博士と意地悪をする助手の話


「助手君!ちょっとこれ飲んでくれない?」


僕と博士しかいない研究室では、今日も博士のそんな元気な声が響く。


「え、何ですか、この薬?」


僕は博士から手渡された薬を見ながらそう言う。


「これはね……、心の中で思ってることと逆の事を言ってしまうお薬さ!」


「……何でそんなものを作ったんですか。」


「うーん、暇だったから!」


「さいですか……、じゃあ、これを飲めば良いわけですか?」


「おっ、話が早いね。流石助手君だ。そう、飲んで効果を見せてくれたまえ!」


「はぁ、分かりました。」



そうして、博士からの薬を躊躇なく飲む僕。



ゴクンッ



「どう?」


「うーん……、今の所体の変化は無いですね。」


「ふむ、そうか。それじゃあ、少しテストをさせてもらおう!私の事、どう思ってる?」


「……いきなり、そんな質問ですか。そうですね……、凄く尊敬していますよ。」


「ほう!そうかそうか!…………うん?」


僕の返答に首を傾げる博士。


「な、なるほど、じゃあこの研究所に来れたことはどう思ってる?」


「いやー、凄く嬉しく思っていますよ。とても素晴らしい場所ですし、普段過ごしていてすごく楽しいです!」


屈託のない笑顔でそう言う。


「……」


そして、その返答に思わず黙り込む博士。




……実は僕は薬の効果は受けていない。

というか、多分この薬は失敗作だろう。


だが、いつも色々博士にイタズラや意地悪をされている僕。

たまにはその鬱憤を晴らしてやらないと腹の虫がおさまらない。


そういう訳で只今、意地悪をしています。


博士には僕の言っていることが逆の意味で伝わっていますからね。



「う、うむ、そ、そうかそうか……なるほど……。そ、それじゃあ、最後の質問だ。私の事、好き、かな?」


「それは勿論……、大好きですよ!」


「!?」


「いやー、博士も悪い人だな。僕がこう答えることを知っていたでしょうに。もう大好きですよ。」


「……」


「これからもずっとに居たいぐらい大好きです!ホント、博士がいないと生きていけませんよ。」



……流石にこれは言い過ぎたかな?

全部逆に博士には伝わってるはずだから、大分ダメージを負ってるはず。

でも、まぁ、いつも辛辣に言ってるから、これぐらいならどうってことない―――



ウッ、ウッ、ウゥウ……、ウッ、スッ、グスン……



えっ?

泣いてる?



「え、ちょ、博士大丈夫ですか。」


「ウゥ……、ごめんね……、そんなに嫌われてるとは思ってなかったんだ……。ホントいつもごめん……。」


あ、これ普通にダメージ食らってるわ。

やり過ぎた。


「あ、あのー、博士?全部嘘ですよ?」


「えっ?……どういうこと?」


若干無様な泣き顔を晒しながら、博士は顔を上げる。


「だから、全部嘘ですよ。博士の渡した薬、失敗作です。効果はありませんよ。」


「……だから、……つまり、今さっき言ったことは本心と逆では無い、という事?」


「はい、そうです。」


「……な、なんだ~、……私君に物凄く嫌われてるんだと思っちゃったよ……。」


「いやー、そのー、本当にすいませんでした。いつものやり返しでやりました。」


「あぁ、もう、本当に良かった……。」


「すいません……。」


「もう!絶対に許さないんだからね!駅前の生チーズケーキ買ってきてくれないと絶対に許さないんだから!」


「……あ、それはつまり買って来いと。」


博士は頷く。


あ、はい、分かりました……





そうして、僕は機嫌を悪くしてしまった博士のために生チーズケーキを買いに行くのだった。



……あれ?

いつものやり返しのはずが何故か僕の方が損してる……。



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