「手」を借りたい博士と助手の話


「……なぁ、ちょっと君、少し手を貸してくれないか?」


実験が終わった後、博士は不意にそんなことを言う。

と言ってもこちらも作業中。

流石にそんな暇は無い。


「今は作業中なので後じゃダメですか、博士?」


「い、今じゃないと嫌だな。頼む。」


「はぁー、仕方ないですね。それじゃあ……はい、どうぞ。」


僕はぶっきらぼうに片手を博士の方に差し出す。

「手」は貸しているからね。

さぁ、博士、どうする!


すると博士は少し大きな僕の白衣の袖に腕を突っ込んで、その白衣の袖に隠れていた僕の手をフニフニと握り始める。


「……一体何をしているんですか?」


「えっ!あ、いや、ちょっと……、君と手を繋ぎたいなと思ってね……。」


「……ホントに何をしているんですか。」


「あはは、いやー、すまない……。」


と言いながらも博士は僕の手を離そうとしない。


「博士?」


「い、いや、す、すまない。話そうと思っても、離れなくてね……。だ、だからもう少しだけ……、『手』を借りても良いかな?」


博士は少し情けなさそうに懇願してくる。


「……ふぅー、仕方がない人ですね。……気が済んだら離してくださいよ。」


「うむ、分かった!」


そうして、僕は右手に博士、左手には実験器具という形で作業を続けていく。



十数分後



「……博士、そろそろどいてくれませんかね。」


未だに博士は僕の手を握り続けている。

流石に作業も進まないから、そろそろ……


「も、もう少しダメ……かな?」


「流石にもうダメです。こっちも作業進まないので!」


「む、むぅ……、そ、そうか、それなら仕方が無いな……。」


しょんぼりと渋々、手を離す博士。

まるで捨てられた猫のようにシュンとなる。


そんな目線を背中から浴びながら、僕は作業の続きをしていく。




全ての器具を洗い終わった後。



……まだ、しょんぼりしてる。

そんなに手を繋ぎたかったのか。


うーん……

そう考えながら、僕は自分の手を見る。

……そうだ。


「はぁー、……いやー、手が冷たくなってしまったな。そうだ、博士、手を貸してくれませんか?」


「えっ?」


「ちょっと、寒いので温めてくださいよ。」


僕は博士の手を取って、自分の手に重ねる。

そして、博士に向かってニッコリと微笑む。


「あっ、ありがとう……。」


「何のことでしょうか。ただ僕は手を温めるだけですから。」


「……そ、そうか、そうだったな。……うふふ。」


そうして、僕たちは何だかバカップルなことをして、時を過ごすのだった。





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