??章 ****駅_最後の終着駅

2_14(レコード:14きさらぎと異形たち)

 楽しい時間は過ぎてやがて終わりを迎える。フジニアときさらぎが管理人と過ごした時間も終わりを迎えようとしていた。あの約束から早一カ月が経とうとしていた。一週間前から来なくなった管理人を心配しきさらぎはフジニアに尋ねた。


 「ねえフジニア、管理人さん遅いね。今日も来ないのかな?」

 「......」

 「フジニア?フジニア聞いてる?」


一週間前のことを考えていたフジニアはきさらぎの話を何も聞いていなかった。ふと顔を上げるときさらぎがこちらを心配そうに見つめており、すぐさま声をかける。


 「ああ、悪い聞いてなかった。なんだっけ?」

 「もう一度言うね。管理人さん遅いね。もう来ないのかなって言ったの。だってあの時急に暗い顔をして先に帰っちゃったんだもん。あれからもう一週間だよ。もう来ないのかな...」

 「どうだろうな...管理人のことだからきっと来るさ!来るまで待とうぜ」

 「それもそうだね!」


ときさらぎは元気よく言うと先日生まれた二匹の異形と遊び始めた。異形の種類は違うが幼い二匹と遊ぶきさらぎを見ると殺された二匹を思いだした。思いだしたフジニアは切ない気持ちになり近くの岩に座った。その様子を見た小悪魔の異形は近くの椅子に座るとフジニアに話しかける。


 「すまんのう。お前さんの隣に座るぞ」

 「どうぞ...」

 「きさらぎは相変わらず元気じゃのう」

 「そうだな。元気で何よりだよ」

 「そうじゃな。あの二匹とも仲良くて安心したわい」

 「...二匹」


小悪魔の異形はフジニアが”二匹”に反応したことを見逃さず、ため息をはいた。


 「お前さん...あの二匹が気になるのかい?」

 「何故そう思う?」

 「何故と聞くのかい。誰が見たとしても気づくさ...お前さんはあの二匹を見る時...自分でどんな顔をしているのか分かるかい?」


フジニアは下を向きながら震えた声で答える。


 「そんなの分かるわけないだろ...」

 「お前さんはあの二匹を見る時...”辛くて苦しい顔をしている”んだよ。とても後悔している顔だ。お前さんはあの二匹を見る時は泣きそうな顔をしている」


と言われたフジニアは先日生まれた二匹のことを思いだした。二匹を抱きしめた時に死んだ二匹を思いだし両手が震えながら抱えていた。二匹が幸せそうに笑ってフジニアの手を掴んだ時は思いが溢れて涙が止まらず抱きしめながら”すまない”と”守れなくてごめん”と懺悔を繰りかえしていたことを...その思いを隠すようにフジニアは言う。


 「そんなわけないだろ...」

 「いや、している...今もしているよ。苦しく懺悔の顔を」

 「そんなわけないだろ!」


とフジニアは顔を上げるがその表情はとても苦しそうだった。


 「ではなぜ...お前さんは泣いているんだい?」


と言われたフジニアは顔に手を当てると自分が泣いていることに気が付いた。


 「あれ...俺なんで泣いて...止まらない...そうか俺...悲しくて苦しかったんだ...」

 「やっと気づいたんだな」


涙を流すフジニアに小悪魔の異形は続けて話す。


 「我らは何も知らない。お前さんの過去を...我らは知らない。お前さんの苦しみを...我らは知らない。お前さんの後悔を...我らは知らない。お前さんの葛藤を...我らは知らない。お前さんのすべてを...我らは何も知らない...何もできない」


と言う言葉を聞いたフジニアは戸惑いながら言う。


 「それは...」

 「我らは何も知らない...お前さんの心の内を全て晒せとは言えない。お前さんの過去やこれまで生きてきた全ての人生を...辛く悲しい苦しみや深い後悔も何も知らない。我らが思い想像できるほどお前さんの過去を図れるものではないだろう。その深い過去の傷は誰もが踏み込んでいいものではない。時間が経っても傷ついた心や爪痕は残るものだ。現にお前さんはその何かに囚われて後悔している。それがどれほどのものかなど押し計れるものではないのは百も承知だ。しかし、痛みを分かち合うことはできる」

 「痛みを...分かち合う?」


フジニアは不安そうに小悪魔の異形を見た。


 「そうじゃ...辛い苦しみやお前さんの過去を一人で背負わずに誰かに打ち明けることだ」

 「誰かに打ち明ける?」

 「そうじゃ...誰かに打ち明けることでお前さんは苦しみから解放される」

 「でも、だれかに話したらそいつが傷つくかもしれないだろ!俺の過去を知っても良い事なんかない!」

 「これは持論だが...お前さんに限らず誰かの過去を知ることは悪い事ではない。むしろ大切なことだ。損得の問題でもない。少なくともお前さんは今よりも楽になれる。そしてお前さんの過去を知る者はお前さんの苦しみを理解することが出来る」

 「でも...」

 「お前さんの過去を知ったように...お前さんも誰かの過去を知るとよい」

 「誰かの過去を知る...」

 「そうじゃ...お互いにお互いの過去を知ることで理解し、支え合うことが出来る。本当の自分を知っているからこそ心から相手を信じられるんだ。だから今は無理でも少しづつ話して欲しい。お前さんの過去を...我らもお前さんの力になりたい。力不足なのは分かっている。我らはだめでもきさらぎならどうだ?きさらぎにだけでも話してはどうだ?」

 「きさらぎに?」


フジニアはきさらぎを見ながら話す。きさらぎに自分の過去を話してよいのか不安になった。もしも話してきさらぎに嫌われたら...


 「俺...不安だ。きさらぎに話して嫌われたらどうしよう」

 「誰かに過去を話すのは怖いものだ。でも、きさらぎになら大丈夫だ。あの子はお前さんを誰よりも信じている。お前さんの過去を知っても見捨てると本当に思っているのかい?」

 「そんなことは...」

 「そうじゃろう。人の子であのように優しい子は珍しい。お前さんが昔怪我をした時にこの森を森を走り回って我らに助けを求めたこと。お前さんが風邪をひいて寝込んだ時は必死に看病してくれたことを思いだしてみよ」


と小悪魔の異形に言われたフジニアはその時のことを思いだした。


 フジニアは異形風邪をひいてしまい倒れてしまった。前日にきさらぎと川で遊んだフジニアは異形風邪をひいた。急に倒れたフジニアにきさらぎは驚いたが直ぐに状況を理解した。流石に幼いきさらぎではフジニアを運ぶことはできなかったのでフジニアを支えながらいつものねぐらに向かった。フジニアは意識がもうろうとし、いつもは低体温だが風邪をひいたせいで高くなっていた。


 「とにかく寝てもらったのはいいけどこれからどうしたらいいの?」


と困っているとフジニアの傍に落ちていた本がきさらぎの所まで浮いてきた。浮いた本に驚いていると白紙の本が光り出して薬学の本に変化した。


 「うわっ!本が変わった!なんでなんでってこんなことしてる場合じゃない。フジニアの病気を治さないと...どれだろう?わかんないよ」


当時のきさらぎはまだ字が読めず意味が分からなかった。本を見て困っていると本に印が付く。


 「あれ?印が...これをやればいいの?」


ときさらぎが言うと本がページが開き白紙のページに赤丸が表示された。きさらぎは本を見ながら走り回って風邪に聞く薬草を探した。あちこち走り回ったきさらぎだが薬草は見当たらなかった。


 「どうしよう!早く薬草を見つけてフジニアを助けなきゃいけないのに!」


困ってしまったきさらぎは焦り辺りを見回すと何かが物陰に隠れた。


  「誰?誰かいるの?いるんでしょう?」


先程から何がに見られている視線を感じていたきさらぎは音のした方を見る。


  「お願い!出てきて!今大変なの!フジニアが畏敬風邪を引いて寝込んじゃったの!このままじゃ畏敬風邪が酷くなっちゃう!お願い!私じゃこの森のどこに畏敬風邪に効く薬草があるのか見つけられないの!」

  「...」


畏敬達は一向に姿を見せる気配は無い。そこできさらぎは頭を下げてもう一度言った。


  「お願いします!薬草が何処にあるかだけでも教えて欲しいの!お願いします!お願いします!私は大切な友達をフジニアを助けたいんです!」

  「...」


畏敬達は頭を下げるきさらぎの姿に戸惑いどうするべきか悩んだ。相手は人間で自分達は畏敬である。人間とは分かり合えないと思い人間のきさらぎを見下し見て見ぬふりをした。そんな自分達に対しきさらぎは頭を下げた。このまま薬草を教えた方がいいのか、それとも見て見ぬふりをした方がいいのかを畏敬達の心の間で揺れ動いていた。察しの良いきさらぎは畏敬達に一声謝るとまた1人で薬草を探そうとした。


  「ごめんなさい。無理に声をかけたりして...私もう一度探してみるね」


と言いきさらぎがその場から離れようとする。畏敬達は意を決してきさらぎに声をかけようとした時、小悪魔の畏敬がきさらぎに話しかけた。


  「すまないね。我らの卑猥を許しておくれ人の子よ」

  「あなたは?」

  「小悪魔の畏敬さ」

  「小悪魔の畏敬…フジニアと同じ?」

  「いいや、少し違うよお嬢さん。私は小悪魔の畏敬だが彼は違う。彼は悪魔だ。小悪魔と悪魔では力の強さも権威も違う。悪魔の下に小悪魔がつくのだ。彼はそんな権威を振るう男では無いが大抵は小悪魔は下の畏敬なんじゃよ」

  「下の畏敬?そうかな?フジニア言ってたよ。悪魔も小悪魔も上下なんて関係ないって!年寄りの小悪魔の畏敬っておじいちゃんのことでしょ?」

  「年寄り?おじいちゃん?それは誰が言ったのかな?」

  「フジニアが言ってたの!ヨボヨボの年寄りの小悪魔の畏敬が居ていつも頼りになるって!」

  「そうかい...もっとマシな言い方はないのかい」


と思わず小悪魔の畏敬は口に出した。頼りになるのはいいがヨボヨボの年寄りの畏敬と言わなくてもいいだろう。それに実際は小悪魔の畏敬はこんななりだがフジニアの方が何百倍も生きて年寄りである。年上に年寄り扱いされた小悪魔の畏敬は少し複雑な気分になった。


 「まあなんであれ気にしてはいけないな」

 「気にしてはいけないって何が?」

 「いいや、こっちの話だから気にしないおくれ」

 「??よくわかんないけど分かった!」


きさらぎは首をかしげながら言い小悪魔の異形は話題を変えるため薬草に話を切り替えた。


 「そういえばお前さん「きさらぎ!」え?きさらぎ?」

 「私の名前だよ。きさらぎっていうんだ」

 「そうかい...きさらぎ「うん!」...元気でよろしい。笑顔がまぶしい」


嬉しそうに返事をしたきさらぎは手を上げた。小悪魔の異形はまぶしい笑顔に動きが固まった。今まできさらぎのようにまぶしい眼差しを向けられたことがなく悪いことはしていないが天使に浄化されるようだった。


 「お前さん...きさらぎを見ておると心の闇が浄化される気がするわい」

 「おじいちゃん大丈夫?」

 「ああ...気にするな。こちらの話じゃ...えええと薬草じゃったな。私も協力しよう。見せてごらん」


と言う小悪魔の異形にきさらぎは本を見せた。


 「なるほど...この薬草ならあそこにあるわい。ついてくるのだ」


と案内された場所には大量に薬草が咲いていた。


 「ここは彼が大事に育てている薬草畑じゃ。なんでも昔にここで住んでいた異形たちが育てていたものを譲り受けたそうじゃ」

 「以前住んでいた?ゆずり受けた?おじいちゃんは何か知ってるの?」


 きさらぎはそのことを知らず小悪魔の異形に訳を聞こうとしたが首を横に振って答える。


 「いいや...何も知らない。彼が今まで何をしていたのかも...この森に以前住んでいたという異形たちのことも何も知らない。私が知るのはこの森を彼が守っているという事とこの薬草畑を育てている事だけだ」

 「そうなんだ。この薬草畑は何で知ったの?」

 「以前...この森に住んでいた異形の一人が大怪我を負ったことがあってなその時に教えてもらったんだ。この薬草には怪我や病気に治る薬草がたくさんある。それを使え!遠慮はいらない!そう言われたんじゃ...なんで育てているのかは聞けなかった。怪我が治ると彼は安心したように笑ったのじゃ。その時に私にこの薬草畑は育てている事と以前住んでいた異形たちに教わったと言われたんじゃ...」

 「そうなんだ...知らなかった。この薬草畑のことも...以前住んでいる異形たちのことも...なんでこの薬草畑をフジニアは育てているんだろう?それに...以前住んでいたっていう異形の人たちは一体どこに行ったのだろう?今...彼らは何をしているのだろう...」

 「それは彼にのみが知ることじゃ...」


薬草畑の前で座り込んだきさらぎは小悪魔の異形を見上げて言った。


 「ねえ...私...フジニアのこと...何も知らないんだね...」

 「きさらぎ...」


薬草畑に冷たい風が吹いた。まるで今のきさらぎの心を表しているように感じるそんな冷たい風だった。きさらぎは俯きながら言った。


 「私はフジニアのことは何も知らない...何も知らない...」

 「きさらぎ...!!」


きさらぎの異変に気付いた小悪魔の異形はしゃがみ込んできさらぎを見るときさらぎは震えて泣いていた。


 「私は...何も...何も知らない!フジニアのこともフジニアの過去のことも何も知らない!何も知らないから...何もできない...」

 「きさらき...そうじゃな」


小悪魔の異形は泣き叫ぶきさらきの背中を摩りつづけた。


 「私...悔しいよ...悲しいよ。今日だってフジニアが異形風邪をひいたことだってフジニアが倒れてやっと気づいたんだ。それまでずっと一緒にいたのに体調が悪いことにも気づかなかった。私がもっとフジニアのことを知っていれば...フジニアを助けられたのに...風邪が引いてもこんなにひどくなることもなかったかもしれないのに...私は何も知れないからフジニアのことを助けてあげられない!傍で支えてあげることも出来ない!私は...何もできない」


そう言ったきさらぎの目から大量の涙が零れ落ちる。小悪魔の異形は一息つくときさらぎの肩に手をかけると優しく語り始めた。


 「それは違うよ。きさらぎ...お前さんは自分は何もできないと言うがそんなことない。お前さんは気づいていないかもしれないが彼の役に力になっているんだよ。今はまだ分からないかもしれないが彼はきさらぎに救われているんだよ」

 「私がフジニアの力になってるの...?」

 「そうじゃよ。君のおかげで彼は変われたんだ」


と小悪魔の異形が言うときさらぎは驚いた。そんなきさらぎの心を表すように先ほどとは違い激しい風が吹き荒れた。きさらぎは信じられない物を見るかのような表情をする。


 「信じられないって顔じゃな、きさらぎ」

 「だってフジニアがそんなこと...」

 「まあ彼は自分からは言わん主義じゃからな。でも彼は君に感謝していたよ。安心していいんだ」


と言いきさらぎの頭を優しく撫でた小悪魔の異形はフジニアがきさらぎについて話していたことを思いだした。


**

 (会話のみ)

 「お前さん、何かいいことでもあったのかい?」

 「何故そう思うんだ?」

 「最近のお前さんも見たら分かるさ。最近のお前はなんか活き活きしている。楽しいって顔だ」

 「そんな顔してるか?」

 「している。お前さんは変わったな。お前さんがそうなったのはあの人の子が来てからかのう」

 「人の子?きさらぎのことか?」

 「そう、その人の子じゃ。お前さんは人のこと出会って変わったのう。前はあんなに人間のことを憎んでいたのにあの人の子は違うのかい?あの人の子は食わんのかい?」

 「...別に人間を恨む気持ちは変わらない。ただきさらぎが食べる対称じゃないだけだ。きさらぎは他の人間とは違う」

 「どう違うんじゃ?彼女も同じお前さんが恨む人間じゃよ。人間は醜く嘘をつく生き物じゃ。長く生きたお前さんならこの意味が分かるじゃろう?」

 「分かってる。人間は醜く残虐な生き物だ。それは俺が一番わかってる。ただ...「ただなんじゃ?」信じてみたいんだ。きさらぎのことを...初めは喰らうつもりで話しかけた。でも...そんな俺を悪魔の俺の怖がらずに一緒に居てくれた。食べようとしていた俺に礼を”ありがとう”って言ったんだ。初めて人間に言われて俺は戸惑った。こいつは俺に嘘をついているんじゃないかと疑った。そんなことなかったけどな。あれほど恨んでいたはずの人間に出会って名前を貰った。今考えるとおかしな話だよな。笑ってくれ...」

 「お前さんのことを笑うやつはいないさ」

 「まだ心の整理がつかない。でも...俺、今はきさらぎと一緒にいたい。きさらぎと一緒にいたら不思議と楽しいんだ。きさらぎといると毎日知らない発見や刺激を受けて面白い。きさらぎといる時は嫌なことも人間に対する恨みも忘れられる」

 「そうかい。お前さんにとってあの人の子が大切な存在であることは分かった。お前さんはあの子に救われたんじゃな」

「ああ...俺はきさらぎのおかげで変われた気がする。俺はきっと...きさらぎに救われたんだな。でも...いつかはきさらぎは大人になってこの森を離れるだろう。その時まで...傍に居たいんだ」

 「その時までか..」

 「そうなったら一緒に見送ってくれよ」

 「分かったわい。あの人の子は私から見たら孫みたいなものじゃからな」

 「孫っておい...」

 「さーてそろそろあの人の子が来る頃じゃろう。私はひと眠りするかのう」

 「なあ!」

 「うん?なんじゃ?」

 「その..ありがとうな」

 「礼には及ばんよ。お前さんには感謝している。お前さんには返しきれない恩があるからな」

**


 小悪魔の異形はきさらぎにそう言うと立ち上がる。


 「さて、彼のために薬草探し頑張ろうかのう」

 「そうだねおじいちゃん。私頑張る!」


と意気込んだきさらぎだったがあることに気づいた。この薬草畑はたくさんの薬草が生えていてどれが異形風邪に効く薬草なのか見分けがつかない。


 「ところで一つ聞いてもいい?」

 「いいぞきさらぎ」

 「どれが異形風邪に効く薬草んなのかな?」

 「...私も分からん」

 「うそーーーーー!」

 「まあ、ここは気合で何とかしよう!」

 「えええええええええ!」


きさらぎと小悪魔の異形は探すもなかなか見つからない。


 「ど、どうしよう...見つからない」

 「なんとかいけると思ったんじゃけどな...」

 「もうこんな時間...」


きさらぎが空を見ると夕日が登っていた。今すぐ帰らなくては暗くなってしまう。


 「もう夕日が登っている。きさらぎ、後のことは私に任せて帰りなさい」

 「でも!フジニアが!」

 「気持ちは分かる。このままだと完全に帰るのが遅くなってしまうぞ。ここは任せてきさらぎは帰りなさ「嫌だ...嫌だ!」きさらぎ、いいから帰りなさい」

 「このまま帰ってもフジニアはどうなるの?異形風邪は治るの?薬草は見つけられるの?暗くなったら探すのも難しくなる。だったら最後まで私はフジニアと一緒に居たい...私はフジニアを助けたい!」

 「きさらぎ...しかし...」


その時だった。森中にいる異形たちがやってきて薬草を探し始めた。


 「俺たちも手伝うぜ」

 「え...いいの?」

 「お前さんたち手伝ってくれるのかい?お前さんたちはあれほど人間が嫌いだと「今はそんなこと言ってられないだろ。みんなで協力する。だろ?」...そうじゃな」


異形たちはきさらぎに向き合うと頭を下げて謝った。


 「悪い..あの時お前は俺たちに助けを求めたのに俺たちは人間だからと決めつけて助けなかった。でも...お前の必死な姿を見て人間だからと思っていた自分が愚かな奴だってことに気づかされた。だから手伝う」

 「ありがとう!」

 「礼なら見つけた時でいい。探すぞ!」


と森に住む異形が言うとその場にいた皆が団結して声を上げた。辺りがすっかり暗くなったものの異形の力でその場が明るくなった。感心したきさらぎと二匹の異形は思わず拍手した。


 「「「おお~すごーい」」」

 「ねえねえマジック?」

 「マジック?」

 「凄い。異形ってこんなことが出来るんだ」

 「なあ!凄いだろう」

 「本当だ!凄い凄い!」


きさらぎに褒められた異形は自慢げに嬉しそうに言う。そんなきさらぎたちに小悪魔の異形は思わずつっこんだ。


 「感心して喜んでいる所悪いがお前さんたち...薬草を探すことを忘れてないか?」

 「「「「あっ...!」」」」

 「やっぱりか...探すぞお前さんたち」

 「「「「はい...」」」」


小悪魔の異形に言われて気づいたきさらぎたちはそろってそう言うと薬草を探し始めた。しかし何時間たってもなかなか見つからない。異形たちが困り果てる中小悪魔の異形は一人手を合わせて呟いていた。


 「おじいちゃん、一体何をしてるの?」

 「きさらぎかい?これはねえ、薬草たちに祈っていたのさ」

 「薬草に祈る?」

 「そうさ、きさらぎは知っているかい?薬草にも心があるんだ。信じる心を持った者..異形や人間は関係なくね」

 「薬草にも心が...信じる心を持つ...」


きさらぎは小悪魔の異形の言葉に耳を傾けて自分の両手や薬草を見た。小悪魔の異形の言葉が本当ならこの薬草たちにも心があるという事だ。森に住む異形たちは信じず馬鹿にしたがきさらぎは信じてみることにした。


 「ほんとかよきさらぎ。薬草に心があると思うのかよ?」

 「心があると思うよ。私にもあるように皆にも心があるんだもん。きっとこの薬草たちにも心があるよ!」

 「でもよ~」

 「お前さんたちは黙っとれ!きさらぎはお前さんらと違って優しい子じゃからのー。年寄りの知恵を信じないお前さんらには一生分からんよ」


と言われた森に住む異形たちは怒ったが小悪魔の異形は無視をしてきさらぎに続けて話す。


 「いいかい?きさらぎ。この世界の全てのものに心はあるんだよ。この森に自然や大地や風にも心があるんだ。これらは祈ることで心を通わすことが出来るんだ。優しい心を持った者が祈れば彼らもきっと答えてくれる。きさらぎ...お前さんのように心優しい子が祈れば薬草と心を通じ合えるはずだ」

 「心を通わせる...私やってみるよ!」


と言ったきさらぎはその場で跪いて両手で祈った。きさらぎは心の中で祈る。


 (私は人間のきさらぎと言います。勝手に薬草畑に来たことを許してください。私は大切な異形のフジニアが異形風邪になってしまい彼に効く薬草を探しています。お願いです。私に薬草を分けてください。私はフジニアを助けたいんです。どうか...お願いします)


 きさらぎは目を閉じ祈る。きさらぎが祈っていた時に辺りに静かな風が吹いた。すると異形たちの力が解かれ辺りは暗くなる。突然の出来事に驚きの声をあげる。小悪魔の異形もまさかの事態に驚ききさらぎに声を掛けようとした時だった。きさらぎの周りが光り輝くときさらぎの祈りに応えるように優しい風が吹いた。すると光は消えてきさらぎは目を開けた。


 「え?何で暗くなってるの!みんなどこ?一体何があったの?」

ときさらぎは驚きの声を上げる。きさらぎの声に気づいた異形は先ほどの力を使い周囲はまた明るくなった。

 「みんなここにいたんだ。もう冗談で暗くしたらダメだよー」


ときさらぎは笑って言うが異形たちは先ほど起きた光景に驚き言葉を発することが出来なかった。きさらぎは彼らに話しかけようとした時、遠くの方から薬草がきさらぎの元にやってきた。


 「薬草が...」


きさらぎは戸惑いながら薬草を掴んだ。きさらぎが掴むと薬草は光を失う。どうしたらよいのかきさらぎは分からず小悪魔の異形を見た。


 「これ...いいのかな?」


ときさらぎは聞くと返事をするかのように森の木々が揺れた。


 「森の木々が揺れている。きさらぎと心を通わせたおかげだな。森や薬草はお前さんに心を許したようだ。彼らはきさらぎに使って欲しいようだ」


小悪魔の異形の言葉を聞いたきさらぎは感激した。


 「私に...ありがとう!」


ときさらぎは言うと薬草にお時期をして感謝した。そのきさらぎに答えるように優しい風が吹いた。


 「これでフジニアを助けることが出来るね。時間がかかったけど皆も協力してくれてありがとう!」


ときさらぎは異形たちに言うと小悪魔の異形は答えるよう言った。


 「いやいや..我らは当たり前のことをしただけじゃ。早く彼の元へいってあげよう。フジニアが待ってる」

 「うん!そうだね。薬草さん、ありがとう」


ときさらぎは薬草畑に言う。きさらぎの言葉を聞いた森に住み異形たちは薬草畑を後にした。きさらぎも立ち去る時にきさらぎの頭を優しく風が撫で声が聞こえた気がした。


 『ありがとう...人の子...きさらぎ...彼を...フジニアを頼みますよ...』


突然立ち止ったきさらぎに小悪魔の異形は不思議に思い声を掛けた。


 「きさらぎ?どうしたんだい。何があったのかい?」

 「今...声が...いや、何でもないや行こう!」

 「そうじゃな」


小悪魔の異形は歩き出しきさらぎは振り返る。一瞬だが知らない異形たちがお辞儀をしたように見えた。


 「...こちらそこありがとう。フジニアのこと...任せてください」


ときさらぎは小さな声で呟いた。


 きさらぎはすぐに戻ると本を見ながら薬草を作り寝床で眠るフジニアに飲ませた。フジニアは意識はないものの顔色は良くなりきさらぎも一息ついた。


 「これでフジニアも大丈夫そうだね...良かった」

 「そうじゃのう。これで一安心じゃな..きさらぎ!」


と皆は言い喜んだ。きさらぎも喜んだが緊張の糸が解けたのかその場で倒れこんだ。急に倒れこんだきさらぎを小悪魔の異形が支えた。


 「あぶなかった...」


と小悪魔の異形が一息つきと森に住む異形たちは心配そうにきさらぎを見る。


 「どうしたのきさらぎ!大丈夫なのか?」

 「大丈夫じゃ。きさらぎは緊張の糸が解けただけじゃ。疲れて眠っているだけじゃよ。今はそっと寝かせてあげようじゃないか。きさらぎも頑張ったわけだし家に帰っていない問題は多々あるが今はいいだろう。我らも今は休もうか」


小悪魔の異形はきさらぎの容態を確認すると森に住む異形たちを安心させるように優しく言った。森に住む異形たちはきさらぎが心配だったが小悪魔の異形に言われた通り休むことにした。きさらぎをフジニアに寝かせた後小悪魔の異形も休むため寝床に行こうとする。ふと、きさらぎを見ると森に住む異形たちはきさらぎの傍で眠っていた。


 「きさらぎは人の子じゃがいい子じゃな。彼が心を許すのが分かる気がする。森に住む異形たちもきさらぎに懐いたか。眠る姿が可愛いのう。私も休もうか。よく休むのじゃよお前さんたち...」


眠るきさらぎたちを見た小悪魔の異形はそう言うと自身も眠りについた。


 翌日の早朝。目を覚ましたフジニアは傍で眠るきさらぎたちに驚いた。


 「ああーよく寝た...うわ!え、ええ?きさらぎ何でここに?それに異形たちもなんでここで寝てるんだ!」


と驚きの声を上げる。困惑したフジニアに小悪魔の異形がやってきた。


 「おや?起きたのかい。様子を見に来たんだ。どうやらその様子だと異形風邪は治ったようじゃな。安心したよ」

 「ああ、おかげさまでな。で、なんできさらぎたちがここに?いつの間に仲良くなったんだ?」

 「昨日のことじゃ。お前さんが異形風邪をひいて倒れた後きさらぎがお前さんの本を使って薬草を探したんじゃよ。その時に我らが協力してな。それもあって仲良くなったんじゃよ」

 「そうだったのか...魘されていたから全然気づかなかった。悪いことをしたな」

 「礼ならきさらぎに言っておくれ。あの子のおかげじゃよ。あの子がお前さんを助けようとしたおかげじゃな。森に住む異形たちが心を動かされたんじゃ。きさらぎと言ったかのう?あの子は不思議な子じゃな。心を力を持っているようじゃな。とにかくあの子のおかげでお前さんは元気になったんじゃ。それを忘れてはならんぞ」

 「分かったよ。色々ありがとな」

 「礼には及ばんよ。私は大切なフジニアを助けたいだそうだ」


フジニアは礼を言うと小悪魔の異形は去り際にそう言った。フジニアは眠るきさらぎの傍に行く。きさらぎは眠りながら寝言を言っている。


 「ううん...フジニア...フジニア...」

 「寝言でも言ってる。ありがとなきさらぎ」


寝言を言いながら眠っているきさらぎの頭を優しく撫でた。眠る様子を見ていたフジニアは眠たくなりきさらぎを抱きしめて眠りについた。その後目を覚ましたきさらぎと異形たちの声で起こされ、元気になり抱き着かれるまで後数秒...

**


 「そんなこともあったな...懐かしい」

 「あの出来事があるから今がある。我らはきさらぎも含めてお前さんの見方じゃ。それを忘れてはならん。もう一度言うが我らは何も知らない。しかし、分かち合うことはできる。今のように話すことで楽になれるのじゃ。それを忘れてはならんぞ」

 「そうかもしれないな...ありがとう考えてみる。俺もいい加減前に進んだ方がいいかもしれないな。それよりも今はやるべきことが残ってる。それを終わらせたらきさらぎに話すよ」


とフジニアは言うと森の中を歩き出した。


 フジニアが向かった先は彼らの石碑がある場所へ向かった。そこには先客がいた。先客は管理人だった。管理人は前よりもやつれているように見えた。


 「久しぶりだな管理人。なんか元気ないぞ?前よりやつれてるな」

 「ここ最近仕事に追われていたからな...」

 「そっか...きさらぎも心配してたんだぞ。今日も管理人が来ないって」

 「それは悪いことをしました。きさらぎには謝らないとですね...あのあなたたちの処分についてです」

 「処分か...あれから一カ月たったもんな。いいぜどんな処分でも受け入れるつもりだ」

 「......」

 「なんて顔してるんだよ。お前さんは...」


フジニアは思わずそう言って笑った。管理人はとても苦しそうで悲しい顔をしていた。管理人は泣きそうな顔でフジニアに告げた。


 「報告します。あなたたちの処分は......」

 

 


 

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