12.

「失礼します」

 入った談話室には、家族全員が揃っていた。

「えっ…待って何でレヴィ兄様までいるの…?」

 一人用のソファに腰掛けているのは、聖王国に戻ったはずの次兄であった。

「話があるって言われたら、大事な話だと思うじゃないか。仕事終わりでギリギリ間に合ったよ」

「いえいえ、レヴィ兄様を煩わせるような内容では…」

「まぁまぁ、いいじゃないのエレミア。まずは座って」

 母に促され、妹の隣に腰かける。

 小さな甥達はさすがにいなかったが、長兄夫妻もにこやかに笑いながら腰掛けており、何故だか無言の圧を感じた。

「あの…?」

 紅茶を淹れ終わった使用人が部屋から下がる。

 ますます怪訝に思い、問いかける言葉も尻すぼみになった。

「今日は魔導王国へ儀式の見学に行ったそうだね」

 父に問われ、素直に頷く。

「はい」

「聖王国のフェリックスと一緒に」

「え?ああ、はい。聖王国側の付添人として参加致しました」

「各国をフェリックスと回ると聞いたよ」

「はい…え、何か問題ございましたか?各国の儀式がどんな物か、興味があったので…」

「…儀式に?」

「はい。結界の儀式は聖王国の王か王太子でなければできないでしょう?我が国にはダンジョンがないので結界の儀式などありませんし、参加する機会はありません。通常二国間でのみ行われる儀式に、参加させてもらえるんですよ!こんな貴重な機会、逃せません!」

 興奮して明るく弾む声に、家族は戸惑ったような表情を見せ、互いに顔を見合わせている。

 まずいことを言ったのだろうかと首を傾げれば、母は笑い出し、父は困ったように眉尻を下げた。

「…フェリックスとずっと行動を共にするというから、嫁入り先を決めてきたのかと…。それの報告だと思ったんだよ…?」

「はい?」

 思わぬ言葉に、エレミアは目を瞬く。

 父の言葉の意味を考え、そして見つめてくる家族の顔を見、慌てて首を振った。

「ち、違います。違います。そういうのでは、ありません!」

「何だ、違うのか」

「びっくりした、決めるの早すぎ!って」

「まぁフェリックスはいい奴だ。ちょっと聖王国に我が家の血が偏るけど、エレミアの望みならしょうがないな、と思ってた」

「私、お姉さまには魔導王国のマーク兄か商業国家のリオン兄がいいと思うの!」

 話が変な方向に進んでしまったな、と思いつつ、縋りついてくる妹の頭を撫でる。

「どうして?」

「だって他の国は側妃制度があるもの!今の聖王国の聖王陛下は妃殿下のみだけれど、歴代の聖王にはだいたい側妃がいるわ。お姉さま一人を愛してくれるならいいけれど、側妃なんて作られたら許せない!特にドイル皇国は絶対!やめてね!皇王と皇太子には後宮が与えられるんでしょう?私だって絶対皇国には嫁がないんだから!嫁ぐとしても皇王や皇太子は無理!」

「あらあら」

 母は微笑ましいと言わんばかりに笑っており、義姉はわかる、と言わんばかりに頷いている。男性陣は苦笑しているが、下手に発言をして妹の逆鱗に触れる愚は犯さなかった。

 内心は妹に同意しつつ、エレミアは我が家の婚姻事情を話して聞かせる。

「リリー。基本的に我が家から嫁ぐ場合は一夫一妻、という約束があるみたいよ。この国の王家も、陛下は側妃が五人いらっしゃるけれど、わたくしが嫁ぐ予定だった王太子殿下は、一夫一妻になるはずだったの」

「…そうなの?」

「まぁ、それが嫌だからあの王太子殿下は婚約破棄する、なんて言い出したんだけれどね。他国に嫁ぐ場合は、ほとんどの場合政略じゃなくて恋愛をして嫁ぐのだから、まぁ…基本的には愛人や側妃なんて置く必要はないでしょう。後継が必要な家で産めなかったらその限りではないかもしれないけれど、今まで我が家から嫁いだ者が子を産めなかったという話は聞かないし、愛人やらを囲われた、という話も聞かないわね。…先代の虹色の瞳の娘くらいじゃないかしら?」

「こらエレミア。そんな言い方したらリリーが誤解しちゃうだろう?」

 窘めるような長兄の言葉に、エレミアは肩を竦めて冷静に返した。

「嘘はつきたくないもの。死ぬまで一人を愛して添い遂げられるのが理想だけれど…」

 人の気持ちは変わるものだ。

「少なくとも、我が家の直系は一途な性質だよ。私達は一人を生涯愛する。これは間違いない」

「こちらが愛しても、向こうが一途じゃなきゃ意味がないわ」

 妹の発言は真理である。

 家族全員が言葉に詰まるのを面白く感じながらも、エレミアは助け船を出した。

「我が家から嫁ぐ場合、一夫一妻とする、という約束は各国で有効なのよ。どうしてそんな約束が出来たのかはわからないけれど、仮に皇国の皇王や皇太子に嫁ぐとしても、後宮は解散もしくは作られることはないの。帝国も聖王国も、側妃や愛妾を側に置くことはできない」

「それは知らなかったわ」

「各国を回るようになってから学ぶことだもの。気にすることないわ」

「そうなのね…じゃぁお姉さまや私がどこに嫁いでも、大丈夫?」

「大丈夫よ。…向こうの気持ちが離れない限りはね」

「エレミア…」

 困ったような表情を浮かべる男性陣に対して、女性陣の理解のある表情であること。笑いそうになるのを堪えるのが大変である。

「お母様やノーマお義姉様、聖王国のフィオナは浮気の心配がないから安心ね。直系男子は一途なんだもの」

「そうね…」

 母も義姉も神妙に頷いている。

 旦那の女性関係は、いつの時代、どの世界でも揉める原因となるのだった。

 重くなった室内の空気を振り払うように首を振り、父が溜息混じりに呟く。

「心配ないよ。我が公爵家はね、自国では大切にされていないが、他国では違うんだよ」

 自虐のような言葉に家族全員が失笑した。

 後を引き継ぎ、長兄が口を開く。

「我が家には初代の加護があってね。直系の我々には、必ず男女が授かると」

「すごい加護ね」

 エレミアが感心したように言えば、皆も頷く。

「俺とノーマには今、男の子が二人だけど、いつか必ず女の子が来てくれる、という確約があるわけだ。我が家は多産というわけではないけれど、平均三人から五人は子が生まれる。最高では十人だったかな。とにかく、血が絶えることのない素晴らしい加護があるんだ」

「子はいらない、という選択をした娘もいたし、子は一人でいい、と言った息子もいた。産む産まないはもちろん自由だ。我が家の直系は「授かる」ことが確約されている。これが、どれ程すごいことかわかるかい?」

 父の言葉に、妹が答える。

「王族に嫁げば血が絶えることはない?」

「その通り。けれどね、不思議なことに、互いに愛情がなければ子は産まれないんだ」

「そうなの?」

「加護の縛りなのかもしれないね。一途な性質を持ち、子を授かることが出来る。でも愛し合った二人でないと、子は産まれない。だから我が家から嫁ぐ場合には、一夫一妻という決まりが出来たし、我が家と繋がりが欲しいだけ、という愛情のない結婚はそもそも無意味なんだ」

「そうだったのね…」

 エレミアもまた納得した。

「そうすると、わたくしが我が国の王太子殿下に嫁いだとしても、子は望めないということかしら?」

「そうだね。だから輿入れする意味がないし、そもそも我が家は初代の頃から、別に王家に嫁をやろうとも思っていなかった。我が家を引き留めたい王家の方から是非ともと請われ、我が家から嫁ぐ際には一夫一妻とし、妻だけを愛すると誓ったんだよ。それを…」

 父から殺気が漏れるが、母がそっと寄り添い腕を撫でる。

 はっとした父は溜息をつき、エレミアを見るがその瞳は温かかった。

「もうエレミアは自由だ。愛する人と、幸せになりなさい」

「ありがとう、お父様。…あの、」

 この流れをぶった切ることは躊躇われたが、本来聞きたかったことを尋ねることにした。

「ん?どうした?」

「四代ごとに王家に嫁ぐ娘の瞳は、わたくしと同じ虹色なんですよね」

「そうだね、初代の奥方の瞳だ」

「今日、伯母様に伺ったのですが、この瞳は神の血を濃く反映しているものだと。わたくしの魔力量が多いのも、そのせいだと」

「…ああ…聞いたのか」

「はい。…いけませんでしたか?」

「いや…」

 父は考えるように顎に手をやり、視線を伏せた。

 長兄夫妻と次兄もまた顔を見合わせており、妹は首を傾げている。

 母が穏やかな笑みを浮かべながら顔を上げた。

「ごめんなさいね。エレミアには、婚姻の時に話そうと思っていたのよ」

「…なんとなく、そうかなとは思いました」

 周囲の人々には周知の事実を、自分だけ知らなかったとなれば、あえて話さなかったのだということくらいは容易に想像がつく。

「あなた、せっかくの機会だもの。きちんと話しておくべきじゃないかしら?」

 母が問えば、父は重々しく頷いた。

「そうだな。…エレミア」

「はい」

 こちらを向いた父は、真剣な顔をしていた。

「バージル建国記は知っているね」

「はい。魔王討伐後、魔王の城があったこの地に移り住んだ人々のうち、最も身分の高かった双子の兄弟が人々をまとめて国を興したと」

「そう。兄が我が公爵家の祖となり、弟が王となった」


 我が国が建国されたのは千年程前のこと。

 魔王城があったこの場所は不吉な地として、長らく足を踏み入れる者はいなかった。

 周辺にはすでに勇者一行が興した国が栄えており、犯罪奴隷や権力闘争に敗れた貴族、食うに困った平民達が逃れ逃れて廃墟となった魔王城で生活をしていた。

 そんな中、帝国の上位貴族の子息であった双子の兄弟が自分達を慕う者達を引き連れて、魔王城へとやって来た。

 親や兄の犯罪を告発しようとしたが、反対に犯罪者として追われ逃げて来たのだった。

 兄弟は領地経営の才があり、何となく生活していただけだった者達をあっという間にまとめ上げ、城周辺を整備して、街を作った。

 魔王城周辺は盆地になっており、周囲は三方を山に囲まれ、南に帝国へと繋がる大河があるのみ。自然の要害として優秀であり、小さな国を興すのに支障もなかった。

 土地は痩せてはいたが何も作れないわけでもなく、森林には豊かな実りがあり、ダンジョンはなく魔獣もいない。

 まだ王国ではなく、弟もまた王ではなかったが、山を削れば魔虹石という貴重な魔石が採掘出来たことで、他国と取引が始まった。

 また、この国でしか成長しないドラゴン・ハートという果物の量産にも成功した。栄養価が高く、丸く堅い外郭の中には柔らかなピンクの果実が入っており、そのまま食べても美味しいし、スイーツにしても良く、火を通すと甘味が飛んで、鳥のささみ肉のような食感になるので料理に使うこともできる万能果物である。

 種を植えれば痩せた土地でもひょろりと背の高い木がよく育ち、平民の家の庭には必ず植えてある。輸出をすればいい値段で売れる為、我が国の特産品となっていた。

 貿易を行うには必然的に他国と対等な立場が必要となり、この国は王国となったのだが、王についたのは弟であった。弟は統治に優れ民の声もよく聞く名君であり、兄は商才に長け交渉に長けていた。兄は公爵となり、弟の治世をよく支え、弟もまた兄を頼り大切にした。

 

 王家と公爵家は対等であると宣言したのだった。 


「この国が王国となる前、兄の前に神が降臨した」

「神が…?」

「金の髪、虹色の瞳を持つ、世にも美しい女神が突如現れ、兄を見初めた」

「…どうして突然現れたのでしょうか?」

 素朴な疑問を口にすれば、父は顎に手をやり、文献を思い出すような仕草をした。

「この大陸を見に来たと。魔王と呼ばれた者が支配していた頃よりも発展している、と大層お喜びになり、この国の現状を知り協力しても良い、とおっしゃった」

「親切な女神様だったのですね?」

「神と言われているが、実際の所は不明だ。聖王国が信仰している創世神は男神だし、伝わっている創世記に出てくる神々の中に、該当する外見の女神はいないんだ。魔王の生まれ変わりであるとも、龍であるとも言われている。龍は伝説の存在と言われているが、別大陸には存在したとかしないとか…この大陸には存在しなかったようだが」

「わざわざ別大陸から見に来られたのだったら、確かに神と呼ばれてもおかしくはないですね」

「うむ。それはともかく、見初められたのは兄だった。魔虹石を発見したのも、他国と取引するのにふさわしい商品がないかと試掘していた時に見つけたらしい。最初はただの魔石だと思ったようだが、神によってその価値を知らされた。国を興し、他国と対等に立つ為の武器を手に入れた」

「侵略の危険があったのでは?帝国とは大河で接しているのですよね」

「そう、そこで神の加護だよ。神は夫となった兄を一途に愛し、兄もまた神を愛した。兄は弟の方が王に向いていると奨め、弟は即位した。…王になったら妻より国を優先せねばならないから、女神は夫が王になることを望まなかったとも言われるが、真実は定かではない。だがとにかく、兄は公爵として、国を陰から支えることを選んだ。神の存在は、他国への切り札として使われた」

「…侵略してきたら、神がやり返すぞ、と?」

「そう。公爵家が外交と貿易を一身に担っている理由はそこにある。初代公爵とその妻は、十人の子を授かり、嫡男を残して子供達は全て他国へと嫁いでいった。今の公爵家の在り方は、初代の頃からなんだよ。各国と血縁関係を作り、親戚となって神の血を分ける…という言い方をしてはあれだが、子供達はどの子も非常に優秀だった。いくつもの発明をし、魔法を魔導として確立し、魔道具を発展させた。おまけに子宝にも恵まれる。そして四代ごとに王家に嫁ぐ娘は、金の髪と虹色の瞳、おまけに膨大な魔力を持ち、神の再臨を思わせるような輝く容貌の持ち主が産まれる。これが神の御業でなくて何だというのか。他国はこの国を、認めざるを得なかった」

「なるほど…」

「四代ごとに娘を王家に嫁がせようと提案したのは弟からだ。神の血が欲しかったのかもしれないし、純粋に兄を慕っていたのかも知れないが、これも真実はわからない。公爵家に残る兄が残した日記には、「兄弟の血が永劫この国を守り繁栄させて行く為、協力しようと言われ了承した」、とある。妻もそれを了承し、四代ごとに産まれる娘には祝福を与えた。…それが、その外見と魔力量だな」

「そうなのですね」

「…そういうわけで、神の血を最も濃く宿した神の娘として、この国の繁栄を約束する尊い存在なんだ…エレミア、おまえは王家から愛され、大切にされる為に生まれてきた娘なんだ。…本来ならね…」

「片鱗もなかったようだがな…」

 長兄の苦々しげな声に、部屋の空気は重くなる。

「この国は、我が家を除けば鎖国状態だ。特に情報や物資を制限しているわけでもないのに、貴族達は外へ出ようとはしないし、外のことに興味がない。国民総中流とでも言うべきか、貧民はほぼ居ないし、職にあぶれる者がいても公的補助が充実している。他国における首都人口くらいしかいない小国だから、やっていけている…という事実にすら、気づいていない。無論この国の民は、我が公爵家が神の血を引く一族であることも知らない」

「…そんな気はしていました」

「王家すらも忘れているのではないかと思うが」

 次兄の言葉に、皆が頷くが、父は苦笑した。

「おそらく初代王である弟は、神のことをどこにも遺していないんじゃないかと思うよ」

「どうしてですか?」

「ああ、なるほどね」

「…母上?」

 得心がいったような表情の母と、怪訝な表情の長兄が対照的だった。

「ふふ、想像してみてちょうだい。自分は王になったのに、神の加護があるのは双子の兄なの…」

「……」

「複雑な気持ちにならない?わたくしなら「どうして自分じゃないんだろう」って、考えてしまうかもしれないわね。いっそ兄が王になればいいのにどうして、って」

「…あぁ…では四代ごとの約束を取り付けたのも…?」

「さぁね、わたくしは初代王ではないからわからないけれど、どこかに遺してしまったら王家の正当性に疑問を持つ貴族が現れるかもしれないし、神の血を他国にやるなら自分にも、って思ったのかもしれないわね。想像で物を言うのは簡単だけれど、王家の態度を見ると、公爵家が嫁ぐ意味を見失っていることは確かよね」

「そうですね…」

 神妙な表情で頷く長兄を置いて、父はエレミアへと視線を向けた。

「エレミアに教えていなかったのは、その事実が強力な縛りになることを恐れたからだ。神の血を引く選ばれし娘だから、絶対に王家に嫁がねばならないと、この国の為に犠牲になるのだと、思って欲しくなかった。願わくば、生まれる前から決まっていたとはいえ、婚約者と仲睦まじく愛を育んでくれればと思っていた。…言わなくても真面目なエレミアは全てを受け入れ、諦めていたと知った時の私達の気持ちは…いや、それはいい。だが王家側は本来その事実を知っていなければならない。そして知っていればエレミアに対して非道など行えようはずがない。這い蹲ってでも王家に来て下さい、大切にします、と誓うべき立場であるのはあちらだ。それを台無しにしたのだから、こちらに非はない」

「…はい、お父様」

「そんな不義理な王家に、尽くす必要はもうありませんよね」

 長兄の辛辣な言葉に返す父の言葉は重々しい。

「…ダニエルよ」

「はい」

「次期公爵はお前だ。見極めよ。この国に残るも残らないも、お前次第だよ」

 家族は密かに息を飲む。

 この国を捨てる選択肢があることを、父は明確に示唆したのだった。

「わかりました。すでに結論は出ているのですが…後悔のないようにしたいと思います」

「ああ。手続きや移住先の心配はしなくていい。それは現公爵である私の仕事だ」

「…はい、父上」

 父の気持ちはすでに決まっているようだった。

 元々長兄夫妻以外は、他国で生活することになるのだ。歴代の公爵夫妻もまた、爵位を譲った後は他国で生活するのが通例である。


 この国に我々家族を縛り付ける理由など、何もない。


 王家やこの国が我が家を大切にしてくれないなら、こちらも大切にする意味はない。

 「神の血」を理解したエレミアは、不思議な解放感に包まれていた。

 王家に捧げる為に産まれる四代ごとの娘には、神から祝福が与えられていたという。

 国の繁栄の為に。

 ならばその祝福を、これからは愛する人や移住した先の国の為に使いたい。

 自由に生きていいのだと、自分で愛する人を見つけていいのだと思うととても嬉しい。

 その感覚は前世日本で生きた感覚に近かった。

 自由があった。選択することができた。恋愛も自由で、結婚も自由だった。

 「自分で選択できる」ことの幸せは、この国で将来を決められていたエレミアにとっては何物にも代え難い幸福のように思える。


 理解してくれる家族で良かったね、エレミア。 

 勇気を出して言って良かったね。

 もし家族の誰も理解してくれず、強制的に嫁げと言われるのであれば、前世を思い出した『私』はおそらく家族も国も捨てて家出していた。

 どうとでも生きていける自信はあった。

 外見さえ目立たないようにできれば、市井で民に混じって生きていくことは不可能ではなかっただろうと思う。

 幸いにもエレミアは家族に恵まれた。

 新しい人生を、探しに行こう。

 家族も一緒なのだ。

 こんなに幸せなことはない。

 そう、改めて思うのだった。

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