第6話 光と雷
ヴォルガ・ルー・ジャガーパッチは退屈していた。
親に勧められ魔法学園に入学したものの、熱中できるものが見つからず物足りなさを感じていた。
気心の知れた友人と過ごす時間は楽しい。勉強するのも嫌いではない。
しかし……体の中に流れる軍人の血が、闘争を欲していた。
だが彼を満足させるような相手は中々現れなかった。
入学早々数人の生徒に絡まれはしたが、五人ほど叩きのめした所で挑戦者はいなくなってしまった。
なので高揚した。
目の前の少年が自分のことを訪ねて来た時は――――
「貴様には期待してるんだ。簡単に負けてくれるなよ」
「ええ、善処します」
カルスが返事をしたのと同時にヴォルガは魔力を練り始める。
本来獣人は魔法の扱いが苦手な種族だ。しかしジャガーパッチ家は長い闘争の歴史で手に入れた。
強靭な肉体と魔法の腕、その両方を。
「
雷をまとって右手で、地面をこするように引っ掻く。
すると何本もの雷が物凄い速さで地面を走り、カルスに襲いかかる。
それを見たカルスは慌てることなく魔法を発動する。
「
カルスの正面を囲うように現れる光の壁。
それは襲いかかる雷たちを容易く弾き、主人を守り抜いて見せた。
「くく、そう来なくちゃな……!」
楽しそうな笑みを浮かべながら、ヴォルガはカルスの元へ駆ける。
そして再び魔力を練り、魔法を発動する。
「雷の
ヴォルガの右手に現れたのは、光り輝く雷の槍。
雷の魔力が超高密度に圧縮された破壊の槍。それを強く握りしめ思い切り
「おらァ!」
「ぐ……っ!」
音を立てて砕け散る防壁。
ヴォルガは勢いそのままに雷の槍をカルス目掛け突き出す。だが、
「光の
カルスも光の剣を生み出し対抗する。
光の剣と雷の槍。二つの武器はぶつかり合い激しい衝撃波を生み出す。
「んが……!」
「むむ……!」
吹き飛びそうになる体。
しかし二人とも全力で踏みとどまる。
「――――はあっ!」
先に動いたのはカルス。
光の剣で槍を弾き、一気にヴォルガの懐に潜り込む。
武器の扱いはダミアンに鍛えられている。その技術は魔法の武器にも応用できた。
「そこっ!」
ヴォルガの横腹に、カルスの鋭い蹴りが突き刺さる。
筋力体格共にカルスはヴォルガに劣っている。しかし魔力を込めれば攻撃力の底上げが出来る。
魔力をこめたカルスの蹴りは、ヴォルガに確実にダメージを与えた。
「……やるじゃねえか。俺の鋼の腹筋を貫くとはな」
「その割には聞いてなさそうだけど」
「鍛えてるからな……とォ!」
お返しとばかりにヴォルガは思い切りカルスを殴り飛ばす。
かろうじて両腕でガードするカルスだが、その衝撃を受け止めきることは出来ず、後ろに大きく飛ばされる。
「いてて……これが獣人の膂力。凄い力だ」
「安心しろ。俺は獣人の中でも特別力が強い。負けても誰も馬鹿にはしないだろうよ!」
ヴォルガは人差し指と中指を合わせて立て、まるで引っ掻くように攻撃してくる。息もつかせぬ波状攻撃。カルスは回避に専念する。
(攻める隙がない。この人、力だけじゃなくて技術も凄い……!)
幼少期から過酷な特訓に身を置いていたヴォルガ。その力と戦闘技術は既に大人の戦士でも及ばぬ域に達していた。
そこに高い魔法技術も合わされば学生で彼に比肩するものはいないだろう。今日までは彼自信そう自負していた。
そう、今日までは。
「光の
僅かな隙を突き、カルスは両手から光り輝く光線を放つ。
それはヴォルガの体を一瞬にして飲み込み、彼を思い切り吹き飛ばし地面を何回もバウンドさせた。
「が、あ……!?」
地面に横たわる自分の姿を見てヴォルガは愕然とする。体に受けたダメージよりも精神的ショックの方が大きかったようだ。
(なんだこの威力は……!? あいつ、どれだけ魔力があるんだ!?)
ヴォルガは痺れの残る体を起こし、カルスを見る。
あれほどの魔法を使ったにも関わらず、少年の魔力には一切の揺らぎもなかった。それはつまり先程の魔法を使ってもまだ魔力が体に有り余っているということの証明。
ヴォルガは相手が想像以上の猛者であることを知り……笑った。
「え、こわ」
まるで大型肉食獣がエサにありつけたような、そんな笑みを見たカルスは身震いする。
「くく、そう怯えるな。俺は嬉しいんだ。ようやくこの退屈な時間が終わることがな」
ゆっくりと近づいてくるヴォルガ。
歓喜のせいで湧き上がる魔力を抑えることが出来ず、体の周りにパチパチと電気が弾ける。そのせいで髪は逆立ち、更に彼の様相は恐ろしいものとなる。
「結構強めに魔法を打ったんですけど……まだまだ元気そうですね。本気でやらせて頂きます」
「当たり前だッ! 全力で……殺す気で来い、カルス!」
再び激突する両者。
観客たちは息を呑みながらその戦いに目を奪われるのだった。
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