服を作るのとさほど変わらないから、手間はともかく形をつくるのはそれほど苦労しなかったようだ。


「こんな感じかな?」


 俺は腰蓑を腰に巻きつけて前で紐で結び、上半身箕も肩からかぶって袖を通し胸の所でひもでしばって着てみた。


 流石にかさばるがいい感じだ。


 いまの服の上にこれをかぶれば防寒衣も役に立つだろう。


「うんうん、いい感じだよ、本当にありがとうな」


「いいえ、どういたしまして」


 こうして寒いときや雨が振りそうな時には笠と蓑を身につけることで防寒と雨対策ができるようになった。


 流石に嵩張りすぎて動きづらいのはどうしょうもないがな。


 手持ちの傘はまあ無理だろうということで最初から諦めた。


 片手が塞がるのは不便でも在るしな。

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