第3話 溢れてしまう敵意
――奏視点――
私は桜庭 奏。
今はプロゲーマーをしていて、活動は二年目になる。
私がこうやってプロゲーマーになれたのも、目の前にいる橋本君こと"NEO"さんのおかげだ。
何故私がプロゲーマーになったか。
実は私は幼少期から難病にかかっていて、中学一年の時に余命半年と宣告を受けてしまっていた。
私は絶望し、無気力になっていた。
その時ふと見ていたyoutubeで急にオススメで上がってきた動画があった。
『最年少プロゲーマー"NEO"が率いるチームが、世界大会で見事優勝!!』
プロゲーマーという言葉は何となく聞いた事あったけど、実際にどのような人達なのかは全く知らなかった。
私はその動画を好奇心で見る事にした。
そして一瞬で魅了されてしまった。
大勢の観客に囲まれて、スポットライトが当たったステージでパソコンのディスプレイに向かってゲームをしていた。
そのゲームは
ゲームの名前は『カウンター・デス・ストライカー』というもので、ルールはテロリスト側と政府側に分かれ、テロリスト側は政府側の陣地に爆弾を仕掛けて一定時間死守、守って起爆させたら勝利。
政府側はテロリストを排除するか爆弾を発見して解除したら勝利、というものだった。
当時はなかなか物騒なゲームだなぁと思っていたけど、不思議と釘付けになっていた。
『さぁ、まずは"NEO"率いる"チーム・マトリックス"がテロリスト側だが……おっと!! "NEO"が開幕ダッシュをかましていくぅ!』
『"NEO"はいつも通りAK-47を手にしていますねぇ。この銃は薄い壁だと弾が貫通する特性を持っていますからね』
『となると、この決勝戦でも人力チートツールを見せてくれるでしょう! あれは神業としか言いようがありませんからね!』
『はい、まだ十四歳なのにあんな事が出来るとは……末恐ろしいですね』
ここで動画のカメラは"NEO"さんを写す。
私と同い年で、とてもキラキラ輝いていた。
後々わかったけど、どうやらこの時点で私は彼に一目惚れをしていたんだ。
『さて、このルールは死亡するとリスポーンなしですから、通常なら死なないように立ち回るのですが、"NEO"はお構いなしに突撃だぁ!!』
『いやぁ、正気の沙汰じゃありませんね』
実況の人がゲームの内容を解説してくれたので何となくわかったんだけど、"NEO"さんの動きが訳分からな過ぎて理解するのが大変だった。
でもその後、彼の凄さがわかってきた。
突然彼が操作しているキャラが、壁の方を向いて銃を発砲した。
すると壁の遥か向こう側にいた政府側のキャラクターが撃ち抜かれて倒れたんだ。
『出たぁぁぁぁぁぁ!! "NEO"お得意の壁越し撃ち!! 本当に彼はゲーム世界に干渉出来てるんじゃないか!?』
『本人は「音とか相手の行動を読んで弾を据え置くように発砲している」とか言っていますが、普通はそんな事出来ませんよ』
『普通じゃないから、今大会は何度も対戦相手チームからチートジャッジが入りましたからねぇ。まぁチートツールは一切使ってなかったという判定でしたが!』
『流石人力チートと言われ、映画マトリックスの救世主"NEO"を名乗る事だけありますね!』
彼がやっている、壁に向かって銃を撃っている行為はどうやら相当異常なプレイだっていうのがわかった。
六人いる相手が徐々に倒れていく。
勿論彼一人だけが活躍している訳じゃない。
彼は常に敵の進路をふさぐように味方に的確な指示を飛ばしていたんだ。
まるで相手の動きが全てわかっているかのように。
――そして、五本先取というルールの中、相手に一本も取られる事なくストレートに勝利して優勝したのだった。
『凄い、凄すぎる!! FPSにおいて日本はそれほど強くない後進国ですが、ついに日本人チームが優勝を収めました!!』
『……ああ、凄いですね。ちょっと私も感動してますよ』
『FPS強豪国のアメリカのチームをストレートで打ち破り、王者に君臨したのは"チーム・マトリックス"!! 本当に、本当に日本の救世主となってくれました!!』
『FPSのみならず、e-sportsも後進国の日本ですからね。これをきっかけにe-sports先進国の仲間入りをしてもらいたいものです』
表彰式で私と同い年の男の子が、優勝トロフィーと百万ドルと書かれた板を持って笑う。
その姿がとっても眩しくて眩しくて、それからは"NEO"さんが出ている動画、彼自身のチャンネルの動画を片っ端から視聴していた。
そして、私はいつか同じ舞台で彼の隣に立ちたいと思うようになっていた。
「ねぇ、お母さん」
「……どうしたの?」
「私ね、夢が出来たの」
「夢? どんな……夢なのかしら」
お母さんの目に涙が溜まっていく。
私の余命が僅かっていうのを知っているから、私が夢を語るのが悲しいんだろうなと思った。
「私ね、こんな病気をさっさと治して、プロゲーマーになりたい!」
「ぷろ、げーまー?」
「うん! こういう動画があるんだけど――」
その後お母さんに色々と話をして、こんな世界があるんだねって驚いていた。
そして私の目に生気が宿っているのを見て、感動して泣いたみたい。
「じゃ、じゃぁ早くびょう、きを、治さないとね」
「うん、絶対に治す! 治ったら応援してね!」
「うん、うんっ!!」
それから私の病気は、医者も首を傾げる位の驚異的な回復を見せて、見事病気を完治。
健康体になった私はパソコンとゲームを買ってもらって、ひたすらゲームを練習しまくった。
ゲーム実況者の大会とかにも出場して優勝をしてから、今私が所属しているチームにスカウトされてプロゲーマーになる事が出来た。
でも、一つだけ納得していない事があった。
それは、私が退院したと同時に"NEO"さんの名前を全く聞かなくなってしまったんだ。
チーム・マトリックスのホームページを見たら、いつの間にか"NEO"さんの名前がなくなっていたし、本人の動画チャンネルも一切更新されていなかった。
私は疑問に思いチームメイトに聞いてみたが、いつの間にか引退していて業界の最大の謎とまで言われているのだとか。
チームは頑なに引退理由を話さないし、"NEO"さんのSNSアカウントも気が付かない内に削除されていた。
今でもFPSプレイヤーの間では様々な憶測が飛んでいて、ゲーム業界七不思議のひとつとも言われていた。
モヤモヤしながらプロゲーマー活動をしていて、他にもグラビアの仕事とかが入るようになってきたから、活動拠点を東京に移す事なった。
最初は私一人で上京する事になっていたんだけど、両親も心配で一緒についてきてくれた。
そして今日転校してきたんだけど、そこで憧れの彼に出会えた。
最初は嬉しかったけど、動画で見ていたあの輝いていた彼とは真逆だった。
死んだような目をしていて、前髪も目を隠す位に伸びている。
そして目の下は濃い隈がくっきりしていて、当時の彼の見る影がなかった。
(何かあったんだろうか? 聞きたい、どうしても聞きたい!)
一目惚れした彼にようやく会えたんだ、どうしても聞きたい。
そして、自分の気持ちも伝えたい。
私は、話を切り出した。
「橋本君、"NEO"さんでしょ?」
この一言、たった一言で彼の目が変わった。
死んだような目がさらに深淵を覗くような感じになり、まるで視線で「殺す」と言わんばかりのものになったのをはっきり感じた。
でも私は続けた、精一杯笑顔を作って。
「私ね、ずっと"NEO"さんに会いたかったんだ! 会ってずっとお話したかったんだ――」
私は貴方のおかげで病気を完治させる事が出来た。
貴方のおかげで奇跡を起こせた。
そして、貴方と一緒にプロの世界でゲームをプレイしたい。
言いたい事が沢山ある。
でも、彼はそれを許してくれなかった。
「何を話したいんだよ、あんた」
「……え」
「確かに僕は"NEO"だった。だけどそれがあんたとどう関係があるんだ?」
「それは――」
「何の発表もなく姿を消したという事は、何か触れられたくない事情があるって事がわからなかったのか!?」
「っ」
相当な事があったのではと予想していたけど、どうやら私が想像していた以上の出来事があったんだと悟った。
同時に、彼が押し込めていた闇に触れてしまい、彼を怒らせてしまったのもわかった。
「どんな理由があって僕に近づいたか知らないけど、僕はあんたの事が殺したい位に嫌いだ」
橋本君に、明確な敵意を向けられていた。
そして拒絶された。
「美人だから調子に乗ってるかわからんけど、僕は君が大嫌いだ。触れられたくない部分に無遠慮に触れてくる君が嫌いだ」
違うの、私は貴方の事が好きなの。
「あんたの事はどうでもいい、もう二度と関わらないでくれ! あんたの存在そのものが、僕の古傷を抉る。わかるか? 第三者に好きなものを奪われた気持ちが!!」
橋本君が、左手で私の胸元を掴んで彼はずっと私の目を見て言ってくる。
「どうせ順風満帆なあんたにはわからんだろうさ、好きな事をやりたくても出来ない体にされてさ! 突然奪われて全てを諦めて過去をようやく閉じ込めたっていうのに、今度はそれをこじ開けてくるクソ野郎が現れた。しかも無遠慮に過去の事を聞いてきやがる!!」
橋本君の視線に憎悪が増していくのがはっきりわかっていき、私は恐怖し、そして事情は知らないけど大変な事をしてしまったという罪悪感に心が支配されていた。
「なぁ、十秒間だけ時間をやるよ。二度と僕に話し掛けない事を約束してさっさと僕の目の前から消えてくれ。明日以降も僕の視線に入らないようにしてくれ。でないと――」
橋本君は、私の耳元で呟いた。
「僕は、あんたをどうにかしてしまいそうなんだ」
今にも殺されそうな、そんな雰囲気の声だった。
私は逃げる事しか出来なかった。
逃げて逃げて、全力で逃げて。
気が付いたら帰宅していて自分のベッドの上にいた。
あんな悪意を向けられたのは初めてで、私は泣いていた。
怖かった、本当にたまらなく怖かった。
そして好きな人に悪意を向けられた事がショックだった。
彼をそういう風にしてしまい、罪悪感を感じてしまっていた。
今、私の心の中はカオスだ。
「きらわれ、ちゃったよぉ」
私は、お母さんから夕ご飯に呼ばれるまでずっと泣いていた。
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