第6話:図書館の妖精①
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クリスティナお姉様へ
学校生活にはもう慣れましたか?こちらはお姉様がいなくて寂しいです。
最近なぜか猫が庭に出入りするようになってこっそり餌をあげていたらラッセ(執事)に見つかってため息を吐かれてしまいました。
お父様が猫アレルギーなので飼うのは反対されたのですが餌をあげる許可は貰えました!
私もお姉様のように博識になりたいので近頃は勉強を頑張っています。
休暇には必ず帰って来てくださいね。楽しみにしています。
ユーリア
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学校生活も三か月が経ち、少しづつペースが掴めてきた頃ユーリアからほのぼのした手紙が届いた。あちらも何とか平和にやっているようだと安堵する。
「よし、私もひとつ返事を書こう」
そう思い引き出しから便箋を取り出しペンを握る。
(うーん…最近あったことと言えば…)
「ティナ、ティナ!」
「あ」
本棚の影から小声で呼びかけてくるリクハルド様は周りをキョロキョロと見まわした。おそらくソフィア様を警戒しているのだろう。
ソフィア様は私をリクハルド様から遠ざけているのだろうけど、周りから見れば逆にリクハルド=悪い虫から守ってくれている構図になっていて私としては平和だ。
おかげで毎日ゆっくり本が読めている。
「今ソフィア様は女子寮責任者会合に出ていますからいませんよ」
「なんだ、そうか。そうだった」
リクハルド様はホッとした様子で棚の影から出てきた。ソフィア様はさすがというべきかさまざまな委員の代表やら責任者やらを務めているので忙しい。
「少し話がしたいから裏庭にでも行かないか?」
「裏庭に?…まぁ、良いですけど」
近頃はあまり会っていなかったので久しぶりだしまぁ良いか、と了承した。
「何か困ったことはないか?」
「いえ、特には」
「そ、そうか」
明らかにがっかりしている。何か期待していたのだろうか?先輩風を吹かせたいとか?
心なしかリクハルド様の後ろの花壇の花もしょんぼりしているように見えた。
「…ティナが学校に通うようになったら毎日会えると思ってたのに」
「え、それはウザ…いえ、何でもありません」
「……」
そんなジトっとした目で見られても困る。私は別にリクハルド様に会うために入学したわけではなく、もっと色んな知識を得るために来たのだ。…主に本しか読んでいないが。
「リクハルド様は最近何か読まれました?」
「いや、俺は本は読まない」
…全然趣味が合わない。ここで何か一冊でも挙げてくれたら会話も広がるのに。
「でもこの間美術館に絵画を見に行ったんだ!」
「絵画ですか」
「色々な国の絵があったけど
「へぇ!それはすごいですね!キレイな色なんだろうなぁ。見てみたいです」
「だったら今度一緒に、」
「リクハルド殿下」
「!」
ものすごい怒気を含んだ声が背後から聞こえて二人してゆっくりと振り返ると、予想通りソフィア様が仁王立ちしている。
「殿下はなぜこんなところにいるのですか?」
「いや、その…」
「殿下は男子寮の学年責任者でしょう?なぜ会合をさぼるのです!?」
「え、さぼったんですか!?」
驚いて声をあげるとリクハルド様が気まずそうに視線を逸らす。だからさっき「そうだった」と言ったのか。
「あなたも!」
「!」
「本は図書館で借りて自室で読むようにと言ったはずです。今日殿下が会合をさぼったのはあなたのせいよ」
(ええー、言いがかりやん…)
なぜか理不尽に私まで怒られたが言い返すと倍は返ってきそうなので、すみません、と謝る外なかった。
***
とはいえ、私は本を読むために学校に通っていると言っても過言ではない。したがって翌日も気にすることなく図書館に来ていた。
せっかくだから昨日リクハルド様が教えてくれた絵具の事を調べてみようと思い美術関係の棚を探すため壁に掲げられたフロア案内を確認する。
(二階の奥か…)
一階はそれなりに人がいるが二階は専門的な書物が多いからかがらんとしている。奥に進むと人っ子一人いない。まぁ集中できて良いが。
(絵具の事が書いてありそうなのは…あ、これかな?)
見つけた本は棚の上の方にあり、背伸びしてみたがあと少し届かない。脚立でも借りて来ようかと思った時、後ろから手がにゅっと伸びてきた。
その手は私がまさに取ろうとしていた本を指さし…
「これ?」
「あ、はい!」
少し驚いて振り返ると上級生らしき男性が難なく本を引き抜いて私にスッと渡してくれた。
「あ…ありがとうございます」
「どういたしまして」
男子生徒は爽やかに微笑むとそのまま去って行った。かなりの好青年だ。
(うわー、こんな出会いイベントドラマで見たことあるわ)
こういう事がきっかけで恋が始まったりするんだろうか。前世ではこんなドラマチックな経験はしたことなかったのでちょっと新鮮だ。
…まぁ、どんな恋愛イベントも今の私にはまったく刺さらないけれど。
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