寒カッコいい渋川くん
ナガレカワ
第1話 転校してきた渋川くん
高校生といえばどんな年齢だろうか。大人になって振り返ってみると
キラキラしていた 一番楽しかった
青春
と言ったイメージのある年代であると思う。
しかし、実際そうだっただろうか。
部活での過剰な上下関係
熾烈な受験戦争
カースト
いじめ
なんとキラキラしていないワードであろうか。
さらに、高校生といえばアイデンティティの確立の時期であることから極端に人の視線を気にしたり過剰に背伸びをしたりといったことをしたのではないだろうか。
そんな時期に漫画のような正論を言う人がいたらどうだろう?
これはそんな人が現れた僕の話。
いつもと変わらない毎日。隕石は落ちてこないし、イケメンに生まれ変わったりもしない。
でも僕はそれでいい。のんびり生きているのも結構楽しい。そもそも高校生活の中でそんなに大量のことが起こっているとかえって大変だ。
ほどほどにのんびり生きていくのがいいのさ。
変わらない毎日が嬉しい。これは中学の時とは違う。
「転校生紹介するぞー」
先生がそう言って入ってきた。高校での転校生はかなり珍しい。クラスもざわざわとする。
女子か?男子か?
先生に続いて入ってきたのはメガネをかけたヒョロリとした男子。理系顔だな。
「三重県から引っ越してきた渋川です。よろしくお願いします」
と転校生は頭を下げた。
ニコニコ笑顔で優しそうだ。怖そうなタイプじゃないな。
転校生は俺の隣の席に座った。
「僕は渋川。よろしくね」
彼は自己紹介の時と同様爽やかな笑顔をこちらに向けた。
「俺は鳴川。こちらこそよろしく」
と僕が返すと彼は微笑みながら正面を向いた。
うん、なんだかなかよくなれそうなタイプっぽいな。
「では集会があるので体育館にみんな行ってください」
と先生が言った。
うちの学校では月曜日の朝には全校集会が開かれ、校長先生の話や軽い表彰を行う。つまり、月曜日の朝から眠い話を聞くために肌寒い体育館に行くのだ。だるい。
「渋川、一緒に体育館行こうぜ」
というと渋川は
「ありがとう。よろしくね」
と答えた。やはりいいやつそうだ。
体育館に行くまでに渋川とあと友達の山川、広崎と色々な話をした。
どこ出身なのか、なんの部活に入っていたのか、前の学校はどんなだったか
会話の種は尽きなかった。
話して見ても最初の印象は変わらない。よかった、仲良くなれるタイプだ。
体育館に差し掛かる渡り廊下では体育館裏が見える。そこはいわゆる不良の溜まり場になっていて普通の生徒はあまり近寄らない。
タバコを吸ってようが、喧嘩が行われてようがある程度は無視である。
そうじゃないと飛び火がくる。
だからあんまり体育館裏は見ない方がいいぞと言おうとした。
するとどこからともなく
「タバコを吸ってはいけないよ。タバコは20歳になってからしか吸ってはいけないんだから」
という声が聞こえた。
何言ってるんだよ。無視すればいいだろこんなの。
みんな無視してんだよ、分かれよ。
あぁやって注意すると絡まれんだよ、なぁ渋川、と言おうとしたがびっくり。発言しているのはなんと渋川だった。
お前なんかい!!
「なんだてめぇ?」
と古臭いセリフを吐き、めつきの悪いヤンキーが顔を上げる。
あぁ、もう。やばいって目つけられるって。
俺は慌てて
「すみませんでしたー!」
と言いながら渋川を連れて逃げ出した。
逃げ出し遠くまできたところで渋川は、
「なぜ謝るんだい?何も悪いことをしていないだろう。ああいう校則の無視だけでなく、法律に関わることはしっかりと言ってあげないと彼らのためにならないよ。彼らの体も悪くなるし」
と渋川は真顔で言った。
いや、それは知ってるけど。
よく漫画みたいな寒いセリフを真顔で言えるな。寒すぎる。イタい。
もはやこれじゃ、渋川じゃなくて寒川じゃねーか。
「ああいうのは無視した方が身のためだって。あとで反撃とかきたりするから」
と俺が熱弁しても渋川には届いている様子がない。
なんでだよ、普通わかるだろ。この年になったらこういうのは無視しといたらいいかなみたいな空気っていうの?
暗黙の了解みたいなのあるだろ。
まあでも高校生にもなって初対面のやつに正論はけるやつも珍しいけどさ。
僕の中での渋川は、ちょっと変わったやつ扱いとなった。
そしてあまり関わりたくないやつにもランクインした。
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