第9話 桜庭と秋葉原でお買い物
「とりあえず橋本君、どのゲームでプロになる?」
「……うーん、そうだなぁ」
桜庭の撮影が終わった後、僕達は秋葉原にある家電量販店のゲームコーナーに来ていた。
「今e-sportsとしてにぎわっているのが《ストリート・デストロイヤーV》と《ギルティ・ヒューマン》の二つだよ」
「ふむふむ、この二つの違いは?」
「《ストリート・デストロイヤーV》、略して《デスV》は何となくわかると思う」
「そうだな、3の時の世界大会の"背水の陣の逆転劇"はかなり有名だから知ってる」
《デス3》の世界大会の動画なんだけど、日本人初のプロゲーマーが見せた体力が少ない状態で放った逆転劇。
あれは本当に見ていて爽快だった。
「なら話は早い! あれをグラフィック良くした感じだよ!」
なるほど。
言葉で表すのはなかなか難しいが、一つの行動全てに意味があるように見えて、堅実に相手の体力を減らしていくような感じか?
「じゃあこちらの《ギルティ・ヒューマン》は?」
「これは《コンボゲー》って言われてるよ!」
「こんぼげー?」
「そう! ゲーム展開がとにかく速いしキャラクターの動きの速度が《デスV》よりも速い、そして攻撃が当たったらコンボを決めて大ダメージを狙っていくゲームだね!」
「……全く想像できん」
「だよねぇ! 実際動画観てみる?」
「うん、そうする」
桜庭はスマホを取り出してyoutubeを開き、動画を見せてくれた。
動画は対戦動画で、見てみると確かにキャラの動作が速い。
二段ジャンプに空中ダッシュ、そして体力を半分まで削る位のコンボ。
うん、何やっているかまだ理解できない。
こりゃ触ってみないとわからんな。
「うーん、わからんから二つとも買うよ」
「えっ、マジ!?」
「マジ」
「は、橋本君? ご予算は?」
「プロ活動していた時の給料と、桜庭が観てくれていた大会の優勝賞金をそのまま貯金しているから、ざっと二百万位はあるよ」
「にひゃっ!?」
美人な桜庭が、面白い顔をしていた。
こいつもグラビアのギャラとか給料あるんだから、それ位あっという間に貯まりそうな気がするけどね。
僕は《デスV》と《ギルティ》の二本を手に持ち、ゲーム機も併せて購入。
さらに桜庭にお勧めしてもらったアーケードコントローラーを購入した。
押してもあまり音が鳴らないタイプだから、自分の部屋の隣にいる咲奈には音で迷惑は掛からないだろう。
……こういう時に右手が使えないっていうのは不便だな。
滅茶苦茶重い……。
左手があまりの重さに悲鳴を上げているが、今日すぐにやりたいから絶対に持って帰りたい。
テレビに関しては父さんが売り払おうとしていた三十インチの液晶テレビがあるので、それをありがたく頂戴した。
テーブルはないから、それも買わないとなぁ。
それにパソコンだ。
パソコンも情報を集めたりするのに必要だから、今日絶対に買っておきたい。
桜庭にお願いして、ゲーミングPCを取り扱っている専門店に案内してもらった。
そこで性能を吟味して、四十万強もするパソコンとデュアルモニターを購入、後日郵送してもらう手筈を取った。
そしてその専門店ではゲーミングテーブルとチェアーも売っていたので、こちらも購入してパソコンと一緒に届くようにした。
さらにさらに、念の為にゲーム配信用にヘッドセットとマイクも購入。こちらも一緒に届けてもらうようにした。
「……橋本君、豪快にお金使うね」
「まぁこれくらいは必要でしょ?」
「そうだけど、数時間で百万円近く、しかも現金でぽんって払うのにはちょっと引いた」
「お金は使う時には使わないと、勿体ないでしょ」
「そ、そうだけどさぁ……」
滅茶苦茶ドン引きされてるんだけど。
でも、本当桜庭には感謝しかない。
桜庭に出会わなければ、僕は今こういう風に前を向いていないだろう。
そして彼女の頑張りを知る事も出来た。
一途に僕の事を想ってくれていて、チームの為に身体も張っているし努力もしている。
こんなに素敵な女性がいるなんて、知らなかった。
こうして買い物にも付き合ってくれているし、僕も頑張っている姿を見せないとな。
「えっと……」
桜庭が何故かもじもじしている。
そういう仕草が本当に可愛らしくて、ついつい凝視してしまう。
「は、橋本君?」
「ん?」
「えっと、何でそんなに私を見てるの……?」
「ああいや、桜庭は可愛いなって」
「っ!? ごほっごほっ!!」
「桜庭!?」
桜庭がむせた。
しかも結構盛大にむせている。
「橋本君がストレートに褒めてくるから、超びっくりしたんですけど!?」
「あぁ……嫌だった?」
「嫌じゃない! 驚いただけ!」
「そか、ならよかった。うち、妹がいてね。小さい頃から妹にちょっとした変化があったら褒めないと怒られててさ。それが癖ついているみたいだ」
「ふーん、つまりお世辞って事?」
「いや、本心だよ。桜庭は可愛いよ」
「うぅ、好きな人にストレートに褒められるの、胸が苦しすぎて死にそう……」
桜庭は悶え始める。
むせたり悶えたり、忙しそうだなぁ。
桜庭は僕の事を好きと言ってくれているが、僕の気持ちはまだ桜庭に向いていない。
確かに気になる女の子ではあるんだけど、今はまだ自分の事で手一杯なんだ。
色恋は彼女には申し訳ないけど、まだ先だと思う。
……まともに話して二日でこれだから、意外とすぐに篭絡されてしまう気もするけど。
「なぁ桜庭」
「……どうしたの?」
「ありがとう。桜庭のおかげで、僕は前に進む事が出来た。本当に感謝の言葉しかないよ」
「どういたしまして! 私もいきいきとした"NEO"さんを間近に見る事が出来て、すっごく嬉しいよ」
「今度御礼をさせて欲しい。勿論桜庭に時間があったらだけど」
「いいの!? じゃあ早速お願いしてもいい?」
「いいよ、僕に出来る範囲であれば」
「じゃあ私と一緒にゲームの特訓してください!」
「えっ?」
てっきり飯を奢るとかそういうお願いかと思った。
でも違っていて、ゲームの特訓ときた。
「多分橋本君は格ゲーがわからないと思うから、私が持っている知識を橋本君に授けます! 代わりに橋本君は、私にFPSの特訓をしてください! 橋本君のようなプレイが出来たら、今以上に活躍できるから」
「……そんなのでいいの?」
「全然いいよ! むしろ私にとってはご褒美です!」
「ご褒美って」
嬉しそうに言う桜庭の様子を見て苦笑してしまった。
表情がコロコロと変わる、面白い女の子だ。
「で、橋本君も格ゲーある程度出来るようになったら、私も対戦相手としての練習になるから!」
「そっか、桜庭も格ゲーチャレンジする予定なんだっけ」
「うん、橋本君と一緒のゲームをするんだ」
本当にこの子は、僕の事が好きなんだと表情を見てわかってしまう。
心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「……それが御礼になるのなら、喜んで」
「やった! おうちデートだね!」
「デート……になるのか、これ?」
「なるなるっ! 私達ゲーマーにとってはね!」
そして、彼女は僕の同志でもある。
本当に素敵な同志を見つけた幸運の持ち主だよ、僕は。
「まぁ、デートかは置いておくよ。僕は早くゲームを上手くならないとだし」
「えぇ、置いておかないでよぉ!」
「はははっ」
僕と桜庭は一緒に帰宅した。
ゲーム機本体とゲームソフトが入った重たい袋を、左右二人で持ちながら。
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