3

 晩餐の時間になってもクノリスが戻ってこなかったので、結局ダットーリオ殿下と一緒に食事をする羽目になってしまった。


 それに、今日一日リーリエは部屋の中から一歩も外に出ていない。


 幽閉生活をしていたこともあったので、部屋の中に籠り切っていることには問題はないが、どうも様子が変だ。


 食事をしている最中にクノリスが顔を出した。


「問題は片付いたのか?」


 クノリスに向かって開口一番ダットーリオが尋ねた。


「使者を出したので、今週中には片付くだろう。ミーナ、ワインを一杯」


「お食事は?」


「軽くくれ」


「承知いたしました。少々お待ちくださいませ」


 ミーナが準備をしに部屋を離れた時、部屋の中にはクノリスとダットーリオ、リーリエの三人だけになった。


「クノリス。このお姫様にも分かるように話をしてやったらどうだ?当事者が一番聞きたいだろう」


 やはりと、リーリエは思った。


 朝、血相を変えてやって来たアンドレアは、一度リーリエの方を見てからクノリスに耳打ちしていたことがずっと引っかかっていたのだ。


 それに、先日までリーリエのことを毛嫌いしていたダットーリオが一緒に一日いようだなんてあまりに不自然すぎる。


「あー……そうだな」


 クノリスは気乗りしなさそうだったが、ダットーリオがそれを許さなかった。


「彼女も時期女王になるのだ。甘やかしてばかりでは、彼女自身も成長しないさ」


「教えてください」 


 リーリエは、真剣な眼差しでクノリスを見た。

 嫌な予感が胸中をぐるぐると回る。


「君との結婚の条件をレオポルド三世、つまりは君の父親に出したんだ」


「条件とは、結婚をすれば金を支援するという話ですよね?」


 その一文があったからこそ、リーリエはグランドール王国を脱出できることになったのだ。


「そうだ」


「それが、どうかされたんですか?」


「今朝、君の国から手紙が届いて、金がいつまで経っても支払われていないという内容だった」



***



 リーリエは、戸惑いを隠せなかった。


「ど……どういうことですか?」


「金はしっかり支払っている。次月分ももうすぐ支払われるはずだ。何かの手違いが起きているか、もしくは……」


 その先をクノリスは言葉にしなかった。


「だから、グランドール王国はやめておけと忠告したんだ」


 ダットーリオがほら見ろと言わんばかりの態度だ。

 リーリエは居たたまれない気持ちになった。


「グランドール王国に、お金は支払われていると思います……」


 より金を請求しようという腹だ。

 どこまで意地汚いのだろう。


「去年の寒気が長く続いたせいで、育つ予定だった作物が例年の半分だっていう話だからな。この分じゃ、飢えて死ぬ奴隷も多そうだ」


 ダットーリオの言葉に、クノリスが頷いた。


「奴隷はいつでも使い捨ての国だ。しかし、非常に厄介なのは、ドルマン王国がバックにいることだな。あの国に今手を出せる程、アダブランカ王国はまだ状況が整っていない」


「使者を待つしかないだろう。大臣達の反応は?」


「様々だが、難色を示す者も出てきていることは確かだ」


 ダットーリオの質問に、クノリスは淡々と答えている。


「この結婚を今取りやめることはできないのか?クノリス」


「それは出来ない」


「無理に結婚して、グランドール王国が調子に乗ればアダブランカも一枚岩じゃなくなるぞ」


「分かっている」


 そこまで話したところで、ミーナがクノリスの分の食事を持って部屋に入って来た。

 話は中断されたが、重々しい空気が部屋の中に流れていた。  

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