第19話

「クソッ……なんなんだよ、あいつは」 

 

「……いてぇ、いてぇよ……」

 

 とあるスラム街に建てられた廃墟の中、そこに強面の男たちが集まっていた。

 彼らは孤児院へと借金を取り立てに行っていた奴らである。

 孤児院から撤退した彼らは適当なところに姿を隠し、休養をとっていたのだ。

 そんな時。




「死んで」

 

 


 真っ赤な華開く。

 

「ハ?」

 

 腕が潰され、苦しんでいた男の頭が潰れる。

 血が地面を彩り、体の倒れる鈍い音が響く。


 ピチャ……ピチャ……。

 

 血の垂れる棍棒を持った一人の……小さな、小さな少女。


「お、お前が……な、なんで!?」


 強面の男の一人が驚愕に叫ぶ。

 そこに立っていた少女、それはニーナで間違いなかった。


「うるさい」

 

 ニーナは棍棒を振るう。

 

「あがっ!?」

 

 凄まじい勢いで振るわれた棍棒は強面の男の顔を歪める。

 鼻は潰れ、眼球が地面を転がり、割れた頭蓋骨からは血と脳が溢れ出す。

 

「死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで」

 

 壊れた機械のように。


「死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで」


 狂った怪物のように。


「死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで」


 殺す理由を手に入れた一人の人間のように。


「死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで」


 ニーナは呟き嗤い、棍棒を、死を無邪気に純粋に振り回す。


「パパに迷惑をかけたやつは、パパを侮辱したやつは」

 

「ァ」

 

「死んで」

 

 ニーナの振るう棍棒が最後の一人の頭を潰す。


「……?」

 

 棍棒を掲げたニーナは首をゆっくりと傾げる。


「なんか力が上がっている……?パパのおかげかな。ふへへ。パパぁ」

 

 ニーナは無邪気な笑顔を浮かべる。

 血に濡れたその表情で。


「パパ、見てて。私はちゃんとやり遂げるから。……組織ごと潰さないと」


 独りよがりの思いは加速し、堕ちていく。

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