炬燵は中が暖かいものだと思っていたか?ええそうですよ。

 さて、アパートの大家さんの部屋から無断で持ち出した炬燵とその掛敷布団。


 現代なら間違いなく犯罪だが、この時代では在るものはみんなで使うものだからしょうがないね。


 ウパシチリの大きな竪穴式住居に置かれた炬燵には違和感を感じるが、炬燵の中に入ってぐったりこたつむりになってる様子を見ると、炬燵の魔力はいつでも変わらんのだなと思う。


「はう、この中は気持ちいいですね。

 ついこもりっきりになってしまいます」


 炬燵のせいで村長が引き困りになられても困るんだがな……。


「しかし、炎や煙が出ない木炭があれば、こたつの下に穴をほって、真ん中燃やした木炭を入れた土器を置けばもっと暖かくなるのにな」


 俺の独り言に反応してウパシチリがこたつから出てきた。


「!!。

 それですよ!」


 オレは首を傾げた。


「木炭ってわかるのか?」


 ウパシチリは頷いた。


「はい、木を蒸し焼きにしたものでしょう」


 ああ、そうか縄文人は肉を蒸し焼きにする技術は持ってたよな。


 其れであれば木炭も作れるのか。


 いきなり張り切ってこたつから出てきたウパシチりが宣言した。


「早速木炭を焼きにいきましょう」


 俺はその勢いに頷いた。


「お、おう」


 そうして俺達は村の男を何人か引き連れて村を出て丘の斜面に来ていた。


 このころの木炭は伏せ焼き方という方法だ。


 まあ、奈良時代以降に炭焼き窯で作られたような良質な炭は出来ないがとりあえず木炭が焼けるなら其れでいい。


 伏せ焼きは、ますゆるい斜面に幅2m、奥行き3mくらいの穴を掘り、掘った穴の地面を平らにして、そこへ乾いた雑草や松葉、小枝などの燃えるものを敷き、その上に丸木を重ね、その上に炭になる木を積み上げて、山側に節をくり抜いた竹の煙突を刺して回りを粘土で包む。


 機の上部にも乾いた枯草を載せて踏み固め、その上に粘土を厚く盛る。


 入り口に石を積み上げて焚口を作り、全体に土をかけて踏み固めれば木炭の焼成窯の出来上がりだ。


 そして燃し口に木を入れて、まず10時間以上燃やして、竹から出る煙が奇麗な薄い青紫になったら、空気の入る焚口と竹の煙突を塞ぎ、2日ほど置いて自然に温度を下げると木炭が出来上がる。


 出来上がった炭を見て俺は感心していた。


「へえ、ちゃんと木炭ができるんだな、大したもんだ」


 ニパッと笑うウパシチリ。


「ではでは、早速こたつの下に穴をほってみましょう」


 ウパシチリの言葉に頷く俺。


「お、おう」


 俺達はこれまた村の男に手伝ってもらい、炬燵の脚がちょうど乗っかるような大きさに深さ50cmほどの穴をほって、底を踏み固めた後、壁側を崩れないように粘土で固めてみた。


「こんなもんでいいかな?」


 こたつの天板と掛け布団を外して机部分だけおいて大きさが合ってることを確認したら、一度其れをどかし掘った穴の真ん中に土器をおいて燃やした木炭を入れて、炬燵をセットし直した。


 敷布団は使えないのでガマの葉で編んだ敷物を敷いてそこに座る。


「熱くなった土器に触るとやけどするから注意してくれよな」


「あっはい、そうですね」


 真ん中にある土器に触れないように慎重に掘りごたつの中に足を入れるとかなり暖かかった。


「はー、いいですね、これ」


 掘りごたつの暖かさに顔が緩んでるぞ、ウパシチリ。


「やけどには注意してくれな、本当に」


 まあしかし、かなり快適なのは事実だ。


「でもこれだとこたつに入ったまま寝られませんね」


「そりゃしゃあない、こたつむりに戻りたいときは、敷布団の上に炬燵を戻してくれ」


「そうですね、こんなに暖かいものだあることを神(カムイ)に感謝しましょう。

 そういえばあなたが居たあの建物はこの近辺の集落共同の祭殿にしようと思っていますがどうでしょう?」


 俺は首を傾げた。


「祭殿って?」


「祀りのときに必要な祭具をしまっておいたり、祭りのあとに男女が一緒に一晩過ごす場所にするのにいいのではないかと」


 要するに祭用の共用倉庫兼愛の巣ってわけか。


「別に其れはいいが、調理具をせっかく持ってきたのにまた戻すのか……」


「ダメですか?」


「いや、ダメじゃないがな」


 どうせ村に持ってきても祭りの時以外は使わないしな。


 調味料は竪穴式住居のほうが痛まないだろうからこっちに置きっぱなしにするが。


 普段から調理器具も調味料も俺ばっかり使ったら不公平だからしょうがない。


「ではそうしてもいいでしょうか?」


「いいんじゃないか?、他の連中も賛成すればだけどな」


「みんなは賛成してくれましたよ」


「もう話してたのかよ」


「ええ、みなあの建物とあなたがでてきてから、とても過ごしやすくなっていますから賛成してくれました」


「まあ、ならいいんじゃないか?」


「えへへ、ありがとうございます」


 縄文時代には共同で祭りを行う場所の近くには高床式の掘っ立て小屋が作られて、祭で仲良くなった男女が安全にちゃんと一晩を過ごせるようにと使われたそうだが、その走りがあのアパートだったりするんじゃなかろうな。


 とりあえず俺は俺の部屋からドライバーを探し出して、部屋の表側につけられた南京錠を止めるための、倉庫の入り口なんかによく使われてる金具をドライバーでネジを緩めて外して、俺のヘや以外も開けてみた。


 外側は南京錠だが内側は回すタイプの鍵になってるから、中にはいって他に人が入ってこれないようにすることはできる。


 事務所になってる所は転送用の電話機らしきものが在るだけでほかは何もなかった。


 物置になってる所には小さな桐の箪笥が有って開けてみると女性用着物や喪服が入っていた。


 しかも結構高級そうでは在る、俺に女性用着物の値打ちはわからんがな。


「そういえば大家さんがここは近くに住んでるおばあさんの物置だって言っていたっけか」


 レンタルスペースではなくわざわざ部屋を借りて物置にしたのはレンタルスペースをよくわからないからなのか家から近いからなのか住環境に近い場所にこだわったからか、その他にも大きな三面鏡や高そうな漆器や陶器の食器があるから嫁入り道具として持ってきたものの、旦那さんに先立たれて小さな部屋に引っ越した時に部屋に入らず、思い出の品で捨てられなくてここに持ち込んだってところかもなぁ。


 押し入れには布団や毛布、枕も入っていた。


「持ち主さんには悪いけどせっかくだからこの部屋は使わせてもらうかね」


 俺の部屋にあるノートパソコンとモニター、それとは別のDVDデッキやテレビ、窓用エアコンなんかは邪魔だから外に出してしまおう。


「あー、ネット回線と電気があればな……」


 別に高くはないがそれなりに使い込んだノートパソコンには愛着も有ったのだが、もうバッテリーもとっくに切れててただの箱にすぎない。


 とりあえずほとんど何もない事務所登録されていた部屋に布団を運んで、祭のよるに夜の営みをできる場所にしようかね。


 夏だと暑くてやりづらそうだが。


 俺の部屋にはまだ持ち出してない物がいくつか在るからmちょっと立入禁止にさせてもらおう。


 物置部屋は鏡をつかって身だしなみを整える部屋に使用する。


 鏡台には櫛や鋏なども入っていたしな。


 まあ、うまく使えるなら其れに越したことはないんじゃないかな。


 ついでに、二階の共用流しにおいてあった洗濯板と石鹸も持っていこう。


 石鹸の作り方は本に書いてあったが油の確保が難しいのが問題だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る