第10話 会談初日を終えて

 3月23日深夜 東京都内 某ホテル


 会談後、案内されたホテルの一室で、クラート王国の交渉団は会議をしていた。


「日本という国は、何を考えているのでしょうか。あれほど巨大な軍艦や、これほど高度な都市がある国が我々に求めるのが食糧だけ。てっきり、属国になれとでも言ってくるのかと思いましたが………」


 カーラの発言に、他も同意する。


「あの程度の食糧なら、多少の魔力がある土地ならいくらでも賄えるはずです。これほど強大な国家が求めるようなものではありませんな」


「ならば、いったい連中は何を目的にしてあのような要求を?意味が分からんぞ」


「ひょっとしたら、これから要求が段々大きくなっていくのではないでしょうか。あくまで今回は従うかどうかを試すための一手に過ぎないのかもしれません」


「いやしかし………」


 日本の意図を読めない彼らの会議は、長時間に及んだ。


 ――――――――――――――――――――――

 ほぼ同時刻 首相官邸 閣議室


『あの程度の食糧なら、多少魔力がある土地ならいくらでも賄えるはずです。これほど強大な国家が求めるようなものではありませんな』


「………魔力がある土地なんてわが国にはないのだがねえ。どうやら連中は阿呆な勘違いしているようだよ。須賀くん」


「仕方ないだろう。我々とクラートでは文字通り【世界が違う】のだからね」


 小型の機械からリアルタイムで流れてくる会議の音声。それを聞きながら、須賀総理と亜草副総理は話していた。


「にしても不用心だな。盗聴の可能性くらいは疑わないのかね」


「そもそも盗聴という概念があるのかすら怪しい気もするが。まあ良い。とりあえず、こちらにはそれなりに従ってくれそうで良かったよ」


 切れ者二人の話し合いは、クラート王国側の会議の裏で密かに進んでいた。

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