等身大で生きてます!

ポテトギア

始まりの一学期 編

第1話 人間とロボットと猫

 春が終わり、夏が始まる。四季と呼ばれるように、季節は四つに区切られているが、季節と季節に間が存在するのではないかと彼女は思っていた。


「この涼しくも暖かくもない感じ。なんか落ち着かないんだよねぇ」


 朝の通学路。鞄を揺らしながら歩く呼詠こよみ 人美ひとみは、春と夏の間の空気を感じながらそう独りごちる。


「気温の変化が激しいと体調も崩しやすいと言うものね」


 そんな人美の呟きに、返す静かな声があった。人美の隣で一緒に歩いている少女の名は、真季那まきな・C42。彼女は人美の同級生であり友人であり、なんと天才発明家により造られた女子高生型ロボットでもあるのだ。なんと、と言ってもそのミステリアスな名前でほぼ分かるのだが。

 しかしロボットとはいえど、近くで見ても全く人間と遜色ない。むしろ並の人間よりも美人だと人美は思う。


「え、マキも体調悪くなったりする事あるの?」

「そうね…… 体調不良と言うほどじゃなけれど、極端に暑い日なんかはメンテナンスが必要だったりするわ」

「へぇー」


 どうやら人間同様、ロボットにも夏は天敵のようだ。年々強まっている夏の暑さは、今から想像するだけでも気が滅入りそうだった。


「あ、くまこ」


 来たる灼熱の夏を想像して朝早くからぐったりしている2人の前に現れたのは、一匹の野良猫だった。少し前に出会ってから何故か懐いたその猫は、毎朝近くを通る度に顔を見せるようになっていた。

 ちなみに『くまこ』とは人美の命名だ。茶色い毛並みが熊みたいなので、くまこである。


「おいでー、くまこやー」


 人美が身をかがめて手を伸ばすと、くまこはてとてと歩み寄る。しかし、人美の方へ来ると思いきやするっと脇へ避け、隣で見下ろしていた真季那の足元へやってきた。


「なんだと……!?」


 完璧なスルーにショックを受ける人美。だがくまこは真季那の足元をぐるぐる回った後、ゆっくりと人美の元へ歩く。


「ほれほれ、ほーい」


 人美は両手をひらひらと振ってくまこを誘うが、くまこはその手をまたもや掻い潜り、大きく跳んで人美の肩に乗った。

 そして人美が肩へ手を伸ばすと、今度は頭の上に乗る。


「あれ?」

「……完全に遊ばれてるわね」

「ぐぬぬ……」


 捕まえてみろよ、と言っているようなドヤ顔を決めるくまこと格闘する事しばし。人美はようやくくまこを捕え、遊ばれた仕返しに精一杯なでなでした。


「人美、そろそろ行かないと遅刻してしまうわ」

「あ、そうだった。私たち学校行ってるんだった」


 登校中だと言うことが頭の中からすっぽ抜けていたようだ。人美はハッとしたように立ち上がる。くまこに手を振って別れ、2人は学校へ向かって歩みを進めた。


「そういえばマキ、ロボットなのにくまこに懐かれてるよね」


 それでも話題はくまこだった。女子高生にとって猫とは偉大なものなのだ。猫がJK社会の頂点に君臨する日も近いのかもしれない。


「こう言っちゃマキに失礼だけど、最初はくまこ怖がるかと思ったよ」

「大丈夫、それについては同意見よ。私の身体には無駄に恐ろしい機能が満載だもの。ヒトより賢い猫はそれに気づいて怖がると思ってたのだけれど」


 真季那の身体に搭載された多彩な機能の一部には、プラズマレーザーだの無火薬小型ミサイルだの、いつ使うんだよ、とツッコミたくなる機能が多数存在している。

 真季那・C42の生みの親、真季那 理恵りえ博士曰く『ロマン』の一言に限る、らしいのだが、真季那からすれば余計な物はつけないで欲しかった。


「くまこにはきっと、マキはこわいロボットじゃないって最初から分かってたんだよ。くまこ賢いし」


 こちらを振り向きながらそう笑いかける人美を見て、真季那も釣られて微笑んだ。


「そう思ってくれたのなら、嬉しいわね」


 そう微笑む彼女を見た者の中で、彼女がロボットだと気づく者は誰一人としていないだろう。それくらい人間らしく、その顔に小さな笑みを浮かべていた。


「うんうん。マキは笑ってる顔が一番かわいいよね」

「突然何を言い出すのかしら」


 恥ずかしがると言うよりかは困惑している真季那。何言ってるんだこの子、みたいな目をわりと本気で向けていた。


「分かってないなー、そこは照れたりする場面でしょう!」

「本当に何を言っているのかしら」


 高性能ロボットの真季那ですら理解不能な事を言う人美に、真季那は真顔で切り返した。

 実はそれが彼女の精一杯の照れ隠しだという事に、人美は気づいていない。

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