第13話 想いが更に膨らむ
――奏視点――
ついに十九時になった。
私は"NEO"さんの、橋本君の生配信を見始めた。
金城オーナーも、佐々木監督も、野原マネージャーも自分のスマホを使って橋本君の生配信を見始めた。
すると、画面に橋本君が映し出された。
あれ、髪整えてる?
目元を隠す位伸びていた前髪を切っていて、すごくさっぱりした好青年になっていた。
何ていうか、FPSの大会を優勝した時の彼がそのまま大人びて成長したって感じだ。
ああ、やっぱり格好いいな。
橋本君が喋る前に、コメント欄はとんでもない事になっていた。
――"NEO"おかえり! お前を待っていた!
――何故だ、何故スパチャ投げられないんだ!!
――何か緊張してそうなのうけるwwwwwww
――NEOさんおかえりなさい、愛してる!!
愛してる?
このコメントしてるの、女かな?
だったら全力で戦争する所存だよ。
男の子だったら……どうしよ?
『えっと、お久しぶりです。"NEO"です。ちょっと理由があってご無沙汰してました。本当にごめんなさい』
――表情ひきつってるwww
――かなちゃんの事も気になるけど、まずはお前何してたのか教えてくれよ。俺、ずっと待ってたんだよ!
――スパチャを投げさせろ、投げさせてくれぇぇぇぇぇぇ!!
――↑必死かwwww
もうコメントの流れが凄くて、私も見ていると一瞬で流れてしまってコメントは四つまでの把握が精一杯だ。
やっぱり、"NEO"さんは今でも根強い人気なんだなっていうのがわかる瞬間だった。
『えーっ、僕の事について気になる人が多いみたいなので、とりあえず先にそちらの説明をしたいと思います』
そこで橋本君は、自分に起こってしまった不幸を説明した。
大会優勝翌日、現地の強盗に腕を刺されてしまい、現状でも後遺症が残っていて右手をまともに使えない事。
好きなゲームすら奪われた事で最近まで絶望していて、最初の頃は何度か自殺を試みていた程酷かった事。
そして、優しい表情で私と出会った事で絶望から抜け出せて、今は新たな挑戦をしている事。
『僕は桜庭のおかげで、人生に希望が持てました。その挑戦は後程話します。とにかく、今僕がこうやって元気に前を向けているのは桜庭のおかげです。ありがとう』
私は気が付いたら泣いていた。
好きな人に、ありがとうって御礼を言われたのが嬉しかったから。
ただただ私が勝手に橋本君に恋をして、勝手に世話を焼いただけなのに。
彼は優しく受け止めてくれて、御礼を言ってくれたんだ。
本当に嬉しかった。
そしてコメント欄も本当にすごかった。
――そんな事ってあるかよ……
――ゲームできなくなった位でそんな風になるか普通
――↑お前、惚れた女をNTRされた事を想像してみろよ……
――↑↑良い例え
――かなちゃん、NEOを復活させてくれてありがとう!! もうあのプレイが見れないのは残念だけど、生きててくれてよかった!
――右手支援スパチャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
何か、スパチャ中毒者がいるんだけど……。
『では本題に入ります。今回の件は、まず彼女が圧倒的に被害者です。その証拠も今日手に入れました』
――証拠ですと!?
――仕事早すぎるだろぉ!?
――気になる気になる
――はよはよ(by かなちゃんLOVE)
『会話には加害者の名前が出ているので、念の為そこだけ編集しました。ちなみにあまりにも悪質だったので警察には明日辺りには提出します』
――えっ、警察に、提出?
――そんなにやばい連中だったのか?
――気になりすぎて全裸になりました
――↑服着ろ
――スパチャ投げさせてぇぇぇぇぇぇ!!
『では、こちらが証拠の音声データです。しっかりと聞いてください』
そして、橋本君は音声データを再生した。
ガヤガヤと周囲の声がしたけど、しっかりと小敷谷先輩らしき声が録音されていた。
しかしその話している内容は、私が想像していたものより遥かに酷いものだった。
私に振られたという事実を受け入れたくなくて、私に関するデマを週刊誌に流したり。
どうやら他の女の子も被害にあっているらしく、強姦紛いな事をしている事実。
こんな話が下種達の口から発せられていた。
確かにこれはあまりにも悪質過ぎるから、警察に通報する判断は正解だね。
コメント欄もドン引きしているようなものが沢山書かれていた。
――うっわ
――うっわ
――うっわ
――ひくわぁ
――これ、冗談抜きで犯罪じゃないか。かなちゃんに対する仕打ちも酷いが、それ以上に女の子に対する扱いがやばすぎる。こういう奴は間違いなくエスカレートして取り返しのつかない犯罪に繋がる。絶対に通報汁
――やってる事犯罪だから、名前の編集いらなくない?
――↑多分未成年だから、念の為編集したんじゃね?
――↑↑未成年の時点でこの考えって、世紀末過ぎっしょ
冗談抜きでやばかった。
私ですらドン引きだ。
というか、仮に強引に押し切られてたりとか外堀を埋めるような形で、強制的に付き合う形に持っていかれていたらと思うとぞっとする。
小敷谷先輩とその仲間たちに…………。
かなり怖くなってしまった。
音声データの再生が終了し、橋本君は話し始める。
『これが真相です。そして、桜庭を身勝手な理由で陥れようとした加害者を許すわけにはいきません。恐らくこの後桜庭が生配信すると思います。それと多分僕の配信も聞いている筈なので、この場をお借りして言います』
――おっ、何を言うんだ?
――もしかして、かなちゃんに愛の告白か!?
――やだ、俺達のかなちゃんを盗らないで!!
――↑キモイ
『桜庭、あいつに遠慮はいらない。チーム総力をあげて徹底的にやってしまえ』
怒りがこもった鋭い視線で、まるで私の目を見て言っているような錯覚に陥る。
ああ、私はこの人を好きになってよかった。
今、私の初恋はだんだん気持ちが大きくなっていき、胸の奥で破裂しそうな位苦しい。
橋本君、私は今以上に貴方にこの想いを伝えて振り向かせるから、覚悟してね?
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