第16話

「ふむ……(頑張っているなぁ……)」


 僕は案内された館の最上階の窓から庭の方で声を張り上げている第五皇子を眺める。

 今、庭の方には僕が転移で運んできたたくさんの人や物が置かれている。


「そうですね」

 

 僕と同じく庭の方を眺めているレインが頷いた。


「ありがとうございました」

 

 レルがレインに向かって深々と頭を下げる。


「別に気にしなくて良いですよ。私はアンノウン様のために一番となることを

しただけに過ぎませんから……ですが、助けられたと思ったのでしたら……」

 

 ピッタリと僕の方にくっついていたレインが僕のもとからレルの方へと向かい、耳元にまで近づく。


「アンノウン様に軽々しく近くな」

 

 そして、耳元でボソリと……言葉を呟いた。

 レインってばために怖くなるよね。なんでレルが僕に近づくのを辞めるように要求しているんだろう、レインは。


「は、はい……わかりました」

 

 レインの言葉にレルが頷いた。


「パパ……」


「む……?(はい。なんでしょうか)」

 

 僕に肩車されているニーナが僕のことを呼ぶ。


「なんでも無い……ただ呼んだだけ」


「左様か……(あぁーそうですか)」


 ニーナの言葉に僕は特に何も考えること無く頷いた。


「アンノウン様」


 いつの間にか再び僕の隣に戻っていてピッタリとくっついているレインが僕に話しかけてくる。


「む……?(はい。なんでしょうか?)」

 

「アレイスター帝国領を貴方様に捧げます……これからここをどうなさいますか?」


「別に我は領土など求めておらん。我は気まぐれで魔族を滅ぼすだけだ(……ん?別に僕は領土なんて求めていませんよ)」

 

 領土なんて貰っても管理なんて出来ないし、活用することも出来ない。

 ただただ持て余すことになるだけだ。欲しかったら別にいつでも手に入れる事はできるしね。


「だが、我を思い、行動したことは称賛に値する。大義であった(ですが、わざわざ僕のためにありがとうございますね)」

 

 僕は僕のために行動をしてくれたレインの頭を撫でる。


「ふへへへへへへへ」

 

 それを受けてレインがこれ以上ないまでに頬を緩めて、小さな笑い声を上げる。


「むぅ……」

 

 何が気に食わないのか僕の上のニーナが不満げに僕の頭をボンボコ殴ってくる。結構痛いから辞めてほしい。

 ……痛覚切っとこ。




「……良いな」



 ん?

 僕は少し離れた場所に立っているレルの小さなつぶやきを聞いて首を傾げる。

 一体何が『良いな』なのだろうか?……そもそも誰が羨ましいのだろうか……?僕?レイン?ニーナ?第五皇子?

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