第7話 お転婆少女の失踪

 クリスが来た次の日。

 朝目が覚めた僕が自分の部屋を出ると、屋敷の中は騒がしかった。

 いったい何があったんだろう。少し嫌な予感がする。


「ここでジッとしてても仕方がない、私は一人でも行くぞっ!」

「あ、おい待てよジーク!」


 ジークさんとダミアン兄さんは一緒に屋敷から外に出て行ってしまった。

 これは……本当に何か良くないことがあったみたいだ。僕は玄関の近くにいたシズクの側に行き、聞いてみるとにした。


「おはようシズク。いったい何があったの?」

「おはようございますカルス様。実は……クリス様が行方をくらましてしまったらしくて、現在捜索中なのです」

「ええ!? でもクリスのことだから庭で剣でもふってるんじゃないの?」


 僕の思いつきは十分あり得る話だと思ったけど、シズクは首を横に振る。


「既に屋敷周辺はダミアン殿下とジーク様、そして使用人たちで捜索致しましたが、発見には至りませんでした。更に先ほどクリス様の書き置きが見つかり、そこには『飛竜を見にいく』と書いてありました」

「え……っ!」


 驚いて言葉を失う。

 飛竜は強力なモンスター。いくら普通の子よりは強いといってもクリスではとても敵わないと思う。そんなことクリスだって分かってるはずなのになんでそんな無謀なことを!?


「いや、もしかして……」


 昨日の会話を思い返す。

 僕は『みんな心配するだろうから見に行かないでよ』と言った。もしかしてあれは逆効果だったんじゃないか?

 クリスはジークさんにもっと構ってもらいたがってた。飛竜を勝手に見に行ったら凄い心配されると考えるはずだ。


「だったらまずい……!」


 あんなことを言った僕にも責任がある。もっと考えて発言するべきだった!

 でも今は後悔してる場合じゃない。手遅れになる前にクリスを見つけないと!


「シズク! 兄さんたちはどっちに行ったか分かる!?」

「屋敷裏手の方に行かれたと思います。昨日はそちらで目撃情報があったと知っておられるので」

「そっか……」


 探すなら同じ方向じゃない方がいい。でもどっちに行けばいんだ?

 何かいい方法は……と考えたところで、僕はあることを思いつく。


「セレナ! いる!?」


 そう呼びかけると、目の前にふわっと光の精霊セレナが現れる。

 よかった、ちゃんといた。


「どーしたの?」

「話は聞いてたと思うけど、クリスの場所を探すのを手伝って欲しいんだ。セレナならいい方法おもいつくんじゃない?」

「うーん。まあ思いつかないわけじゃないけど……それはちょっと『できない』かな?」

「……へ?」


 できない? 思いついてるけどできないってどういうこと?

 まさかどうでもいいってこと? 師匠の精霊の名前を聞いてもらった時は教えてくれたのに、なんで今回は協力してくれないの!?


 セレナの思わぬ発言に困惑していると、後ろから声を投げかけられる。


「ほほ。苦労しているようじゃの」


 振り返るとそこには師匠の姿があった。黒いローブと帽子を被っていて出かける準備万端って感じだ。


「師匠! セレナが協力してくれなくて!」

「みたいじゃな。セレナ殿の姿は見えんがお主の反応を見てれば分かる」


 師匠は立派な髭をいじりながら僕に言う。


「しかしカルス、精霊はあくまで中立の存在。魔法の行使も魔力の対価があるゆえだ。決して精霊は『何でもやってくれる便利な存在』ではない。手伝ってくれんのは精霊が悪いのではない、お主の頼み方が悪いのだ」

「僕の頼み方が悪い……?」

「左様。要求には対価が伴う、儂にイエニアのことを教えてくれた時と今回は状況が違うのじゃよ。今回は人ひとりの命がかかっておる。それを無償でやることは出来んのじゃろう。ならばそれ相応の対価を用意し、頼み込まなければいけないのじゃろうな」


 師匠がそう言うと、セレナはうんうんと頷く。凄い、当たってるみたいだ。


「お爺さんの言う通りよ。本当はキミにいじわるな事したくはないんだけど、精霊わたしたちは無条件で言うことを聞くことは『できない』決まりなの、ごめんね。キミがピンチなら他人事じゃないから手を貸せるんだけどね」

「そういうことだったんだ。じゃあどうすればいいの?」

「うーん、難しいわね。普通に魔力を貰うだといつもと変わらないからあんまり手伝えないと思う。もうちょっと特別な『ご褒美』じゃないとダメかも」

「特別なご褒美かあ」


 考えるけど思いつかない。

 するとそんな僕を見かねてか、師匠は懐から小さな石を取り出して僕に見せてくる。


 白くて何の変哲もない、ただの石。これがどうしたんだろう?


「これは宿り石、別名精霊石と呼ばれる代物じゃ。これを使えば精霊にお供え物をすることが出来る。やってみるといい」

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