第2話 迫る刻限

「カルス様! 目を覚まされたのですね!」


 部屋に入ってきたシズクは僕の姿を確認すると、僕の体に縋り付くようにくっつき、静かに肩を震わせる。


「……もう、戻らないのかと……うう」

「ごめんね、心配かけて」


 またシズクに心配をかけてしまった……自分の体が憎い。

 震える彼女の肩をなでていると、師匠も僕の部屋に入ってくる。どうやらシズクの声が聞こえたみたいだ。


「……ふう。どうやら峠は越えたようじゃの。心配かけさせおって」


 流石の師匠ですら今回は危ないと思っていたのか、僕の顔を見てホッと肩をなでおろしていた。目の下には隈もあるし、かなり心配かけさせちゃったみたいだ。


「ごめんなさい……」

「よい。お主が悪いわけじゃない。どれちと見せてみなさい」


 師匠に促され、呪いを見せる。

 それをみた師匠は顔を曇らせる。


「やはり広がっておるな。魔法を重ねておこう、『光の治癒ラ・ヒール』」


 師匠の手から放たれた光の粒子が僕の呪いに吸い込まれてく。いつもならそれで楽になるんだけど、今回はそうならなかった。


「どうじゃカルス、何か感じたか?」

「いえ……いつもならすぐに効果を感じるんですが」

「やはりか、ふうむ」


 険しい顔をする師匠を見て、シズクも悲痛な顔をしている。

 何でこんな事に……。


「師匠、これって一体何が起きたんですか?」

「原因は分からん。しかしお主の呪いが急に活性化したのだ。儂もどうにか出来んもんかとお主が寝ている間に色々試してみたのだが……どれも効果はなかった。よもやこれほどに強力な呪いじゃったとは」

「そう……ですか」


 こうしてる間にも、呪いはうごめいてどんどんその根を広げている。全身に広がるのにそう時間はかからないだろう。

 僕の見立てが正しければ……持って二週間。最初の半年よりもずっと短くなってしまった。


 絶望し俯く僕に、師匠はある提案をしてくる。


「もし一つだけ方法があるとすれば……カルス。お主が『光の治癒ラ・ヒール』を習得することくらいじゃ」

「僕が、ですか?」

「左様。お主、そしてお主に憑いている精霊は特別じゃ。お主の『莫大な魔力』、そして精霊の姫であるセレナの『強力な魔法』。二つが合わさった『光の治癒ラ・ヒール』であれば、あるいは可能性があるやもしれぬ」

「なるほど……」


 確かにセレナは自分のことを『特別な精霊』だと言っていた。

 それならば可能性があるかもしれない。


「セレナ、いる?」

「……ええ、いるわ」


 僕の呼びかけに応えて、セレナが現れる。

 いつも自信満々そうなセレナの顔に、不安げな表情が浮かんでいる。どうやら彼女も心配させてしまったみたいだ。


「師匠の話、どう思う?」

「絶対とは言えないけど、賭けてみる価値はあると思う。私も色々考えてみたけど、これくらいしか方法は思いつかなかったし」

「そっか……」


 なら悩んでても仕方ない。やるしか道はないのだから。


「師匠、僕……やります。光の治癒ラ・ヒールを覚えて呪いを克服して見せます。なのでもう少しだけ力を貸してください」

「うむ、その言葉を待っていた。儂も全力でやるし、協力者・・・も呼んだ。準備は万端じゃ」

「協力者? 誰のことですか?」


 そんな話聞いたことない。


「実は少し前にここに来るよう文を送っておったのだ。光の魔法を教える手伝いをしてくれとな。そやつは儂より若いが回復魔法の力量は儂より上じゃ」

「そんな人が……!」


 師匠は『大賢者』クラスの魔法使いだ。

 回復魔法だけとはいえ、それを上回るなんて凄すぎる……!


「名前は『シシィ』。儂の教え子の一人であり、天才魔法使いじゃ。きっと彼女から学べることは多い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る