第11話 光の浄化
「ん、んん……」
少し痛む体を伸ばしながら、僕は意識が覚醒する。
どれくらい寝たのかな? 確か寝た時は……ああ、そうだ。呪いを飲んだシシィを魔法で助けてそのまま気を失ったんだ。
あの時は床で気絶したはずだけど、今はふかふかの布団がかかってる。誰かがベッドに寝かせてくれたみたいだ。
たぶんシズクがやってくれたのかな。床に倒れてて心配かけちゃっただろう。
謝らなくちゃと思いながら目を開けると……そこには迫ってくる大きな胸があった。
「カルス様っ!!」
「ぶべ」
頭を思い切り抱きしめられた僕は情けない声を出しながら、その中で
むむ、この大きさとやわらかさはシズクだな……じゃなくて、窒息する!
「倒れているのを見た時はもうダメかと思いました! 本当に良かったです!」
「
首に回された腕を叩いってギブアップをするけど、彼女の
「ほれシズク殿、仲が良いのはいいがそれぐらいにしてくれんか。儂らも話したのでな」
「え、あ、はい! 申し訳ございません、感極まってしまい……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらシズクが離れる。ふう……今回ばかりは本当に死ぬかと思った。
晴れた視界で横を見てみると、そこには師匠とシシィの姿があった。師匠は僕の顔を見てニッっと笑う。
「思ったより元気そうじゃの。屋敷から離れている時、巨大な魔力を感じたときは何が起きたのかと焦ったぞ」
どうやら『
師匠と少し言葉を交わした僕は、次にシシィに視線を移す。彼女はなにやらもじもじと申し訳なさそうにしてる。きっとあれを気にしてるんだね。
「カルスさま、あの、わたし……」
「シシィ、まずはありがとう」
「へ……?」
彼女に僕は深く頭を下げる。そんなことされると思ってなかったのか、彼女は困惑する。
「僕のために体を張ってくれてありがとう、シシィのおかげで僕はとうとう魔法を完成させることが出来た君には感謝してもしきれないよ」
「そ、そんな、私はなにも。むしろ勝手なことをして困らせてしまいました……」
シシィは勝手に危険なことをしたことを反省してるようだった。
確かに彼女がやったのはかなり危険な行為だ。もし僕が魔法を完成させることが出来なかったら、確実に命を落としていたと思う。
「確かに危険な行為だったけど、それも全部僕を想っての行動だったんでしょ? だったら怒れないよ。むしろ感謝しかない。ありがとう」
シシィの前髪に隠れた目を見て、まっすぐに言う。すると彼女はそれを受け止めてくれたのかこくこくと頷いてくれる。
それを見て満足した僕は、師匠に視線を戻す。
「師匠もありがとうございます。おかげでようやく魔法を完成させることが出来ました。師匠には大変迷惑をかけてしまいましたね」
「ふん、全くじゃわい。じゃが……手間のかかる弟子ほど可愛いとはよく言ったもんじゃ。カルス、よくやったな」
そう言いながら師匠は僕の頭に手をポンと乗せる。
やばい……泣そうだ。でも泣くのは全て終わってからだ、まだ我慢しないと。
湧き出る感情を抑えながら、次は僕を一番近くで、一番長く支えてくれた人を見る。
「シズクもありがとう。長い僕の闘病生活を一番支えてくれたのは間違いなくシズクだ。君がいなかったら僕は絶対にどこかで挫けてた……本当にありがとう」
「もったいなきお言葉……! 私の方こそ貴方のような優しい方に仕えられて本当に良かったです。これからもよろしくお願いします」
シズクとの思い出は、語り尽くせないほどある。そのどれもが宝物だ。
僕たちはきっと同じことを思い出してるのだろう、二人して顔をぐしゃぐしゃにしながら笑っている。
「最後に……セレナ、ありがとう。君こそ僕にとって本当の希望の光だ」
「私もキミに会えて良かったわ。おいしい魔力に釣られて来たけど、今はキミという一個人を好きになれた。精霊として過ごす毎日は退屈だったけど、キミのおかげでこれからも退屈しなさそうだわ」
感謝だ。
みんなには感謝しかない。
そしてそんな素晴らしいみんなと出会ってくれた自分にも、感謝を。
そう思った時、僕は初めて自分を愛することが出来た。
――――今なら、出来るはずだ。
「セレナ」
僕の呼びかけに、彼女は応じる。
両手を繋ぎ……集中。
目標は僕の全身。それらを全て余すことなく光で照らす。
どこにも逃しはしない。
ここで終わらせる。
「「
瞬間、ものすごい量の光が僕の全身を駆け巡る。
血液が沸騰し、細胞が焼き切れる感覚。きっと体の隅々にまで行き渡っている呪いが浄化されているんだ。
「……っ」
痛い、苦しい。
そう思っていると、みんなが僕の手を握ってくれた。すると魔法をかけたわけでもないのに痛みがスッと引く。
「……ありがとう」
何度目になるか分からないその言葉と共に、全身の浄化が完了する。
もう体のどこにも、痛みはなかった。
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