第40話 科学者というものは大抵こうなのだよ
地元の夏祭りで上がる打ち上げ花火。動かなくなってしまったその打ち上げ筒に、
「お前を作ったっていう博士は花火の機材まで作ってんのか」
「そんな話は聞いた事もないけれど……けれどあの人の技術なんて、並みの科学者じゃ盗むことはおろか理解する事すらかなわないはず」
「つー事は、本人が作ったモノに間違いない、と」
「ええ、そうなるわね」
打ち上げ筒へ視線を向けながら、
それを後ろで聞いていた花火師たちの一人、リーダーらしき男性が声をかけてきた。
「あんた達、真季那博士の知り合いなのか?」
「……そうね、言うなれば娘みたいなものかしら」
そう短く真季那は言い、反対に男に尋ねる。
「あなたこそ、うちの博士をご存知のようね」
「ああ。今年用に用意してた打ち上げ筒が不調を起こしてな。その時、たまたま通りかかった博士が声をかけてくれたんだよ」
そう言って男はメカメカしい中身を覗かせる打ち上げ筒に視線をやりながら、
「博士はこの筒をイチから作り、俺たちに協力してくれたんだよ」
「そうなの……?あの人が他人のために動くなんて、随分と珍しいわね……」
基本的に研究第一で、他にはあまり関心の無い人物なのだ。自身が作り上げた真季那は娘のようにかわいがっているが、他の人に対しては10回会わないと名前を覚えられないほどである。
そんな博士が、たまたま通りかかった先で困っていた人をなんの見返りも無く助けるなんてかなり珍しい事だった。だから真季那はそこについて考え出したのだが、それはすぐに中断させられた。
「そりゃあ、かわいい娘がお友達と祭りに行くなんて聞いたら、思い出に残るものにしてあげたいじゃない」
そんな声が、真季那たちの背後から聞こえたからだ。
そこにいたのは、こちらに向かって歩いて来る、青色の作業服に身を包んだ若い女性だった。その横にはタイヤのついたゴミ箱のようなロボットが、彼女の歩く速度に合わせて並走している。
「博士……来ていたのね」
「やっほー。ホントは会う予定じゃなかったんだけどね」
そう言って爽やかな笑みを顔に浮かべるこの女性こそ、真季那を作り上げた、真季那
博士と言うくらいだから白い髭を生やしたおじいちゃんを想像じていた翔はしばし驚いていた。
「そっちの子はお友達?あ、もしかして彼氏さんかな?いやー、親より先に男を見つけてくるなんて、美少女に作り過ぎたかなーアハハ」
「何を楽しそうに……。彼は友人よ。ロボットの私に恋人なんて必要ないでしょう」
からかうような博士の声に、真季那は顔色一つ変えずにたしなめる。
話に上がった翔本人は、二人の独特な距離感に苦笑を浮かべていた。
「それで、なぜ博士はこの打ち上げ筒を作ったのかしら。今まで自分の気が向いた物しか作らなかった博士が、人のための物を」
「ちょっと人聞きがわるいなー。花火の打ち上げ筒だって、興味がないと言えばうそになるんだけど」
むすっとしながらそう言う博士は、隣にいる円柱型のロボットの背中を、右手でポンと押した。するとロボットは、それだけで自分の役割を理解したように打ち上げ筒のもとへ向かい、体から出て来た4本のアームで修理を開始した。
「さっきも言ったけど、コズちゃんがお友達と祭りに行くなんて初めてじゃない?それを花火無しになんてしたくなかったのよ」
「あくまで私のためにやった、と言いたいのね」
「そういう事。ただの親心だよ」
そこまで言われると真季那も強くは出れないのか、これ以上迫るのはやめた。
そんな2人の会話を聞いて、翔は首を傾げる。
「コズちゃん、って誰だ?」
「……私の呼び名よ。あまりセンスのないあだ名だから人には聞かれたくなかったけれど」
真季那の正式名称は、
「苗字が真季那なのに、なぜ名前の方も日本人らしいものにしなかったのか、疑問で仕方がないわ……」
「いーじゃない、カッコイイし」
反省も後悔もしてないような博士の態度を見て、真季那はため息をついた。名前の話は今に始まった事ではないので、もうほとんど諦めていた。今はそれよりも大事な事がある。
「この打ち上げ筒、直るのでしょうね?上では友人を待たせているのだけど」
「あらまあ、まだお友達がいたなんて。あとで紹介してね」
すぐ話が脱線する博士を、半ばにらむように真季那は視線を投げる。それを受けて博士は懲りたように笑みを浮かべて、頑張って修理しているロボットの背中を触った。そこに音も無く浮かび上がったホログラムのパネルを見て、博士は小さくうなる。
「うーん……これはなかなか、予想外の怪我をしてるわね。もう少し時間がかかるかも」
そう博士が告げた直後、辺りのスピーカーから打ち上げ花火が遅れる旨のアナウンスが流れた。最初に不具合が分かった時に、放送担当者に伝えていたのだろう。
これで見物客にはしばらく待ってもらう事となった。あとは早急かつ確実に、故障を直すだけである。
「さあーて、コズちゃんとそのお友達のためにも、博士頑張っちゃうぞ!」
自身の周囲にホログラムパネルをいくつも広げながら、博士は気合いを入れるように腕をまくった。
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