愛が重い博士と助手の話


「い、今なんて?君、な、なんて言った?」


僕と博士しかいない研究室で博士の困惑した声が響く。

そこまで驚くようなことを言っただろうか……?


「だから、1か月ほどこの研究室を離れると言っただけですが?」


「い、1か月!?な、なんで、どうして1か月もここを離れてしまうんだ!」


「どうしてって、まぁ、ちょっと事情がありまして……」


「事情?事情ってまさか……私と一緒にいるのが嫌になったのか?私のことが嫌いになったのか?」


「そ、そんなことあるわけじゃないですか。」


「じゃあどうして!どうして1か月も!」


「それはまぁ……、諸事情ということで。」


「……ぐぬぬ、言わないつもりか……。」


博士は「むむむ」と顔をしかめる。


「そういう訳なので、1か月ほどここを離れます。」


「……本当に行ってしまうのか?」


「はい」


「……私が『行くな』と言ったとしてもか?」


「そうですね、はい。」


「……そうか、分かった。」


……納得してくれたのかな?

そう思って、腕を撫で落とすと突然、照明が消えて、真っ暗闇になる。


あれっ?停電かな?


そう思っていると、突然、腕に痛みが走る。


「えっ?な、何?」



パッ



またいきなり、照明が点いて、辺りの様子が見えるようになる。


「!?」


……何故か、僕の腕が椅子に固定される。

それも手錠を付けられているからか、外せそうにない。


「ど、どうして。なんでこんな……」


「……君が、君が離れるなんて言うからだよ。」


「えっ、ど、どういうことですか。」


「どうもこうもないさ。私から離れるなと言っているのだよ。」


「……ちょ、ちょっと待ってください。博士?その手に持っているのは……?」


「うん?これかい?これは、ふふふ、君を私から離れさせなくする薬さ。」


博士はフラスコに入った紫色の液体を揺らしながらそう言う。


……これは流石にマズいのでは?


「そういう訳だからさ、ちょっと口を開けたまえよ。これを飲ませてあげるからね。」


「ちょ、ちょっと、ま、待ってください。」


「いや待たない。口を開けないのなら無理やり飲ませてあげよう。……うふふ、そんなガチャガチャ、揺らしても外れないよ?その手錠は頑丈にできているからね。」


「そ、そんな、ちょ、止めてください。そ、そんな無理やり、モガ!モゴゴゴ……」


なんか甘ったるい液体が口の中を満たしてくる。









「……どうだ?眠くなってきただろう?……そんなに我慢しなくてもいい。安心して目を瞑れ。……そして、目を開けた後は、ふふふ、……楽しみだ。」


そんな博士の不穏な言葉を聞きながら、僕はドッと来た眠気に負けないように頑張って耐える。


ぐっ、でも抗えない……


「我慢するな……。いいから目を閉じろ。ゆっくり休め……。」


博士の優しい声色も相まって、尚更負けそうになる。


ク、クッソー……


結局、妖艶に微笑む博士の顔が僕が目を閉じる前に見た最後の景色になってしまったのだった。










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