第23話 裏切り者がいる

—1—


 西地区に入ってすぐに里菜と洋一に会った。


「おう。あれっ剛は?」


「ここに来る時に警察に追いかけられてバラバラになったの」


「そうだったのか。でも、洋一が里菜と一緒にいるとはな。てっきり1人で行動してるのかと思ってた」


「1人じゃできないことってあるだろ。里菜と協力して特別ルール1を実行してたんだよ。さっき全員分の写真を撮り終わったところだ。はやとも俺たちのおかげで昨日助かっただろ」


「あっ、あぁ確かに」


「私と洋一で全員分撮ったから後1人でも誰かしらが警察のことをカメラで撮れば即脱落にできるわよ」


「剛は撮らなかったんだね」


 こころが聞く。


「剛は本当のピンチになったらやるって言ってたよ。それに撮る方もそれなりにリスクがあるし」


「そう……だよね」


 ブーブーブー、ブーブーブー。

 俊介からだ。


『はやと今どこだ?』


「西地区に入ったすぐの所にいるよ。里菜と洋一も一緒にいる」


『分かった! 俺もそっちに行くよ。合流しよう』


「おっけー。じゃあ待ってるよ」


 電話が切れた。


「誰からだ?」


 洋一が俺に聞く。


「俊介だよ。こっちに来るって」


「そうか」


 4人でこれからどうするかを話しながら俊介が来るのを待った。

 だが、俊介より先に違う人物が来た。


「翼だ」


「走ってくる。逃げるぞ!」


 隠れ場所が少ない西地区を走る。足が速い翼がどんどん近づいてくる。


「はやと二手に別れよう!」


「そうだな!」


 洋一の提案で俺とこころ、洋一と里菜が別々な道に別れた。


「くっ、こっちに来た」


 翼が俺たちの方に曲がってきた。


「このままじゃ2人共捕まっちゃう……」


 そう言い、こころが走りながら体を反転させスマホを翼に向ける。そして瞬時にシャッターを切る。


「ダメだ走ってるからブレちゃう」


「このまま走って逃げ切るぞ!」


「うん!」


 どこに向かって走っているわけでもなく、がむしゃらに走っていると突き当りから明日香が現れた。


「最悪だ」

「はやと、こっち」


 横道に入る。明日香も翼もまだ追ってくる。俺たち含めみんな必死だ。自分の命が懸かっているのだから。

 正面から警察の本間ひよりが走ってきた。

 挟まれた。抜け道がない。2人捕まるわけにはいかない。こころだけでも逃がさないと。


「こころ! ひよりに俺が突っ込むからその間に逃げてくれ」


「えっ、でもはやとは?」


「俺は捕まるかもしれないけど俊介たちが助けに来てくれるはずだ」


 明日香と翼が後ろからせまってくる。


「考えてる暇ないぞ! 行くぞ」


「う、うん」


「はやと! こころこっちだ!」


 俺が突っ込んでいこうと覚悟した時、何者かに声をかけられた。


「早く来い!」


「剛!」


 西地区の数少ない民家の中から剛が現れた。玄関のドアを開き手招いている。

 俺とこころは剛の家に飛び込んだ。剛がすぐに鍵を閉める。


「これで大丈夫だ」


 翼と明日香がドアを叩く。


「おい! 出てこいはやと!」


「ささっ中に入れ」


「剛この家は?」


「じいちゃんの家だ。でも今は老人ホームに行ってるから誰も使ってないんだ。ばあちゃんはもういない」


「そうなのか」


「ここがバレちゃあ捕まるのも時間の問題だと思うから裏口から逃げよう」


「うん! 安全な場所に逃げよっ」


 こころと剛が裏口に向かう。

 こころはそう言ったがゲーム中に安全な場所なんて存在しない。あくまでここよりも安全な場所にということだろう。

 裏口から外に出て再び西地区の畑や田んぼのエリアに戻った。警察はいなくなっていた。


「それにしても次から次へと警察が出てきたな」


「危なかったねー。2回も急に出てくるなんて本当に偶然だね」


「2回もってそれ偶然すぎないか?」


 剛が眉間にしわを寄せながら呟いた。


「言われてみればそうだな。警察は今6人しかいないからな。確率的に考えたら低すぎる」


「だろ」


「だとしたら誰かが警察を誘導したってことか?」


「あくまで可能性の話だけど、なくはないよな」


 ここで俺は昨日不思議な動きをしている奴を思い出した。


「泥棒の中に裏切者がいるかもしれない」

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