【第八章・連合軍】第四七話『国際連邦の夜明け(下)』
『私は、みなさんが今、謎として追っていらっしゃる、“六本腕の異星人種族”と言われている存在、その末裔ですのよ……』
世にはいきなり何かをされて、何がなんやらわからず、混乱するということがよくある。
特に、ある一定の方向性で話が進んでいる時に、『多分、こんな話が出てくるのだろう』とか、『おそらくこういう話の展開になっていくのだろうな』とか、そんな予想を立ててミーティングなりなんなりを聞いている時に、唐突に本筋から離れた話、もしくは本筋の話なのだけれど、斜め上すぎてスットンでる話がでてきたら、普通人の思考は一瞬でも停止してしまうものである。
国際企業パイドパイパー株式会社……創設は一九一〇年。第一次世界大戦開戦の四年前ということに公式ではなっている。
この企業の歴史には謎めいた部分が多く、パイドパイパー社の公式沿革では、オーストリア・ハンガリー帝国に存在した小さな商社が始まりだと明記されている。
第一次世界大戦で戦争物資の物流で財を成し、中央同盟国敗戦後は、ワイマール体制時の極度なインフレが影響して破綻。一旦解散後、なぜか第二次世界大戦時にドイツで復活起業し、第二次世界大戦終結後は米国のとある大手商社に買収されてパイドパイパーのブランドだけが残るが、一九八〇年代にそのブランド名がまたもや情報機器メーカーとして独立起業し、当時のパソコンブームに乗って空前の利益を上げ、後に現在のCEOであるエドウィン・スタインベックがその役職へ就任した後に、本社機能をなぜかブラジルへ移転。現在に至る……と大まかな企業沿革を言えば、こういったところである。
つまり、パイドパイパーの名を持つ企業、そして現在のこの起業に繋がりを持つ企業が、解散と起業に合併などを繰り返し、生き続けているわけなのだが、その社の詳細な社歴内容のほとんどが、戦災で焼けて残っていないと言う理由で、パイドパイパー社自身が謎扱いにしており、巷では結構オカルトじみた企業として語られることのあるネタ会社としても知られていた存在であった。
だが、一九八〇年代以降のこの企業が次々と繰り出す画期的な電子科学製品。今で言うところのIT関連商品のおかげで、果物マークの企業に、ゼネラルソフト、パイドパイパーと、この世界の三大ITインフラメーカーとして君臨している企業であった……そう、『あった』のである。
なぜ『あった』という表現になるかは言わずもがなで、日本が連合の技術を吸収してしまったおかげで、この世界での情報産業の雄に躍り出ようとしているわけであるから、という次第。
実際、この世界でも一九八四年の日米半導体交渉で……っと、まあそれはいいとして……
最近ではそんなオカルト話も、ロックフェラーにフリーメーソンのごとく、今やもうネタにもならない『流行らない都市伝説』になってしまい話題にもならなくなったが、今、情報省で会議するメンツは、そんな都市伝説を改めて想起させるような、そんな事態になってしまっていた……つまり『マヂデスカ……』
ってなところである。
* *
「初めまして、スタインベックさん。私は日本政府のこの部署、情報省を預かります、二藤部と申します」
元内閣総理大臣であり、現情報大臣の二藤部新蔵がスタインベックに語りかける。
『はい、存じております大臣閣下。フフ、貴方は有名な方ですものね。ご対面できて光栄ですわ』
二藤部とスタインベックともに会釈。
「あー、その……なんと言いますか、皆がもういきなりの貴方のお言葉でキョトンとしてしまっている状況で、青天の霹靂と言いましょうか、そんなところですので私が変わってご質問させていただきますが……貴方は今、その、六本腕の異星人、あいえ、この場にはグロウムの方もいらっしゃるので、失礼のないように、グロウムの方々が仰る『ファヌマ神』に相当する種族の『末裔』と仰られましたが、その言葉の意味するところは何なのか、詳しくお聞かせ願えませんか?」
二藤部も内心は霹靂状態の他の方々と同じなのだろうが、そこはもうかつてのギガヘキサコンタクトで鳴らした御仁である。そんな妙な情報にも相応に対応はできる。そこは柏木御大に鍛えられたワケであるからして。
で、二藤部をフォローするは、彼もかつては柏木と共に外交的辣腕をふるった三島理事長。
「まあ、なんつーか、お宅の今出たその短けぇ言葉だけを拾って考えりゃ、アナタをどこからどう見ても腕が六本あるわけでなし、まさか背中ん中に隠してますっつーような雰囲気でもねーし。私達のこれまで経験したティ連さんとことの常道や定石、常識で考えるならば……例えば、そのファヌマ神、あいや、ファヌマ人って言やいいのかな? まあそれが、地球人の遺伝子情報か何か使って、地球人と交配して世代を重ねて……とか、そんな事も考えるわけだが、そこんとこどうなんですかい?」
三島理事長、いつもの調子は健在である。でもってそのポップカルチャー的知識も、今やティ連科学の台頭でポップカルチャー的発想とも言えなくなってきたわけで、流石に三島は科学者ではないので、その言葉も言い換えれば哲学的とも捉えられるようになってしまったりするわけで……
『流石は貴方も、あの時活躍したビッグネームのお一人ですわね』と、そう言われると、三島も眉を動かして、まあそうだがと反応し、『……ですが、実際のところを申し上げますと、ミスター・ミシマの仰るとおりですわ。その通りです』
諸氏吐息を付いて、そういうことかと納得。ココにいるメンツは、その手の情報ではもう「どっひゃー」とは驚かない。状況を冷静に理解するだけである。が、ネリナと、グロウム大使は少々表情が違ってキョトン顔。
白木が、横で彼を凝視しながらスタインベックの話す言葉を聞いている二人に声をかける。
「月丘、プリ子。今の話はお前たちも、もう知っている情報なのか?」
『はい、局長』と月丘が応えると、『そうですね、っていうか、私達がもう知っている事を、ケラー・スタインベックが今からお話してくれるわけですから』とプリルが続ける。
「なるほどな。わかった」
白木はつまりどこまでスタインベックの話を聞けばいいか、月丘とプリルに見積もりを出したのだ。
ま、その答えは、ひと通りスタインベックのプレゼンを聞いたほうが良いといったところ。
『今、ミスター・ミシマが私を「ファヌマ人」と仰られましたが、我々もこのあたりの「ファヌマ某」の詳しい情報は、組織としてまだ全容の入手にはいたっておりません。そちらのグロウム帝国関係者様の宗教祭祀に纏わるお話という事ですが……あ、誤解のないように申し上げておきますが、我々の入手しているこの手の情報は。全部米国政府筋からですからね。流石にヤルバーン州や、日本の中枢に我々組織の手を入れるということは叶いませんので……』
堂々とインベスターの事を『我々の組織』というスタインベック。おまけに情報源まで喋ってくれる。この期に及んではもう彼も隠し事をする気もないようである。つまり色々真剣に話し合いたいところもあるのだろうか。で、こういった日本ーティ連関係の重要情報は米国から、と言っているが、恐らく……というか多分絶対に日本にもインベスターの構成組織があるはずである。なので日本の某かに手を突っ込んでいるのも間違いないはずである……だが流石にそんなことまでは話はすまい。
『……ですから、グロウムの方々が、このファヌマという存在を神聖視していらっしゃるのは承知しておりますが、それ以上の事情は正直私も知りません。ですから、私もこれから色々とお話させてもらいますけど、その点もご教示いただけたら嬉しいのですけど、よろしいでしょうか?』
この言葉で、どうやら月丘達も詳しいファヌマ教関係の話はしていないようだ。といっても、まだ地球側が掴んでいる情報も似たようなものではあるが。
「わかりましたスタインベックさん。そういう点も色々補足させていただきながらで、お話を進めていきましょう。よろしいでしょうか? 大使閣下、ネリナ提督」
二藤部の問いかけにグロウム大使とネリナも大きく頷く……というか二人はもう現状の会話内容の方が最重要で、『自分達のことはいいから、どんどんやってくれ』状態である。それもそうだろう、いってみれば彼らの崇める神の末裔と自称する人物が目の前にオネエキャラでいるわけであるからして……
『ありがとうございますわ、ニトベ閣下……さて、では私達のご先祖になる、その「六本腕の異星人」「六本腕の神様」ですか? ……で知られている存在の……そうですわね。まずは名称からお教えいたしましょうか……私達の先祖になる異星人の名は、地球人の発音で綴るなら「ペルロード」と言います』
その言葉に無表情なゲルナー司令の眉がピクリと動く。シビアは眉間に少しシワを寄せている。
「えっ!? 確か、その名前って……」
と口に出してしまうは麗子専務。彼女も先日の、かのモフモフ種族である『ガルムア人』の、スールとの会話は資料として読み込んでいた。その中に明記されてあった種族の名前に驚く。
「ああ、そうだぜ麗子。ということは、あのモフモフさんらが知っている種族と同じっていうことだな」
と白木が言うと、彼と麗子の会話にスタインベックが疑問を持ち、
『ちょっと待ってください、ミスター・シラキ。もしかしてあなた方がは、ペルロードの民、あいえ、ペルロード人をご存知なのですか?』
どうやらインベスターも、ガルムア人と安保調査委員会の会談内容は、情報として持っていないようである。これで大方想像つくのは、やはりインベスターの持つ情報というのは、米軍経由のヒューミント情報だろう。確かにインベスターの所有する情報のほとんどはUSSTの経験や報告に基づくものが多いということがこれで理解できる。
『あいや、実はですなスタインベックさん……』
話が滞るのも面白くないので、二藤部とアイコンタクトした白木は、ガルムア人との会談の概要をスタインベックに話す。
「……と言うわけで、その種族の名称は私達もその時に掴んでいました……なるほど、その名称と合致したということであれば、スタインベックさんのお話の信憑性も問題なくなる、という事になりますな」
確かにその通りである。この時、ガルムア人からもたらされたペルロードの名称は、安保調査委員会のメンバーしか知らない、外部には漏れていない情報だ。ということは当然スタインベックの話も出鼻から信憑性は確保されたということになる。
となれば安保調査委員会メンバーよりも、驚いて恐縮してしまうのはネリナ達で……もうスタインベックを見る視線が尋常ではない。
「ではスタインベックさん」と二藤部が本題にいこうと切り出し、「あなた方がペルロード人の末裔だとして……実際のところ、貴方は地球人なんですよね? 今は」
『ホホ。そうですわね。肉体的にはドイツ系移民で米国人のエドウィン・スタインベックですわ』
「では、何があなた方をペルロード人の末裔たらしめているのですか? 我々が掴んだ情報ですと、ペルロード人は、六本の腕を持つという事が、ほぼ証明されている状況です」
『はい。まずその認識は間違っていませんですわね。確かに私達の先祖は六本の腕を持つヒューマノイドタイプの種族でした……」
すると、スタインベックはVMCモニターで参加しているサマルカ人のセルカッツ・1070を見つめると、
『そして、そこなサマルカ人さん。私達のそのご先祖が、あなた達一連のシリーズを作った種族です……と言っておいた方がよろしいですわね』
その言葉に、VMCモニターの先、米国ニューヨーク州の大使館にいるセルカッツは戦慄を覚える。
そう、今モニター越しの眼前にいるは、サマルカ人の創造主と関係のある存在かもしれないからだ。
『とはいえ、それも恐らくはもう相当昔のお話でしょうし、今はサマルカ人としての主権をもった立派な種族さんでしょうから、ま、その点はあまりお気にしなくってもよろしいのではないでしょうか? セルカッツさん、確かに先程申し上げたように、私達は「末裔」ではありますが、それは例えば……そうですね、日本人に分かりやすく喩えるならば、ある日本人が、「キヨモリタイラ」の末裔であるといったような、そういう感覚でご理解くださればよろしいのではないでしょうか?』
すると、総諜対の一員である日本政府ティ連外務局部長の『瀬戸智子』がスタインベックに、
「なるほど、まあ普通ならその手のお話は、『私はUFOにさらわれた女性が生殖手術を受けて生まれてきた宇宙人の子供だ!』とかいったような話になりそうなところですけど、実際お話をお聞きするとそういう感じのお話でもありますし、あなたがそこまで仰るなら、生物学的な……そうですね。遺伝子情報を調べると言ったような事にもご協力いただけると考えてよろしいのでしょうか?」
と、当然の疑問を尋ねる。そりゃそうだ。これまでのスタインベックの話を総合すると、ナントカスペシャルにでも出てきそうなネタ話としか思えないような、証拠も確証もない話であるわけだが、この調査委員会メンバーしか知らないキーワードがたくさん出てきたのも確かであって、眉唾話ではないとも思えるし、実際VMCモニターの向こうに構えるナチスのオーパーツ機動兵器もあるわけだから、嘘ではないのだろう……でもやはり物的証拠は欲しいところ。
『はい、わかっております。ご希望なら私の遺伝子情報もお引渡し致しますから、存分にお調べください。といっても、それを検証するためのペルロード人の生体情報はお持ちなのでしょうか?』
とスタインベックに疑問を持たれると、すかさずそれに反応するは、ゲルナー司令で、
『スタインベック生体。それは問題ない。我々は現在、先に出てきたガルムア人から、ペルロード人とおぼしき存在の生体データを入手済である。それらを見本に照合することが可能である』
ガルムア人は、かつて短い期間に惑星シャハーミットに存在したと言われているペルロード人の生体データ。つまりシャハーミットで死亡し、埋葬されたペルロード人の遺骨の一部を所有しているという話。
なんでも、そのペルロード人の儀式的な慣習で、小さな骨片を、当時のガルムア人の首長が分け与えてもらっていたらしく、それを提供できるそうで、スールとなっているガルムア人、ジャン・バップがそう言っているとゲルナーが話す。すると白木が、
「そうですかなるほど、そういった検査が各方面で可能であるのなら……ふむ、今はスタインベックさん、あなたの弁を信用した前提でお話を進めましょう……」
* *
情報省で、安全保障調査委員会の重鎮メンバーがスタインベックと会談をもつ中、同時進行的に世の中は進んでいく。
ヂラールの驚異やグロウム帝国の存在と、グロウムーヂラール戦争の経緯が世界に知れ渡っている現在。事はそれまで以上に多面的な処理を求められるわけであって、この四人も精力的に動いているのであった。
『ふぅ、まったく忙しい話ですな。私達が地球にやってきたあの時に匹敵する忙しさですヨ』
とグチを漏らすは、ヤルバーン州のヴェルデオ知事。
『はは、まあそうは言いますが知事、それだけ私達がハルマの社会で認められているということでもありましょう』
と応じるは、久々の登場、ジェグリ副知事。
『ふむ、そういうことよな。妾もここまで忙しいのは、一〇〇〇年前の帝政解体令を発布した時以来です』
これまた応じるは、ヤルバーン議会進行長のナヨ閣下。最近はもうかぐや姫カミングアウトしてしまってるので、真っ白お肌モードでいる時間のほうが多し……でも喩えが一〇〇〇年前の、イゼイラでは歴史の教科書に載るような話を出してくるもんだから、ヴェルデオやジェグリも苦笑い。
ということで世界中にファンがいて、もうこれまた大変な御仁のナヨ閣下である。で、その大人気創造主様の心を射止めたいぶし銀の男は、新見貴一情報省次官。
「ははは、お三方とも申し訳ありません。何か中国があんな風になってしまったものですから、世界の動きが予想以上に慌ただしくなりましてね。ゼスタールの、アルド・レムラー統制合議体閣下にも技術的な方面で今動いてもらってまして、この地球圏の政治方面では我々が頑張らないと、どうにもこうにも」
と言うと、ヴェルデオは、
『わかっていますヨ、ケラー。ま、これはこれで結構楽しんでやっていますので』
「は、そう言っていただくと助かります知事」
『本国の、デイバー・ゼルド・ダルン議長にも既に妾が内々に了承をとっています故、ティ連技術の条件付き貸与に関しても、問題なく進めてよいですよ、キイチ』
「ありがとう、ナヨ。助かるよ。流石は創造主様ってところかな?」
そんなナヨと新見の会話をニヘラ顔で見るヴェルデオとジェグリ。ま、ナヨと新見は、イゼイラではもう夫婦なので、そんなところ。
ちなみに、『デイバー・ゼルド・ダルン議長』とは、現在のイゼイラ星間共和国議長さんである。デルン(男性)議長で、現在のティ連連合議長サイヴァルの属していた政治組織の、所謂彼の後継者的な立場の人物である。もちろんマリヘイル連合危機対策管理委員会委員長とも繋がってるので安心である。
……さて、でこの四人は一体何が忙しいのかというと、現在北京にいる柏木とフェルの報告で、クーデター後の暫定張政権と、恐らく新生中国共産党となるであろう王政権が、LNIF陣営との協調路線に大きく政策変更を行うということを聞き、実際外から見てもその方向に現在舵を切りつつあって国内の混乱を収めつつあるわけだが、その報は当然地球世界各国も間諜を放っているわけであるからして、同様に情報を入手している。特に柏木とフェルが各国に先んじて秘密会談を行ったこともある程度公然の秘密として各国首脳部に知れ渡っているわけでもあるので、この件も含めて連合日本に現在各国から問い合わせ殺到といったところなのである。
ということで、現在井ノ崎総理大臣は緊急で米国へ説明に行くためにスチュアート大統領と会談を設定され、スケジュールの調整を行っている。でもって安保調査委員会の一員として、ヴェルデオもお手伝いということで、フランスの大統領との会談を本日夕刻にセッティングされている。
ジェグリ副知事は、英国の外務英連邦大臣、所謂外務大臣との会談がセッティングされ、英国首相とヴェルデオ、井ノ崎会談のスケジュール調整の打ち合わせを行う予定になっている……ちなみに外務英連邦大臣は、メイラさんの大好きな映画に登場する、かの英国秘密情報部MI6を統括する役職でもある。
で、ナヨさんは彼女もコレで現在『ヤルバーン州議会進行長』という肩書を持つ州閣僚なので、十分にヴェルデオやジェグリに匹敵する権能を持っている。で、彼女も本日ロシアの外務大臣と、後ほどゼスタールからやってくる外交担当合議体のカルバレータさんとともに、現在ロシアがゼスタールに外注をしている航宙艦艇の進捗会議を行う予定という次第。
でもって新見さんは、そんな皆さんのマネージャー役といったところ。ま、色々忙しくやっってるというわけである。
『……ではそのチュウカミンコク、あいえ、タイワン共和国ですか。その外交交渉にフリンゼが赴くことをファーダ・チャンはお認めになったと?』
「はいヴェルデオ知事。これでフェルフェリア大臣が台湾へいけば、それは地球では歴史的なことになります。はは、しかも国交が復活して最初の日本政府の訪問者が異星人系日本人ですから、なんともはやで」
『ハハハ! まあそれも時代というものでしょう。私達もこの星へ来て、ハルマ、あいえ、チキュウの国際情勢を色々調査いたしましたが、ま、なんと言いますかな、私達の存在が地球の政治情勢で諸々良い方向へ作用しているのなら、それはそれで嬉しいことでもありまス』
確かにそれはそうだがと、ジェグリが、
『ですが知事。それもグロウムの一件とヂラールの件もあっての話で、あのファーダ・チャンも動いたわけでスから、全てが手放しに喜べるというものでもありませんぞ』
『うむ、勿論それはわかっているよ。ただ、経緯はどうあれ何事も問題が一つ解決すれば、一つ先に進める。これの積み重ねでやっていくしか無いわけだからね』
『は、それは確かに』
するとナヨが、
『ですが、グロウムの一件でもそうですが、あの忌まわしき輩が数光年先まで来ていたという事実は重い。ここで妾達も一つ畳み掛けで行かねばならぬ可能性も考えねばなりませぬ』
一応彼女も帝という地位でありながら、政変を指導した御仁であるので、緊急時の対応も考えないとと仰る……ナヨさんというより、ナヨクァラグヤ帝のお言葉故に説得力はある。
勿論皆して、その言葉に頷く次第。
「ところでナヨ。畳み掛けといえば、あの自治法の一件はどうなったか、デイバー議長閣下から聞いてないのか?」
『その件ですね。ええ、聞いておりますよキイチ。恐らく地球時間で数日中に、ヤルバーン特別自治州は、ヤルバーン自治国として議会に認められる事になるとデイバーは議長は言っていましたね』
「そうか……となると、ヤルバーンが今以上に身軽になるということになるな。ふむ、良い感じだ」
『確かにそうですね。自治国となれば、有事以外の自治体としての権能は、ほぼ全てヤルバーン独自の権限で行うことができるようになります。技術貸与などの決定も、今後はヤルバーン議会単独で決定権を持つことになるでしょう』
そう、以前から日本政府とヤルバーン州の間で構想のあった『ヤルバーン自治共和国化構想』である。
いかんせんイゼイラ共和国の飛び地としての領土としては、ヤルバーン州は正直ブッチギリで遠すぎるのである。今現在、人工亜惑星要塞レグノスが太陽系とティ連領内を繋ぐ交通の要所として稼働しているとはいっても、それでもイゼイラから地球へ行くには数日を要してしまうので、やはり遠い。従ってイゼイラ国内でも、ヤルバーン州をイゼイラの施政権内に留めておくには若干無理があるのではないか、という意見が出ていたのである。
従って事実上の自治国として扱う『特別自治州』という自治体に指定していたのだが、更にもっと自治権を強化して、安全保障関係以外はヤルバーン州のみで今後単独で動けるようにしようということで、数日中にヤルバーン州は、『イゼイラ星間共和国内ヤルバーン自治共和国』として自治体改変を行うことが決定している。この決定で、現在のヴェルデオ知事は、ヴェルデオ自治国議長となり、ジェグリは副議長となる。で、ナヨさんはヤルバーン自治国総院議会議事進行長となることが内定している。
まあ役職名が変わる程度で、ヤルバーンのあり方は実際のところ、今までとあんまり変わらないのだが、独自にできることが大幅に増えたため、その増えた権限を利用して、色々開拓もやっていこうという話になって、
『ではキイチ、まあとりあえずヤルバーンもそういう事になるので、今後のティエルクマスカ銀河からの入植などを含んだ事も考えてですね、領土開拓なんぞもやっておきたいので、このタイヨウケイの第五番惑星にある「がにめで」なる衛星に領有地を持ちたいのですが、コクレンに話をつけてくださいませぬか?』
「はあ……領有地か。まあガニメデなんかにどこも領有権を訴える国なんざいないと思うから、別に勝手にやればいいんじゃないのか? 火星みたいにさ」
『それはそうですが、そのカセイも言ってみればティ連と、ニホン国とアメリカ国が勝手に領有地を開拓して宣言してしまっているようなもので、何かと今でも若干問題を抱えております。私達は侵略者ではありませぬから、そこは体裁も必要なのですよ』
「はは、わかった。じゃそういうことで、国連関係には、私が話をしておくよ」
この話でもわかるように、ヤルバーン州にも今現在、ティ連からどんどんと移住者がやってきて、もう立派に自治国の名を称しても恥ずかしくない人口がいるわけなのである。
で、今後の人口推移を考えても、増えていく一方なのはもうわかりきっているので、相模湾から伸びるヤルバーンタワー以外の領有地をヴェルデオ達は必要としていた。で、とりあえず領土問題でもめそうになく、かつ、居住環境も考えて良い場所はないものかいなと色々調べたところ、木星の衛星ガニメデがいいのではないかとの結論になった。ガス惑星の衛星だし、イゼイラっぽくて良い感じでしょということで、この衛星の一部の領域をコロニー化しようという計画が進行中なのである。
つまり……まあ流石にガニメデをテラフォーミング化するのは手間がかかるので、人工大陸を張り巡らせてコロニー化し、衛星の軌道上をイゼイラ同様に都市空間化させて、これでヤルバーン自治国の領土を増やして居住性を高めようという計画だったりする。
ガニメデから地球程度の距離なら、ディルフィルドジャンプで数秒ということもあって交通の便も快適だし、この地をコロニー化し、軌道空間都市化するぐらいの事業であれば、ティ連の技術なら数ヶ月もあれば充分である。
そんな計画が進行中で、すでに本国から調査艦隊が木星宙域にはいっていたりするのである。
「まあもうこの期に及んで、宇宙条約がどうのこうのなんてもう言わないだろうから、うまく言いくるめてきますよ」
『ウフフ、お願いいたしますね、キイチ』
『はは、よろしくおねがいしますよ、ケラー』
『コクレン方面の話は、ケラーに頼るしかありませんからな』
ナヨにヴェルデオ、ジェグリも今後の期待を込めて、新見に頭を下げる。
ヤルバーン州……いや、ヤルバーン自治共和国も、未来を見据えて、地球社会の一員としてのあり方を変化させようとしていたのだった……
* *
ということで同時進行する国際情勢。
北京から戻ったフェルと柏木は、総理大臣、井ノ崎修二と銀座の料亭で会合という段取りになっていた。
安保調査委員会の政治家諸氏がよく使うとある料亭。三島に紹介を受けた場所だが、それはもう三島が紹介するような場所なので、超一流だ。その一流も、料理や接客対応だけではなく、防諜にマスコミ対策など。そこは名のある政治家達が利用してきた場所である。
女将に案内されて部屋へ通される柏木とフェル。女将は作法に則り、美しい所作で襖を開け、二人を部屋へ通す。
「おまたせしました総理」
『タダイマ戻りましたデスよ、ファーダ』
二人共一礼して、井ノ崎の誘う所定の座椅子へ腰をかける。
「いやすみません総理。私もお呼ばれに預かってしまって」
「何を仰いますか。ティ連の長官閣下で、フェルフェリア先生の旦那さまとなればご同伴いただいて当然でしょう」
「いやいやいや」
などと御銚子ならぬビールをつがれて、とりあえず帰国お疲れ様といったところ。フェルさんもおビールを注がれ、彼女も小さく「ぷはー」と一杯。ヤルマルティア産のおビールはやっぱりウマイ。
「で、フェルフェリア先生、柏木先生、北京はどうでしたか?」
『ハイ、確かニ、物々しい雰囲気ではありましたけド……なんというか、そこまで仰々しいような雰囲気でもなく……ねぇマサトサン』
「うん、まあなんというか、芝居がかっているというか、そんな感じかなぁ」
クーデター国家のクーデター首謀者達と話しに行ったのに、そこまで深刻な顔をしていないフェルと柏木。つまり、王達若手が画策したこのクーデターの真意に意義を井ノ崎に話すと、中国に対してはどちらかというと警戒心を持っている保守政治派閥の彼も、意外な顔をして、フェルや柏木の話を聞く。
「えっ!? ではあのクーデターには、張元主席は一切関与していないというのですか!?」
『ハイですね。所謂「メイギガシ」をしただけで、実際はそのワンというキョウサントウ幹部サンが主導した事件だったようでス』
「ええ。で、やはり中共内部の、特に若手が此度のグロウムの一件や、ゼスタール騒動の一件などを踏まえて、現在の共産党体制を一度ガラガラポンで考え直さなければならないという人々もかなりいるようで、盧主席が現在行方不明なのも、こういったところが原因みたいですよ」
井ノ崎は意外そうな顔をして口を尖らせて二人の話を聞く。
「そうですか……そこまでの事を……張氏も一〇年前のあの時は、食えない人物ということで要警戒人物に指定され、国家主席退任後もその動向を追っていた人物でしたが、彼もなかなかに若手には理解があるというか、今更ながらの評価ですが、大局を見通せる人物だったのですね」
井ノ崎にしてはかなり高い評価の言い回しだ。彼は所謂共産主義者や共産国の人物をあまり高評価はしないタイプの人物であるからして。
「ええ。言い換えれば、『中国共産党』という範疇で、という前提を付けても、話せる人物ですね。かつての天安門事件の際の、趙紫陽を連想させる感じの人物でしょうか」
趙紫陽(ちょう・しよう1919年10月17日-2005年1月17日)とは、あの天安門事件の際、民主化を求める学生達に理解のあった中央員会総書記である。
もちろん柏木長官は、この人物に会った事があるわけではなく、現代史上の人物として学校や大学で習った知識としての評価である。
ということで二人は張や王と会談し、新生中国が今後行う政策や、彼らに確約したことを井ノ崎に報告する。報告は立場としてフェルさんの役目。
で、その階段で、張・王クーデター政権が今後行う中国の政治的な動きとして……
○中華人民共和国は、今後の王政権後に、『中華人民共和国連邦』と国号を改称する。
○中華民国改め、台湾共和国の独立に、賛成、反対の姿勢を表明しない。また、国際機関への加盟にも反対はしない。
○第三国が、台湾共和国と国交を結ぶ事に関しても、特に反対はしない。
○台湾共和国は、今後も中華人民共和国連邦の連邦加盟国として中国は表明する。
○香港を、恒久的な一国二制度の自治国、香港自治共和国として扱う。
○澳門を、恒久的な一国二制度の自治国、澳門自治共和国として扱う。
○新疆ウィグル自治区を、東トルキスタン自治共和国として扱う。
○チベット自治区を、チベット自治共和国として扱う。
○内モンゴル自治区を、内モンゴル自治共和国として扱う。
○広西チワン族自治区を、広西自治共和国として扱う。
○寧夏回族自治区を、寧夏回自治共和国として扱う。
○他、各省も、自治国同等の行政権限を与える。
○中国中央政府直轄特別区は、重慶・上海・北京・天津とする。これは現在と変わらない。
「それは……本当ですか!? 随分思い切った事、あ、いや、改革をするつもりなのですね」
井ノ崎は、まさかあの中国が? という顔で驚きの表情を隠さない。
『そのアタリは、いかんせん私はイセイジンサンですから、色々調査しているとはいっても、まだイマイチこの手元にある資料の、チャイナ国の改革というものがピンとこないのですケド、そんなにすごいことなのですか? マサトサン』
とフェルが訊ねると、柏木が、
「うんそうだね。少なくとも以前の盧政権に見られるような、バリバリの中共的イデオロギーなら、まずありえない事だし、そんな事考えてるヤツがいたら、まず間違いなく粛清の対象だわ。わはは」
と、思わず笑ってしまうような、それぐらいの話だという。
で、張や王の考えるこの自治共和国化の構想も、クーデター政権故の思惑もあってのことだという。
それは、まずクーデター政権であるが故に、外国のとの早期の国交に信頼関係の再構築や、国民の不満解消を目指さなければならない。それには旧態依然としたそれまでの国家体制のあり方を根本的に変える必要があり、現在の中国における中央集権的政治体制では、このクーデター政権ではやっていけないだろうという算段も最初からあったので、一気に中国各地域の独立自治体制を売りにした、連邦制への移行を決断した、という側面もあるのであった。
そんなところに関連した中国の体制改革をフェルは井ノ崎に報告する。実際彼を驚かすような会談の決定内容だ。そして……
○全人代における『代表』即ち議員に相当する人物は、今後制定される各選挙区による人民選挙によって選出される。
ここは結構重要なところで、実は中国は、基本中国共産党による一党独裁なのではあるが、この中にも、所謂派閥勢力のようなものがあり、それらが『共産党支配の中の政党』という具合に、所謂『衛星政党』と呼ばれる組織として、多数存在する。
そしてあまり知られていないが、全人代の中には、共産党に全く関与していない全人代代表もいて、それらの人々が派閥を作って『政党』として全人代に参画しているのである。
従って、中国はよく『一党独裁政権』といわれてはいるが、厳密には『中国共産党支配に影響を及ぼさない程度であれば、複数政党も体裁上認めている』のである。更に中には『無所属』の代表も相当数存在する。
中国国内でよく知られているこれら政党の名を列挙すると……
中国共産党
九三学社
中国民主同盟
中国民主建国会
中国民主促進会
中国農工民主党
中国国民党革命委員会
中国致公党
台湾民主自治同盟
無所属
こういった政党構成で全人代は組織されている。なかなかに興味深い。
で、全人代代表約三〇〇〇名の中で、中国共産党員の数が二〇〇〇名以上を占めるわけで、まあその他の政党というのは、いってみれば『一党独裁』と揶揄されるのを避けるためのカモフラージュとでもいってよい存在だったのだが、張・王体制では、これをカモフラージュではなく、本格的に稼働させる方向性で行くという話。
つまり、本格的な複数政党制で、選挙によって選出される『代表』によって構成される議会である全人代を創るという方向性で行くという確約を得ている。
なぜ、こういった方針で張や王は行こうとするか。それは言わずもがなで、ティ連やゼスタールとの関係強化を行いたいからである。つまりティ連から『敵』と認識されている現状を変えたいという思惑もあっての事で、現在はティ連技術の貸与制度から漏れている中国を、なんとかその中に食い込ませたいという思惑もあっての話という次第であったりする。
「ふーむ……すごいですね……あのお飾りの衛星政党を本格的に政権の取れる複数政党制にしようとは……」
これまた井ノ崎も驚きだ。ある意味中国も、今後の宇宙時代の世界情勢を考えると、なりふりかまってられないのか? という疑問も湧くが、実際その通りでだったりするのが面白いところ。
で、その『ティ連から敵対視されないように』という点では、あの問題にも決着が付く事になる。
それは尖閣諸島の話だ。
張・王政権では、尖閣諸島の領有権、そして南沙諸島の領有権、インドのアナーチャル・ブラデーシュ州の領有権を放棄する事を決定している。これも所謂『損して得取れ』ではないが、ティ連との外交対策の意味が一番大きい。但し、インドとの領有権問題は、中国が実効支配しているアクサイチン地域のインド領有権の主張撤回することが条件である。
『という事デ、今回チャンセンセイと、ケラー・ワンから親書も預かってきましたヨ、総理』
フェルは愛用のハンドバックから綺麗な中華風の封筒に収められた親書を井ノ崎に手渡す。
『内容は、ケラー・ワンから教えてもらっていますが、ケラー・ワンがコッカシュセキに就任した時、早々に首脳会談をお願いしたいという内容だそうです。それと、LNIFとの統合も考えてアメリカ国ともオハナシをしたいので、総理からもファーダ・スチュアート大統領にも宜しくオハナシを通して欲しいとの事でした』
井ノ崎は料理にも手を付けず、フェルの話を真剣に聞いて頷く。
「なるほどわかりました。ですが、一つ私が憂慮しているのが、人民解放軍首脳部が、このまま王政権に移行し、シビリアンコントロールに近い形での体制に今後順応していけるかという懸念を持つのですが……」
この問に柏木は、
「そこなんですけど、まあこれはフェルというより、恐らく白木と新見さんの方の範疇の話になると思うのですが、張先生と、王氏の話を聞くに、どうも解放軍の方は、インベスターが首根っこ抑えてるみたいですね。なのでそのあたりの心配は無用だと言う話ですが」
そう、そもそもの話で言えば、中国の張派が中国全土でここまでのクーデターを敢行できたのは、インベスターと手を組んでの話が前提であるからである。つまり、人民解放軍の首脳部には、恐らくインベスターからの天文学的な金額の金が流れていると思われる。張も王も、今現在はインベスターの手を借りておこうという腹づもりなので、その辺の造反等の心配は今のところはしなくていいのではと柏木は話す。
「ほう、そこまで手を回してのクーデターですか……ふむ、わかりました。では事が落ち着いた時を見計らって、第三国で、日中首脳会談を行いましょう。そうなると、もう一〇年ぶりぐらいになりますね」
まったくである。特に柏木は肩をすくめて渋い笑顔。なんせこんな状況を作った張本人はコイツであるからして。
『デ、その先ですけど総理……』
「はい、フェルフェリア先生。スチュアート大統領からも相談を受けているあの件ですね」
「ん? なんの話ですか? 総理」
「柏木先生のお耳には、まだ入っていませんか? UNMSCC(アンムサック)再編計画の話ですが」
すると柏木も「あぁあぁ」と頷いて、
「その話ですか。もしかしてロシアからも回答があったとか」
「はい。賛成するという話で、米国とも話がついたそうです」
「では、次の国連総会あたりで……」
「そうなりますかね」
一体何の話かと言うと、これも張や王、そしてインベスターも関わっている計画の一環で、特にインベスターが金をばらまいてその時間を短縮させようと、今一番『投資』している事、それは……
「で、どんな名称になりそうなのですか?」
「はい。今一番有力なのが、『連邦国(United Federation)』ですね。日本的な和訳をするなら『国際連邦』となりそうです」
「なるほど、『UN』から『UF』ですか……『地球連邦』にはならなかったんですね、はは」
「はは、そうですね。まあ地球連邦なんて御大層な主権体になるには、まだ人類としての連携が取れませんからねぇ。イスラム国家とか、独裁国家のような国もまだまだありますし」
それにこの世界では、『地球連邦』という言葉は、頭の悪いテロリストという意味の揶揄としても使われるので、当面はないだろうと。そんな名前の極左アホテロリスト集団もいたなぁとか、柏木とフェルは遠い目をする。
「で、日本はどういう立ち位置になるのですか?」
と柏木はフェルと井ノ崎に尋ねる。
柏木は現在ティ連側の立ち位置なので、そのあたりの詳しいことはまだ知らされていない。ティ連からも、最前線の日本でまずは地域国家国際社会でナシをつけてほしいという要請もある。柏木はそのあたりも想定に入れて、尋ねる。
「連合日本は、ティ連加盟国なので勿論この国際連邦には加盟いたしません」
「ま、そりゃそうでしょうな」
柏木はさもあらんと頷くと、フェルが、
『デモマサトサン、そうは言ってもニホンコクも地球世界の一員ですし、ヤルバーン州、いえ、ヤルバーン自治共和国の事もあるデスから……』
「そうですね。ですので柏木さん、日本はオブザーバー国ということで、国際連邦には加盟しませんが、参画はする予定です」
なるほどと思う柏木。ま、それもそうかと。
となると、今度の国連総会は、国連創設以来のものすごい出来事になるのだろうなぁと、なんとなくワクワクもする。そう、人類社会が、有史以来初めて互いに納得の上で事実上の世界統合した主権を作ろうという事業を始めるのである。
柏木はそろそろこれからの件も踏まえて、また近々に連合本部へ戻らなきゃいけない訳だが、この顛末は見逃すわけにはいかない。見届けないといけないということで、連合本部への帰還を少々先延ばしにしているのである……
* *
数日後……
その日のマスコミは、世界各国例外なく、今日この日を人類史上最も偉大なる日として書き立てることになる。
新聞にテレビ、ネット配信情報など。今日この日を、第二次世界大戦が終了したその時以降の、大きな地球世界の、社会再編として報道していた。
特に米国、EUは、その主導的役割を担う存在だと自称し、自らを讃え、また中国やロシアは自国の国家再編の主導的立場を、自国の指導者の成果としてこれまた自画自賛し、今後の世界の主導的役割を誇示しようとする。
ティ連の広域情報バンクにも、今日この日の、惑星国家……というには、まだ少し遠いが、少なくとも『惑星主権』とは呼ぶことのできる主権体の誕生を、広域情報官達は、好意的に情報バンクへアップロードしていた。
さてその内容……それは、二〇二云年の今日この日、英名『連合国(United Nations)』和訳『国際連合』が、その名称を変更し、英名『連邦国(United Federation)』和訳『国際連邦』と改称する日となったのであった。
略称はUNから、UFとなり、国際連合相互主権連携理事会|UNMSCC(アンムサック)は、国際連邦相互主権連携理事会|UFMSCC(ユーエフエムサック)と名称呼称を変更し、引き続きこれまでどおりの理事会機能を有する組織として稼働し、旧国連安全保障理事会は、UFMSCCの下部組織として、地球国内の国際紛争調停、鎮圧機関として稼働することになった。で、五大核保有国の権利として持っていた『拒否権』は廃止され、代わりに安全保障理事会に拒否権を出すことのできる組織として、UFMSCCが存在することになり、今後の国際連邦としての『国連』で、安全保障に関する意思決定機関としてUFMSCCは稼働することになる。
確かに、ティ連のような、完全相互理解の上に成り立つ連邦国家ではない。
ティ連も、所謂、連合国家、連合主権体であるが、各個別国家の主権は保証されており、連合本部の各機関と、連合憲章という各国家の主権を上回る上位法、そして連合防衛総省という、連合内で最も強力かつ、中立である実力組織であり、自治組織である存在が、ティエルクマスカ連合の平安を担保している。
所謂、完璧かつ理想的な連合国家なのだが、この国際連邦は、残念ながら、まだまだそこまでの域には当然達していない。
連邦とはいえ、非常に悪い言い方をすれば、ヂラールのような完全な敵対勢力はもとより、復興後の国力を鑑みたグロウム帝国や、現在のティ連、そのティ連の中でもとりわけ独自性の強い新参加盟国ゼスタールといった存在に、相対する……まあ言ってみれば、『敵の敵は味方』のような寄り合い世帯が、この国際連邦であるという見方もできる。
現在ティ連加盟国の日本や、ヤルバーン自治共和国をオブザーバー参画国として扱っているのも、いってみれば、国際連邦加盟国同士の暴走を防ぐ安全装置の役をやらされているわけであって、日本やヤルバーン自治国との同盟関係、即ち、ティ連との同盟を担保にして、地球各国の、今後の安全保障を確立させるための国際連邦と言っても良い。
そういうところもあって、純粋な『地球人の団結だー!!』というような連邦国でないのが少し情けないところだが、それでも張・王の起こしたクーデターに、ロシアのLNIF化などもあって、事実上CJSCA陣営が解散状態になり、全てがLNIF系国家になって、その国家価値観という面だけでも統一できたのは、人類にとって大きい成果であったといえる。
その日、第一期UFMSCC議長国となった米国、スチュアート大統領は、
「かつて存在した、国際連携組織、つまり、一九二〇年の国際連盟に始まり、第二次世界大戦後の、それまでの役立たずな国際連合があった。これらは結局、国同士の連絡機関以上の事にはならず、そして誰を村八分にするかを決めて世界を安定させるという、極めて不安定な組織だった。だから我が国アメリカ合衆国が、一時期は『世界の警察』として、世界中のロクデナシ国家に制裁を加えていたこともあった。だが、我が国が世界の警察をやめて、ヤルバーンという脅威の存在が地球に飛来した時、やっとのことで世界が現実を見据えることができて目を覚まし、今後宇宙からやってくるかもしれない脅威に立ち向かうため、国際連合は、今まで以上の主権性を高めた、この国際連邦にレベルをアップさせることができたわけである。これはそれまでの人類になしえなかった、偉大なるLNIFの勝利である。我々は今日この日の、国際連邦樹立を真の地球規模の同盟として、平和の証としたいと思う。国際連邦に神の祝福を!」
と、スチュアート大統領独特の言い回しで……ってか、ちょっと米国のやらかしている事を棚に上げた演説で、少々顰蹙を買いそうにはなっていたが、そこは後に続く、ロシアの現大統領閣下や、中国の張暫定国家主席、EU大統領ナドナドの、皮肉交じりのフォロー演説で体裁を整えて、高らかに人類初の統一主権体樹立を祝うのであった……
そう、二〇二云年のこの日。『国際連邦』が誕生した……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます