6-5 倒したい奴?

 透は青ざめていた。


「ゴッドアレス……」


 麻尋がその言葉を呟く。

 それに反応して透の表情が強張った。


「アレって透の事だよね?」

「……」

 

 透は冷や汗を流している。

 麻尋はそもそもゴッドアレスの正体が透であることを知っていた。

 それを弱みとして透をこき使っていたのだ。

 だが、ゴッドアレスとしてどんな振る舞いをしていたかは知らなかった。

 だからこそ麻尋にとって、京真の話は面白くて仕方がなかった。


「まさかこんな近くに宿敵がいるなんてね~」

「どどどどどうしよう麻尋!」

「どうしようかね~」


 予想外の展開を麻尋は面白がり、透は恐怖していた。

 透は中学時代、ゴッドアレスとしてタキアンで名を馳せていた。

 しかしその時代の事は、透にとって誰にも知られたくない黒歴史なのである。


 当時の透は荒れていた。

 髪は赤のメッシュを入れたショートカット。

 細い眉に鋭い目つき。

 服装は男物ばかり身に着け、一人称は俺だった。

 男勝りやボーイッシュではなく、粗暴で野蛮といった態度。

 京真がゴッドアレスを男だと勘違いするのも無理はなかった。

 麻尋が透を不良少女と形容するのもこれが理由である。


 しかし、透は生まれ変わった。

 普通の女の子になりたいと願ったのだ。

 それまでは全く興味の無かった恋までしたいと言い出した。

 親友である麻尋の協力を得て、一年かけて変わっていき、最終的に言葉遣いから容姿、動作まで別人になった。

 それから透は麻尋に頭が上がらないのだ。


「お願い麻尋、絶対秘密にしてよぉ……」

「どうしよっかな~」


 麻尋は抱きついてくる透を引っぺがし、反対側のソファに移動した。


「でもバレたらもう脅しに仕えないのか~」

「そうそうそう!私を脅したいでしょ!私を脅してよ麻尋!」


 少し考えこんでから麻尋は顔を上げた。


「よし決めた。私からはバラさないよ」

「やった!」

「でも弟子は取ってね」

「なんで!?」

「そっちの方が面白そうだから」

「そんな……」


 目まぐるしく変わる透の表情を見るだけでも楽しい麻尋は、これから起こる出来事を想像し、より期待感が膨らんだ。


「それで、京真君を私に紹介するのは無しでいいよ」

「え?いいの?イイ男探してるんでしょ?」

「だってこれは透にとってチャンスなの」

「チャンス?」


 グイっと顔を近づける麻尋に対し、透は首を捻る。


「普通の女の子を経験したいんでしょ?」

「う、うん」

「弟子を取る条件として恋人役になってもらうってのはどう?」

「それは、ちょっと、良い、かも……」


 透は京真と恋人同士になった姿を想像して顔を赤らめた。

 一方で麻尋は、罠にかかったウサギを見てほくそ笑んでいた。


「じゃあ明日から始めよっか。土曜日だし」

「明日から!?」


 こうして、透と京真の師弟関係は始まったのだった。

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