等身大で生きてます!
ポテトギア
始まりの一学期 編
第1話 人間とロボットと猫
春が終わり、夏が始まる。四季と呼ばれるように、季節は四つに区切られているが、季節と季節に間が存在するのではないかと彼女は思っていた。
「この涼しくも暖かくもない感じ。なんか落ち着かないんだよねぇ」
朝の通学路。鞄を揺らしながら歩く
「気温の変化が激しいと体調も崩しやすいと言うものね」
そんな人美の呟きに、返す静かな声があった。人美の隣で一緒に歩いている少女の名は、
しかしロボットとはいえど、近くで見ても全く人間と遜色ない。むしろ並の人間よりも美人だと人美は思う。
「え、マキも体調悪くなったりする事あるの?」
「そうね…… 体調不良と言うほどじゃなけれど、極端に暑い日なんかはメンテナンスが必要だったりするわ」
「へぇー」
どうやら人間同様、ロボットにも夏は天敵のようだ。年々強まっている夏の暑さは、今から想像するだけでも気が滅入りそうだった。
「あ、くまこ」
来たる灼熱の夏を想像して朝早くからぐったりしている2人の前に現れたのは、一匹の野良猫だった。少し前に出会ってから何故か懐いたその猫は、毎朝近くを通る度に顔を見せるようになっていた。
ちなみに『くまこ』とは人美の命名だ。茶色い毛並みが熊みたいなので、くまこである。
「おいでー、くまこやー」
人美が身をかがめて手を伸ばすと、くまこはてとてと歩み寄る。しかし、人美の方へ来ると思いきやするっと脇へ避け、隣で見下ろしていた真季那の足元へやってきた。
「なんだと……!?」
完璧なスルーにショックを受ける人美。だがくまこは真季那の足元をぐるぐる回った後、ゆっくりと人美の元へ歩く。
「ほれほれ、ほーい」
人美は両手をひらひらと振ってくまこを誘うが、くまこはその手をまたもや掻い潜り、大きく跳んで人美の肩に乗った。
そして人美が肩へ手を伸ばすと、今度は頭の上に乗る。
「あれ?」
「……完全に遊ばれてるわね」
「ぐぬぬ……」
捕まえてみろよ、と言っているようなドヤ顔を決めるくまこと格闘する事しばし。人美はようやくくまこを捕え、遊ばれた仕返しに精一杯なでなでした。
「人美、そろそろ行かないと遅刻してしまうわ」
「あ、そうだった。私たち学校行ってるんだった」
登校中だと言うことが頭の中からすっぽ抜けていたようだ。人美はハッとしたように立ち上がる。くまこに手を振って別れ、2人は学校へ向かって歩みを進めた。
「そういえばマキ、ロボットなのにくまこに懐かれてるよね」
それでも話題はくまこだった。女子高生にとって猫とは偉大なものなのだ。猫がJK社会の頂点に君臨する日も近いのかもしれない。
「こう言っちゃマキに失礼だけど、最初はくまこ怖がるかと思ったよ」
「大丈夫、それについては同意見よ。私の身体には無駄に恐ろしい機能が満載だもの。ヒトより賢い猫はそれに気づいて怖がると思ってたのだけれど」
真季那の身体に搭載された多彩な機能の一部には、プラズマレーザーだの無火薬小型ミサイルだの、いつ使うんだよ、とツッコミたくなる機能が多数存在している。
真季那・C42の生みの親、真季那
「くまこにはきっと、マキはこわいロボットじゃないって最初から分かってたんだよ。くまこ賢いし」
こちらを振り向きながらそう笑いかける人美を見て、真季那も釣られて微笑んだ。
「そう思ってくれたのなら、嬉しいわね」
そう微笑む彼女を見た者の中で、彼女がロボットだと気づく者は誰一人としていないだろう。それくらい人間らしく、その顔に小さな笑みを浮かべていた。
「うんうん。マキは笑ってる顔が一番かわいいよね」
「突然何を言い出すのかしら」
恥ずかしがると言うよりかは困惑している真季那。何言ってるんだこの子、みたいな目をわりと本気で向けていた。
「分かってないなー、そこは照れたりする場面でしょう!」
「本当に何を言っているのかしら」
高性能ロボットの真季那ですら理解不能な事を言う人美に、真季那は真顔で切り返した。
実はそれが彼女の精一杯の照れ隠しだという事に、人美は気づいていない。
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