食いしん坊な博士と助手の話


「あのー……、博士?ここにあったクッキーは何処にやったんですか?」


僕と博士しかいない研究室では、今日は僕のそんな声が響く。


「えっと……、た、食べちゃった。」


「はっ……?いやいやいやいや、30~40枚ぐらいあったと思うんですけど?」


「ぜ、全部、食べちゃった……」


僕は空っぽの箱を手に持ちながら、呆気にとられる。


「全部?……頭がおかしいんじゃないんですか?そんな直ぐに博士の胃袋に収めてもらいたくて差し入れをしたわけじゃないんですけど。」


「あ、うん、ごめん……」


「結構アレ、作るの大変だったんですけど。」


「はい、すいません……」


「はぁー、まぁ、いいですけどね。美味しかったですか?」


「うん!すごく美味しかったよ!」


「それなら良いんですけど。まぁ、博士のお菓子好きは知っていますけど、まさかこれほどとは……、うん?」


「どうしたんだい?」


「いや、博士、こんなにお菓子を食べるペース速かったでしたっけ。今まで食べるとしてもクッキーとは1日に10枚ぐらいだった気が……。」


「……」


「……もしかして、何か具合でも悪かったんですか?」


「えっ?」


「いや、ここまでおかしいと博士の体に何かあったんじゃないかと思って。で?どうなんですか?」


「……えっと……、今回のはただ単に……、嬉しかったから、食べすぎちゃって……。」


「えっ?なんて言いました?」


「……だ、だから、……、珍しく君の手作り、だったか…ら……」


「……博士、そんな弁明するように言わなくていいんですよ。よく聞こえないのでもう少し大きな声で言ってください。」


「……もうっ!ただ単に君が作ったクッキーが美味しかっただけだよ!」


「な、なんで、そんなに怒ったように言うんですか。」


「ふん、君なんか知らない!」


「はぁ、面倒くさい人だなぁ。と言うかそんなに食べすぎるほど美味しかったんですか?」


「そりゃあもう、美味しかったよ。」


「……それなら、また作ってきましょうか?」


「えっ!本当かい!?」


「えぇ、ですが次回は1日で全部食べないでくださいよ。」


「分かってるって!いやー、嬉しいな!」


そうして、僕はコロコロと感情が変わる博士に「はぁ」と少しため息をつきながら、実験の続きをしていくのだった。



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