??章 ****駅_最後の終着駅

2_15(レコード:15夢の中で)

 管理人はフジニアに自身ときさらぎの処分について告げた。


 「あなたときさらぎさんの処分について話します。あなたときさらぎさんは...不問になりました」

 「そうかそうか...不問か分かったよ...ってえ?不問っていた?」

 「いいましたけど何か?」

 「だって重い処分じゃないの?」

 「してほしいんですか?重い処分に」

 「いや...いいです。不問でお願いします」

 「ではそのように上に報告します」


と管理人は言う。フジニアは重い処分を下されると身構えていたのでまさかの結果に拍子抜けた。フジニアが信じられないという表情を浮かべる。管理人は一息ついてからことを説明した。


 「もともとあなたときさらぎさんの処分は不問にするつもりでした。それに..「そうなの!それは知らなかった」あの...続けていいですか?色々とあなたに説明したいのですけど...「あ、はい。お願いします」では...説明しますね」

 「規定によればあなた方は処罰の対象でしょう。フジニアは悪魔としての異形を剥奪され自身の翼を引き剥がされ死神に転生します。対するきさらぎさんは処刑されます。異形の中でも悪魔と関わったことで地獄行です。この観察機関はあなたがきさらぎさんを利用しているか、またはその魂を喰らおうとしているかを見定めること。きさらぎの場合はあなたと契約して魂を売っていないか見定める事でした。しかし、お二人ともその危険性は見られず対等に接していると判断しました。その点あなたはきさらぎを襲う危険性はありませんからその点でも..不問にしました」


と言う管理人にフジニアは待ったの声を上げる。どうしたのかとフジニアを管理人は見た。フジニアは一度何かを考えてから言う。


 「それって本当に大丈夫なのか?どうあれ規定では俺たちは処分対象だぞ。見定めるってことで一カ月の期間をくれたかもしれないがお前はいいのか?そんなことをしたらお前も処分の対象に...」


フジニアは不安そうに管理人を見る。いくら不問と言っても規則は規則。規定通りであれば二人は処分される。それを管理人は分かっているはずなのだ。見透かしたように管理人は一息ついた。


 「そうですね。規定では処分です。本来ならこの場で処分でしょう」

 「なら...なんで不問なんかにしたんだ。あの時にあの石碑を見たから「違います。断じて違う。あなたに同情して不問にしたのではありません」だったらどうして不問にしたんだ?」

 「あなた達のことを好きになったからですよ」

 「俺たちのことを好きになった?」


思わず答えを言われたフジニアは首を傾げた。目が丸くなり固まるフジニアの思わず管理人は吹き出し笑いが止まらず溢れた涙を拭った。


 「すみません。そんなに驚きと思ってなくて...ぷふっ...あははははは!可笑しいー」

 「おーい。そんなに笑うなよ」

 「いやーリアクションが面白くてつい笑ってしまいました。でも...好きになったのは本当ですよ。初めは興味と好奇心でした。悪魔と人間が仲良く暮らしているなんて今までない事態ですから。でも、あなた方を知っていく内に好きになって処分したくないと思いました。ここは凄く居心地がよくてあなた方といると楽しくて嫌なことも頑張れる気がするんです。あなた方には助けられいますからせめて自分が出来ることをしたまでです。安心してください。私の抱えている仕事は他にもたくさんありますからただの噂だったと報告するだけですから」


と管理人は言った。フジニアは管理人の話しを聞き笑みを浮かべて礼を言う。


 「そうか...それは助かる。ありがとうな管理人」

 「いえいえ。こちらこそですよ。それにあなたがたが処分されたらきさらぎのクッキーを食べれなくなりますし、あなたをいじれなくなりますからね」

 「やっぱそっちが本命なんだろ!」

 「分かりますかー」


とふざける管理人にフジニアはツッコミを入れる。


 「分かるわ!まあなんだ...その...管理人が帰って来てくれて良かったよ」


とフジニアに言われた管理人は一瞬驚いた後真顔になって言う。


 「はい、遅くなりました。たたいま」

 「お帰り管理人」


と互いに言う。顔を見合わせた二人は笑い合った。


 きさらぎが森にやってきて管理人を見ると喜び飛びついた。


 「きさらぎさん、遅くなりました。ただいま戻りました」

 「ああ...帰ってきたの?管理人さん!」

 「うわ!急に飛びついたら危ないですよ。きさらぎさん」

 「ごめんなさい。でも良かったよー管理人さんが帰ってきた!」

 「心配かけてすみませんね。もう大丈夫ですよ」

 「うわあああん!管理人さん!」

 「泣かないできさらぎさん。あの首が締まる!あああの、助けてください」


と言いフジニアに助けを求めるがフジニアは顔を反らす。


 「ずっと帰らなかった罰だよ。きさらぎは凄い心配してたんだからな。そのくらい我慢しろー」

 「待って!ほんとにやばい!きさらぎさーん!」


飛びついたきさらぎは嬉しいあまり抱きしめているので管理人の言葉を聞いていなかった。管理人がダウンしそうになりフジニアが止むなく止めた。


 「ごめんなさい!管理人さん。嬉しくてつい...」

 「い、いいんですよ...私も会えてうれしいですから...」


とフラフラになりながら言い倒れた。


 「管理人さあああああああん!」


と倒れた管理人にきさらぎは叫び声をあげた。こうしてフジニアときさらぎは不問になり共に過ごすことが出来た。


 翌日になり仕事を終えた管理人は森にやってきた。


 「おはようございます!皆さん」

 「おはようございます。きさらぎさん。皆さんも元気そうで何よりです」

 「おおー相変わらず早いな」


と欠伸をしながらフジニアは言う。髪はぼさぼさでいかにも寝起きだった。だらしのない姿に呆れた管理人だったがいつも通りの姿に安心した。


 「全く...でも安心しました。あなたがいつも通りで」

 「あん?いつも通りって何だ?」

 「いえ、何でもないですよ!」

 「そうか。とにかく来たからゆっくりしてこいよ」


とフジニアは言うと顔を洗いに行った。


 「フジニアね、あんな感じだけど管理人さんの事をとても心配してたんだよ。だからフジニアも安心したんじゃないかな」


ときさらぎは言った。


 「そうですか...それはご心配をおかけしました。安心していただけたのなら良かったです。そうだ!きさらぎさん。あなたにお礼がしたいんです」

 「お、お礼?いいんですよ、そんなの!」

 「いえ、これは僕の気持ちです。きさらぎさんに受け取って欲しいんです。お願いします」


と管理人はきさらぎの両手を掴んで言う。


 「え...あの...管理人さんが言うならお願いします」


きさらぎは驚き戸惑いながら返事をした。すると森の奥から何かが走ってきた。


 「こおおらああああああああああああああ!」

 「「え?何/なんだ」」


と二人で身構えているとそれは姿を現した。


 「フジニア!」


こちらに向かって走ってきたのはフジニアだった。フジニアは真っ赤な顔をしてきさらぎと管理人の間に入る。


 「ったく!なんやってんだよ!」


と叫びながら二人の手を引き離した。


 「え?お礼がしたいから手を繋いだだけだよ」

 「どうしたのフジニア?」

 「な、なんでもない!」


と怒ってフジニアは頬を膨らませて言った。なせフジニアが怒ったのか分からない二人は困惑しフジニアは顔を反らした。訳が分からない二人はフジニアに話しかけるがフジニアの機嫌は悪く通りかかった小悪魔の異形に助け舟を出した。


 「お前さん...可愛い奴じゃのう」

 「っ!!うるさい」


とフジニアは言った。なぜフジニアが怒った理由が分からない二人はフジニアにしつこく話しかけフジニアが二人から逃げる追いかけっこが始まった。


 「きさらぎの手を繋いだことで怒るなんて可愛い所があるんじゃのう」

と三人を見ていた小悪魔の異形はそう呟いた。


 走り回ったフジニアたちは走り疲れてその場で座り込んだ。きさらぎは座り、管理人とフジニアは大の字に寝転び息を整え始めた。


 「はあはあ...疲れました...」

 「ったく...疲れた...はあはあ...」

 「こんなに走ったのは久しぶりかも...流石に疲れたね...」

 「ほんとだよ全く...お前らが追いかけるからだぞ...」

 「そういう君だって逃げるからだぞ」

 「うっせえ...」


と三人が口々に言うと顔を見合わせて笑い出した。散々笑った三人はなぜ走り回っていたのかを忘れた。


 「ああー可笑しい。こんなに笑ったのも久しぶりだ」

 「「そうですね/そうだね!」」


と管理人ときさらぎも続けて言う。フジニアが二人の顔を見ると二人が死んだ小悪魔や堕天使の顔が浮かび咄嗟に下を向いた。管理人は気づかなかったがきさらぎはその異変に気付き声を掛けようとしたがそれを遮る様にフジニアが二人に聞いた。


 「フジニ...「なあ少しいいか?」なにフジニア?」

 「どうしたのですか?」

 「あの時...なんで...二人は手を繋いでたんだよ!」



とフジニアは顔を上げて言った。顔はリンゴのように赤くなり今にも煙が出そうな状態だった。管理人ときさらぎは重要なことを言われるのかと身構えていたら思いもしないことを言われた。二人は思わず拍子抜けた声が出て互いに顔を見合わせた。


 「「え?」」

 「今なんて...」

 「だから...二人はなんで手を繋いでいたんだって聞いたんだよ!」

 「それだけ?」

 「はあ!それだけって何だよ。重要な事だろうが!」

 「なんか...もっとこう...なんて言うか...」

 「私も管理人さんももっと重要なことを聞かれるのかと思ってから...表紙抜けたっていうか...」

 「重要な事だろ!」

 「「そうかな?/そうか?」」


 と首をかしげる二人に思わずため息が出る。二人に呆れたフジニアはもう一度聞くと管理人が訳を話した。


 「成程な...それできさらぎに礼って何するんだ?」

 「それをきさらぎさんに決めてもらおうと思ったんですよ」

 「なら、きさらぎは何がいいんだ?」

 「私は...」

 「急に振られても思いつきませんよね。これがいいと思った時に私に話していただければよいですからね」

 「分かりました!」


と元気よくきさらぎは言った。管理人も頷いた後に今度はフジニアに聞いた。


 「ところでなぜ私ときさらぎさんの事を聞いたのですか?手など誰でも繋ぐでしょう?」

 「ぐっ!それは...ただ...「ただ?なんですか」ああああ!ただ気になったからだよ。深い意味は無い」

 「深い意味とは?」

 「......」

 「無視ですか?あのー聞いてます」


管理人はフジニアにしつこく質問しフジニアは顔を反らす。反らしたフジニアの方を管理人が向き反らしだす。冷汗がでてきたフジニアは誤魔化した。フジニアの誤魔化しはきさらぎには効いたものの管理人には全く効果がなかった。じーと見られたフジニアはきさらぎに話を降った。


 「とにかく!管理人が戻ってきてよかったな」

 「うん!」

 「なんか...誤魔化してませんか?」

 「そ、そんなことないぞ」

 「そうですかー怪しい...」

 「そ、そうだきさらぎ!く、クッキーあるか?」

 「クッキー?あるよ。久しぶりにそうしよう!」

 「そ、そうだなー管理人も食おうぜ...」

 「なんか誤魔化された気がしますがいいでしょう。私もきさらぎさんのクッキーが好きなのでいただきます」


と言うときさらぎからクッキーを貰い食べた。食べている時も管理人はフジニアにその話を振り、フジニアは顔を反らして誤魔化した。


 「そう言えばさっきの...」

 「ああークッキー美味しいなー」

 「きさらぎさんと私の...」

 「きさらぎ!お代わりくれ!」

 「......」


そのやりとりはしばらく続いた。


 その日の夜、きさらぎは珍しく森に留まっていた。フジニアは眠る用意をするため森の奥に行っておりきさらぎは一人で岩に座って星を見上げていた。


 「綺麗ーーーー!」


ときさらぎは言う。仕事を終えた管理人もきさらぎのもとにやってきた。


 「本当に綺麗ですね」

 「うん!本当に綺麗」

 「そうですね。こうしてずっと見ていられますね」


と管理人は星を見て言った。その日の夜は空に綺麗な星々が輝く日できさらぎから皆に声を掛けた。


 「今日の夜は空に星が綺麗に輝く日なの。もし、よかったら皆で星を見てお泊りしたいなーって...どうかな?」


ときさらぎに言われた異形たちは驚き目が丸くなった。


 「「「お泊りって何?」」」

 「え?だから...」


説明に困ったきさらぎに管理人がフォローを入れる。


 「そんなことも知らないんですか?あなたたちは」

 「そう言う管理人はどうなんだよ?」

 「私はもちろん知っています。だいたいお泊りくらい知らないんですか?何年異形やってるんです」

 「異形は関係ないだろ。悪かったなー1000年以上異形やってて知らなくて」

 「本当ですよ!」

 「おい!そこまで言うなよ」

 「あなたが乗ってきたのでしょう?いいですかお泊りと言うのはですね...」



と茶々を入れながら管理人は説明するとフジニアを含めた異形たちは頷いた。


 「成程なーいいぜお泊り!しようぜ皆」

 「私は構わないがお前さんたちはどうかのう?」

 「俺たちも大丈夫だ!」

 「っとなると残りは...」


フジニアがそう言うと一斉に管理人を見た。一斉に見られた管理人は驚いて肩がビクついたがすぐに言った。


 「な、なんで皆さん私を見るんですか!」

 「ところで管理人はお泊りするよなー?」

 「当たり前ですよ!私はお泊り好きですし、貴方たちにお泊りの極意を教えてあげますよ!」

 「そうかよーなら教えてもらおうか」

 「ええ、楽しみにしていてくださいね!」


と二人は喧嘩腰に言う。きさらぎはお泊りの極意が分からず小悪魔の異形に聞いた。


 「ねえ?おじいちゃん」

 「なんだい?きさらぎ」

 「お泊りの極意ってなあに?」

 「お泊りの極意...それは...眠ることじゃ」

 「...そうなんだ」

 「そうじゃ...」


と説明を聞いた時に一瞬だが寒い風が吹いた気がした。きさらぎたちはフジニアと管理人を見ると二人はまだ言い合いをしていた。話が進まないので小悪魔の異形が声を掛けた。結果その日の夜に皆で星を見て泊まることになり管理人は一度戻り仕事を終わらせるため森を出たのだ。


 「ずいぶん早かったんですね、管理人さん」

 「そうでしょうか?いつも通り仕事をしたまでですよ。これお土産です」


と言って取り出したのは布団や毛布だった。


 「いいんですか、これ?」

 「はい。せっかく泊まるんですから形から入らないとでしょう?」

 「さすがお泊りの極意ですね」

 「あはは...それは忘れてください。彼もそうですが、きさらぎさんの布団や毛布はここには無いでしょう。今は夜は肌寒くなりますから風邪をひいたら大変です。ですからちょうどよいかと思いまして。この森で昼寝をしたい時にも使えますしね!」


と管理人は言うと使い方を説明した。普段はリストバンドのようになっており投げると布団や毛布が出てくる仕組みだ。畳むとリストバンドに戻るようだ。きさらぎは貰ったリストバンドを投げて布団や毛布をひいた。布団や毛布は大きさが自動で変わるようで、巨大な布団が現れた。


 「どうですか?寝心地は」

 「ふかふかで温かくて気持ちいいです!」

 「それは良かったです。これからいつでも使ってくださいね」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ。そろそろ彼が来る頃ですね。それにしても...星はいつ見ても綺麗ですね」


と管理人は見上げて言った。フジニアは石碑のあるあの場所に来ていた。空を見上げながら言う。


 「綺麗だ...こんな綺麗な星々を見たのは何年ぶり何だろう。初めてなのかもしれないな...できる事なら皆とも見たかった。でも...きさらぎたちとも見たいと思った」


フジニアは空に手を伸ばす。しかしその手が星を掴むことは無く虚空を掴む。フジニアはため息をつき苦笑いをした後にその手を下した。しばらく下を向いたフジニアは顔を上げた。


 「皆も少しずつ前に進んでる。きさらぎも管理人も...なら俺も前に進まないといけないな。俺決めたよ。このお泊りが終わったらきさらぎに全てを話すことにする。今まで人間は嫌いで憎い存在でしかなかった。でも...きさらぎと出会えて変わった。確かに嫌いで憎いのは変わらないけどいい人間もいるって分かった。きさらぎになら話せる。この森のことを、皆のことを、俺の過去をきさらぎなら...信じられる。だから見ててくれ...皆」


フジニアは石碑に向ってそういうと再び顔を星を見た。


 「星が...綺麗だな...」


そういうとフジニアはきさらぎの元へ向かった。すると既に異形たちが集まっていた。フジニアに気づいたきさらぎは手を振った。フジニアも振り替えす。


 「あ、おーい!フジニア!こっちこっち!」

 「悪いな待たせて」

 「本当ですよ全く!三分遅刻です」

 「それは悪かったな...」

 「冗談です。皆さん今来たところですよ」

 「それはよかった。もう始めるのか?」

 「まだだよ。今からだよフジニア!見て流れ星!」


きさらぎはそう言いながら空を指さした。空にはきれいな流れ星が流れた。


 「綺麗!」

 「星も綺麗ですけど流れ星も綺麗ですね」

 「ああ、綺麗だ」


とフジニアたちが流れ星に見とれていると小悪魔の異形が言った。


 「お前さん知っているかい。流れ星が流れる時に願い事を言うと叶うそうじゃ」


小悪魔の異形の話を聞いたきさらぎたちは興奮し盛り上がった。


 「ほんとうなの?おじいちゃん」

 「そうじゃよ」

 「すごいなそれ!」

 「俺願い事しよう!」

 「願い事しようぜきさらぎ」

 「そうだね、フジニア」


と楽しそうに話しているきさらぎたちを見た管理人は小悪魔の異形にだけ聞こえる声で話した。


 「いいんですか、本当のことを言わなくて。流れ星は星じゃなくて..」

 「まあ良いではないか。夢を壊さなくても。それに叶うかもしれないじゃろう?」

 「それもそうですね。たまには私も頭を固くせず楽しみます」

 「それがよいのう」

 「流れ星に願い事をしますか」

 「うむ」


小悪魔の異形の異形は頷きフジニアたちと混じり願い事をした。


 「お前さんたちは何の願い事をしたんじゃ?」

 「肉肉肉肉!」

 「背が伸びますように!」

 「寝たい寝たい!」

 「なんか...個性的じゃのう」

 「そ、そうですね。肉って...まあ願い事はそれぞれ自由ですから」


森に住む異形たちの願い事を聞いた小悪魔の異形と管理人は苦笑いをしながら言う。管理人はフジニアときさらぎが気になり二人の方を見た。二人は真剣になのかを祈っていた。二人が何を祈ったのか興味がある管理人は二人に話しかけた。


 「ずいぶん真剣に祈っていましたけど二人は何を願ったんですか?」

 「「え?」」

 「ええっと...」

 「言わなきゃダメか?」

 「そう言うわけではないですが気になって...あまりにも真剣だったので」

 「これって願い事をいったほうがいいですか?」


ときさらぎが聞いた時に小悪魔の異形は答えた。


 「いや、言わない方がいい。言ってしまえば願い事が叶わなくなってしまうからのう」

 「そうなのか!」

 「そうじゃよ」

 「ごめんなさい、管理人さん。願いことは言ったら叶わなくなっちゃうんで言えなくてすみません」

 「いいんですよ。私こそ聞いてすみません」


と管理人が謝った時に話を聞いた森に住む異形たちは頭を抱えて叫ぶ。


 「そう言うことは早く言ってくれよーーー!」

 「思いっきり言っちまったよ!」

 「くそ!」

 「自業自得ですね。願い事というのは心の中にとどめておくのが相場と決まっているのですよ。言ってしまえば叶わなくなるのは常識です」


と管理人に言われた異形たちはとどめを刺された。


 「そこまで言わなくても...」

 「あははははははは」


異形たちは撃沈し涙を流しながら言い、きさらぎとフジニアはその姿をみて苦笑いをした。やけになった異形たちは管理人を巻き込んではしゃぎだした。


 「あ、ちょっと!こら!」

 「もうやけだ!こうなったらとことんはっちゃけてやる!」

 「楽しそう。ねえフジニア、私たちも混ざろう?」

 「それもそうだな。たまにはいいか」


と言うとフジニアはきさらぎに手を差し伸べた。きさらぎがフジニアを見る。フジニアは微笑みかけた。


 「行こう、きさらぎ」

 「うん。一緒に行こう、フジニア!」


きさらぎもフジニアの手を握り二人は異形たちの中に混じりに行った。フジニアたちは寝るまではしゃいだ。


 さんざん遊んだ異形たちは疲れてしまい用意した布団で先に寝てしまった。


 「まったく...さんざんはしゃいでおいてこのざまかよ。寝るの早えな...」


と呆れながらフジニアは言う。


 「まあまあ...たまにはいいじゃない?異形の皆もはしゃいで疲れちゃったんだよ。でも、寝顔が可愛いね」


ときさらぎも言う。


 「それにしてもこいつら随分場所陣取ってないか?涎まで垂らして寝やがって...」

 「本当ですよ!はあ...疲れました」


管理人はそう言いながらフジニアときさらぎの傍にある岩場に座った。


 「お疲れ様です。管理人さん」

 「そのわりにはお前もはしゃいでただろ?管理人ー」

 「ギクッ!そ、そんなこと...ありました。仕事仕事続きで疲れていましたが...たまにはこうやってはしゃぐのもいいですね」


と管理人は森を見回して微笑んだ。眠る異形たちやフジニアときさらぎを管理人は見た。


 「それはよかったです」

 「でも...どうしてお泊りをしようとしたんですか?」

 「それは...私...」


きさらぎが何かを言いかけた時にフジニアがきさらぎに寄り掛かった。


 「え?フジニア...ど、どうしたの?」


突然寄りかかってきたフジニアに驚いたきさらぎは戸惑う。管理人はフジニアの容態を見るとフジニアは眠っていた。


 「失礼...彼は...寝てますね」

 「え?寝てる?」

 「はい。どうやら疲れて寝てしまったようですね」

 「そうなんだ。良かった」


きさらぎは安心して一息ついた。


 「とにかく彼を寝かせましょうか」


管理人はフジニアを寝かせた。


 「これでいいでしょう」

 「ありがとうございます。管理人さん」

 「いえいえ。彼もほっとしたのかもしれません。彼は立場上常に気を張っていることが多いですから。こうしてゆっくり休められて良かったです」

 「そうですね。安心した顔で眠ってます。でも...目元の隈が酷いなあ...これからフジニアが安心して眠れるようになればいいなあ」


眠るフジニアに布団を掛けたきさらぎは顔を覗いて言った。


 「そうですね。できますよ...きさらぎさんとなら」

 「え?管理人さん...何か言いましたか?」

 「いえ何も...」


管理人はきさらぎに聞こえない声で呟いた。


 「ただ...彼ときさらぎさんには幸せになってほしいだけなんです。彼らは私を救ってくれたのだから」


管理人はきさらぎとフジニアを見て心の中で思った。管理人は懐から時計を取り出し、確認した。


 「いけない。もうこんな時間だ。きさらぎさん、そろそろ寝ましょうか」

 「はい。そうですね...寝ないと」


うとうとし始めたきさらぎは管理人にそう言うと眠る準備を始めた。


 「これで準備できました」

 「私も出来ました。明日は早いですからこれでお開きにしましょう。おやすみなさい、きさらぎさん」

 「お休みなさい。管理人さん」


と互いに言うと管理人は布団に横になり眠った。きさらぎもフジニアの隣で横になった。


 「フジニア...おやすみなさい」


と言うと小さな声でフジニアに名前を呼ばれて顔を向けた。


 「きさらぎ...」

 「フジニア...起こしちゃった?」

 「ううん。今起きたから...でもまだ眠い」

 「私もこれから寝るところだから一緒に寝よう?」

 「うん...きさらぎ..寒い...」

 「寒い?なら私の毛布いる?私の分もかけっきゃあ!フジニア?ど、どうしたの?」


フジニアはきさらぎの腕を掴み引き寄せると抱きしめた。


 「あったかい...これで寝られる...」

 「本当だ...温かい...」


きさらぎはフジニアのぬくもりで心地よくなりいつの間にか眠りついた。


 きさらぎは誰かの夢を見た。その夢の主は辛く一人で泣いていた。きさらぎはただ見ている事しかできず触れられない。


 (どうして...誰も助けてあげないの。どうして彼をそんな目で見るの。彼は何も悪い事なんかしてないのに!こんなのおかしいじゃない!触れられない。声も出ない!彼を助けてあげることができない!どうして、どうして...)


きさらぎがどうにか触れようとした時に夢の主は泣き叫んだ。


 「誰か...助けて!俺は違う!化け物じゃない!なんでそんな目で俺を見るの?なんで酷いことをするの。やめて!」


きさらぎは傷つく様子をただ見ている事しかできずもどかしかった。


 「一人は寂しいよ...」


と言い涙を流す姿を見たきさらぎは夢の主がフジニアと重なった。


 (フジニア...)


きさらぎは泣く夢の主に触れることはできないが抱きしめた。


 (大丈夫...大丈夫だよ。あなたは一人じゃないよ。私がいるよ。それに...あなたを必要としてくれる人や異形がきっといるから...あなたの居場所はきっと見つかるから...あなたを大切に思う人や異形が必ずあなたの前に現れるから。今は声も届かないし触れられないけど私はあなたの傍にずっといるから)


 「ヒクっ...あったかい...」


少年はそう言うと眠ってしまった。


 涙を流しながら眠る少年に触れようとした時、きさらぎは目を覚ました。


 「きさらぎさん、おはようございます」

 「おはようございます。管理人さん」

 「あの、きさらぎさん。なぜで泣いているんですか?」

 「え?泣いてる?本当だ」


きさらぎは顔に手を当てると泣いていることに気が付いた。すると涙があふれて止まらなかった。


 「きさらぎさん!どうしたんですか!何かあったんですか?」

 「ううん。何でもないです。涙が溢れて止まらないだ...悲しい夢を見ました。でも思いだせなくて、ただの夢じゃない気がします。あれは一体何だったんだろう」


額に手を当てるきさらぎに管理人は思いだせる範囲でなんの夢か聞いた。


 「確か...男の子が泣いていた気がするんです。でもそれ以上は思いだせなくて...」

 「異形の男の子...」

 「はい。その子が似ていたんです」

 「誰に似ていたんですか?」

 「フジニアです。一瞬だけフジニアに見えた気がして...」

 「...そうですか」


管理人はその夢がフジニアの過去であることに気づき一瞬暗い顔をして、隠すように下を向いた。下を向いたがきさらぎの言葉で驚いて直ぐに顔を上げて彼女を見る。


 「きっとあれはフジニアだったと思います」

 「なぜ彼だと思うんですか?」

 「断片的であまり覚えていませんが似ていたんです。男の子とフジニアの寝顔が」

 「寝顔ですか?」

 「はい。怖くて不安で寂しいけど少しだけ安心したようなそんな顔でした」


 傍で眠るフジニアを見ながらきさらぎは言った。


 「夢では触れられないけど今なら触れられる。夢の中は声も出ませんでした。もし、夢がフジニアなら私が見たのは昔のこの森に来る前のフジニアです。今と違って一人で苦しんでいました。どうやってこの森に来たのか、今まで何をしてきたのかは分かりません。また夢を見たら言ってあげたいんです。”あなたは一人じゃないって”こと」


管理人はきさらぎの言葉を聞いて安心し、フジニアと出会ったのがきさらぎでよかったと心の中で思った。


 「きさらぎさんは優しいですね」

 「そんなことないです。今の私があるのはフジニアのおかげだから...私が出来ることはしてあげたいんです。でも、フジニアには秘密ですよ」


と言いながらきさらぎは口に手を当てた。管理人も頷いた。


 「そうですね、秘密にしておきましょうか」


と管理人も言った時、フジニアが欠伸をしながら起きた。


 「おはようーよく寝た」

 「おはようございます」

 「おはよう!フジニア」

 「おお、おはようきさらぎ、管理人。どうした二人とも固まって?」

 「いえ、なんでもないですよ」

 「うん。なんでもない」

 「ほんとか?」

 「「なんでもないよ!/なんでもないですよ!」」


と二人が首を振りながら言う。フジニアは寝ぼけていたか気にせず顔を洗いに行った。


 「まさか、あのタイミングで起きるとは」

 「はい、驚きました」

 「彼も起きましたし、私たちも準備しましょうか。さて...寝ている異形たちを起こしましょうか」

 「まさか...あのメガホンで!ま、待って!」

 「なあ?今日のクッキー何?」

 「フジニア!耳塞いで!」

 「耳ってな..」


管理人が懐からメガホンを取り出し、大声で叫んだ。


 「起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 「「「「「え?うわあああああああ」」」」


眠っていた異形はメガホンの音で起きたが気絶し、巻き込まれたフジニアは吹き飛ばされた。


 「どうして...」

 「すみません。大丈夫ですか?」

 「目が回る...」

 「フジニア...どんまい」


異形たちは気絶し、フジニアは目を回した。結局彼らが目を覚ましたのは昼過ぎとなった。







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