第3話 ゲームスタート

—1—


 作戦は存在感の強い俊介しゅんすけ浩也ひろやを中心に行われた。

 単独行動はせず3~5人くらいのグループを組み、助け合うということで全員が首を縦に振った。

 

 だが、積極的に話し合いが行われる中、あまり表に出たがらない小池雅人こいけまさと遠藤勤えんどうつとむ前田翔子まえだしょうこの3人は、後ろの方でヒソヒソと何かを話しているだけで意見を出してはこなかった。

 

 時計の長針と短針が12時のところで重なる。いよいよゲーム開始の時間だ。

 佐々木と付き添いの人、林先生が帰ってきた。


「みなさん、いい作戦は思いつきましたか? ゲーム開始の時刻となりました。泥棒チームのみなさんは、外に出て自由に逃げて下さい」


「よし行こう!」


 俊介を先頭に校庭に向かった。


「じゃあ、作戦の通りグループに分かれてくれ!」


 みんながそれぞれ仲の良い人たちでグループを形成していく。


「ねぇ、はやとどうするの? 私たち2人しかいなよね。誰か入れないと」


「空いてる奴に声かけるか」


 まだグループを作っていない人がいないか訊きに行こうとしたとき、背中をトントンと叩かれた。


「はやとくん、こころちゃん。まだ人数空いてる?」


「おっ、桃! あぁ、俺らまだ2人しかいないんだよ」


「桃っち入ってー」


「よかったー。うち余っちゃって」


 テヘッと桃が笑う。

 なんで男子から人気が高い桃が余ったのだろうと周りを見渡すと、男子共が俺を睨んでいた。


「うわっ」


「はやとどうしたの?」


「いや、なんでもない」


 みんな奥手で桃を誘えなかっただけのようだ。羨ましそうに見ている奴もいた。

 ブーブーブー、ブーブーブー。

 渡されたスマートフォンが振動した。


「なんだ?」


 画面を見る。


【2つ言い忘れてました。1つ、捕まった後に入る牢屋は体育館となります。2つ、逃亡範囲は北地区と西地区までとします。これを破った場合は即脱落となります。ご注意下さい。それでは、ゲームスタートです!】


「待てぇーー!」


 昇降口から警察チームが勢いよく飛び出してきた。

 10人くらいか。


「みんな! 逃げるぞ! 連絡はスマホで!」


「絶対逃げ切るぞ!」


 俊介のグループの浩也、酒井夏帆さかいかほ、菅原まなみが校門を抜けて走って行く。

 それに俺たちも続く。


「こころ大丈夫か?」


「全然平気だよ! 桃っちは?」


「うちも大丈夫! だけど」


 桃が後ろを振り向く。


「はっ!? なにやってんだよあいつ!」


 俺は目を疑った。

 校庭の真ん中に泥棒チームの渡辺洋一わたなべよういちが突っ立っていた。

 警察側が走ってきているのに微動だにしていない。


 洋一はクラスでいつも単独行動をしていて孤立していた。

 普段は教室で本を読むかスマホをいじるかのどちらかだった。

 自分から誰かに話そうとしたことをあまり見たことがない。放課後になると真っ先に帰っていた。部活にも所属をしていない。


「洋一逃げろ! そのままじゃお前捕まるぞ!」


 洋一は反応しなかった。

 いや、歩き出した。昇降口に向かってゆっくり、ゆっくりと。


「もうだめだ。行くぞ!」


 俺たちも校門を抜け、とりあえず北地区に向かった。


—2—


「なんで逃げないの? バカなの?」


 クラス委員の明日香が洋一に触れる。


「桜、体育館にいる誠に報告して。洋一を捕まえたって」


「うん。分かった!」


 桜が誠に電話をかける。


「さぁ行くわよ」


 明日香が洋一の腕を掴み引っ張る。


「翼、亮! 後はお願い」


「おう! 任せろ」


 野球部のエースの亮が7人を率いて泥棒を探しに行った。

 

「おいおい、そんなに強く引っ張らないでくれよ」


「なら、ちゃんと歩いてよね」


「はいはい」


 中性的な顔立ちの洋一の口角が僅かに上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る