第五章 乙女ゲーム編
プロローグ
彼女にとってその兄は全てだった。
兄さえいれば良かった。
他は何も要らなかった。
他人に興味がなかった。
彼女はひとりぼっちになってしまった。
彼女の前から兄が消えた……文字通り完全に。
油を浴びて死んだ兄の死体は何も残らなかった。
骨すら残らず……完全に消滅した。
消えて。消えて。消えて。
ありえない。
油を浴びて何もかもが消滅するはずがない。
どんなに熱しられた油だろうとも、一瞬で何もかもを消せるわけがない。
彼女は理解する。直感的に察する。断言出来る。
兄はまだ居ることを……遠い場所に兄がいることを。
「ふへへへ。待ってて?お兄……」
彼女は……天才だった。
■■■■■
2XXX年。
世界は変わった。
空を自由に人が飛び回り、地球は鉄に覆われ、環境は最もきれいな状態となる。
発展し続けた科学は地球から人間以外の生物を絶滅させた。
犬、猫などのペットとして愛用されていた動物でさえ。ペットの役割を果たしているのはロボットだ。
2022年より世界は異常なまでの速度で成長を続けていた。
既に人間の総人口は1000億を突破している。
子供が培養液の中より生まれるようになってから出生率が増加したのだ。不老不死の研究ですら完了し、金持ちの人間たちは不老不死とさえなった。
発展し続けた世界。
それを支えたのはたった一人の少女だった。
「あぁ……」
不老不死となり、『あの日』から一切衰えない体で……彼女は感嘆の声を漏らす。
「ようやく出来た……」
この世界は一つじゃない。
多元宇宙論。
彼女はパラレルワールドを観測する。
彼女は到底たどり着くとは思えないほど遠いパラレルワールドへの行き方を確立する。
何十、何百年と言う歳月を掛けて彼女はようやく成し遂げた。
「今いくよ……お兄」
彼女は恍惚とした声を漏らし……武装したその体でパラレルワールドへと向かう機体へと飲み込む。
「大好きだよ……お兄」
執念の怪物が世界を飛び立つ。
たった一人の少年を追いかけて……一人の少女が世界の壁を超えた。
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