一章 気まぐれな殺人鬼

 

7.

 私と車掌は前世を解明する乗客の部屋へと向かった。


 「ここが乗客の部屋ですか。入りますよ」

 「失礼します」


ノックをした後が返事はない。車掌と顔を見合わて車掌がドアを開ける。車掌に続けて私も中に入ると部屋中が血だらけだった。


 「なっなんだこれ!!部屋中血だらけ。乗客の彼は...血まみれで倒れてる。しっ..しっかり。しっかりしてください!」

 「落ち着いてよく見てください。彼はあそこにいます」

 「え?」


車掌に指を指された方向を見ると確かに彼は生きていた。彼が生きているのなら彼とそっくりはこの血まみれの彼は一体なんだ。恐る恐る見るとそれは人形だった。


 「これは人形?」

 「そうです。これは彼が死んだ状態を再現したものです」


と車掌は言う。人形をよく観察しておきたかったが乗客は急に取り乱した。


 「血が血が血が血が!!」

 「大丈夫です。落ち着いて」

 「これは発作ですね。」

 「とにかくいったん彼をバーへ運びましょう」

 「すっ..すみません」


落ち着かせるため一度バーへ運ぶことに決めた。乗客の背中を支えながら部屋を出ようとした時一瞬だが再現された場面を見た。そこには女性と乗客が血まみれで倒れていた。女性がナイフを持ち首ら辺を掻き切られているものだった。


8.

 車掌と協力してバーへ彼を運んだ後車掌は乗客の部屋を調べていた。


 「成程..彼の死因は分かった。そしてその動機も..さて、最後に彼の本当の身分と偽りの身分はどれだ。これは...」


車掌は乗客の正体が分かると不敵に笑った。


一方バーでは落ち着いた乗客がカーナの酒を飲んでいた。


 「話は聞いたわ。それは気の毒だったわね」

 「僕は女性に首を掻き切られて殺されていたなんて...」

 「しかもあの出血...酷かったです」


 ショックを受けている乗客を慰めているとグリンがやってきた。


 「あら~?いらっしゃい!」

 「うん!来たよ~」

 「何飲むかしら~?」

 「ううんとね~飲みに来たんじゃなくて車掌からの伝言を届けに来たんだ~」

 「へ~そう。そうなのね~♪」

 「そう♪」


カーナとグリンは嬉しそうに話しをしていた。私は一瞬だったがグリンの話しを聞いたカーナの空気が変わったことにこの時は気づかなかった。


 「車掌がね~乗客の前世が分かったから~皆を呼び集めてくれ~だって」

 「そうなんですか!!」

 「前世が...なら行きましょう」

 「車掌はロビーにいるみたいだから先行ってて。後からすぐ行くから」

 「私もお店を一度締めるから二人で先に行っててくれる?」

 「分かりました。後でロビーに集合しましょう。行きましょうか」

 「はい」


カーナとグリンは二人に見送られた私たちはバーを出てロビーへ向かった。二人の気配が完全にしなくなった二人は楽しそうに仕度を始めた。


 「ねえカーナ!今回は吉と出るか凶と出るかどっちだと思う?」

 「私は...凶に出る方にかけるわ~」

 「僕もそう思う。車掌が直接僕を呼ぶ時は大抵前世の人間は悪い奴だから」

 「確かにそうね。それじゃ~賭けにならないわね~」

 「そうだね!でも最初から賭けにならないよ。この乗客は」


カーナとグリンが仕度を終えてロビーに付くと車掌が着ていた。二人が近くの椅子に座ったと同時に車掌は話し始めた。


 「お集まりいただいてありがとうございます。私直々に調べその他の方にも手伝ってもらい乗客の前世が分かりました」

 「それで僕の前世は一体なんですか?」

 「あなたの前世は気まぐれな殺人鬼です」

 「えっ彼が殺人鬼?」

 「殺人鬼...そんなわけないだろ!!僕は探偵だ。それに殺しなんて」

 「それはこれから明らかにしていきますよ。あなたの前世をね」

そう言った車掌は不気味に笑った。


9.

 「正体が分かったのでここで一つ一つ明らかにしていきましょう」


 車掌は乗客の前世が分かり乗客と乗組員たちをロビーに集結させた。車掌が言うには彼は殺人鬼らしいのだ。でもただの殺人鬼ではなく【気まぐれな殺人鬼】だった。


 「でも気まぐれな殺人鬼ってどういう意味が?」

 「そうだ!私が殺人鬼?あり得ない!人殺しなんてするわけが」

 「あの時..彼の部屋を訪れたことを思い出してください。彼は首ら辺を切られていましたよね」

 「少ししか見てないですけど..彼は確かに首付近を切られていたはず」

 「...そうだ。確かに切られていたけどそれがどうした!」

 「では質問します。彼は何故首を切られていたのでしょう?」

 「はあ!何言って!」

 「それは...言われてみたらそうだ。普通はありえない。首を切られるなんてことあるはずがない..」


車掌に言われて気づいた。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。首を切られるなんてことあり得ないはずだ。確かにどうしてそんなことになったんだろう。修羅場?恋のもつれ?仕事関係か?そんなこと考えていた時車掌にヒントを出された。


 「ならヒントを出しましょう。あなた既にもう答えを知っているはずです。あのように記載されているのですから」

 「記載?それってもしかしてあのファイルが」

 「そうです。私も拝見しました。そこにはアルファベットでA~Ⅾと記されていましたね。女性の隠し撮りの写真や個人情報まで多々ありました」

 「そうだ。このファイルは写真と焦点が合わないもので隠し撮りされた盗撮写真だった。カーナにも確認してもらったから間違いない」

 「かっ隠し撮りなんて一体何のためにやったって言うんだ!」

 「だから言ったでしょ?その女性を殺すためですよ」

 「!!」


図星だったのだろう乗客は車掌の発言に驚きくって掛かった。そんな乗客とは違い車掌は冷静に追い詰めていく。


 「殺人...あなたが...」

 「違うって言ってるだろ!」

 「往生際が悪いですね。」

 「彼が殺人鬼ならなぜ気まぐれな殺人鬼なんですか?」

 「.....」

 「ああ..それは彼が気分屋だからですよ。"殺す順番をその日の気分やランダムで決めていた"からです」

 「その証拠が一体どこに!」

 「証拠ならあります。このファイルと日記です」


車掌は全員に見えるように証拠を見せた。そこにはランダムで殺すことや情報を集めていることが記載されていた。


 「あなたは前世のヒントを探す内にこれらを見つけた。私たちよりも先にそのファイルと日記を読んで自分の正体に気づいてしまったのではないですか?しかし半信半疑だったのでは。我々が前世を暴くことを知っていて黙っていたのではありませんか?」

 「そんなことは無い!!」

 「いや...車掌の言う通りだと思う」

 「君...自分が何を言ってるのか分かってるのか?私は何も」

 「だってここに四人目の被害者の名前が記載されてて、その名前が三浦さんだから」

 「は...?」


車掌に見せられたファイルと日記を見て気づいた。この駅の名前と四人目の被害者の名前が同じだということに。私が指を指して指摘すると乗客は焦りはじめた。


 「あなたは確かに探偵でした。しかし...探偵という立場を利用して

女性を調べて殺していた殺人鬼です。しかし..あなたはミスを犯した。殺そうとした相手に反撃を許してしまったことですね」

 「だからあの時...首を搔き切られて殺されてたんだ」

 「違う!!そこまで言うならあのマネキンはどう説明するんだ」

 「始めに現れたあのマネキンはあなたが殺した女性を再現したものです。よく見ると刺された跡がありました」

 「くっ..!」

 「あなたの暖炉が焦げ臭いのは新聞を燃やしたからですよね。新聞の見出しにはきっとこうあるはずです。"女性ばかりを狙う殺人鬼死亡"とね」

 「くっ...」

 「もう言い逃れはできませんね。あなたは職としては探偵ですが裏では罪を犯し人を殺す気まぐれな殺人鬼です」

 「それがこの人の正体...前世」


前世を明らかにしたことで顔が見えた。20前後の若くて感じのよさそうな男だった。


 「そうだ...僕は女性を気まぐれで殺す殺人鬼だ」


自分の前世を思い出した彼はそう呟いた。


10.

 「これで乗客の前世を解明することが出来ましたね」


 車掌はそう満足そうに言ったがこちらはそうはいかない。目の前に立っている乗客は殺人鬼だ。


 「解明したのはいいことだけどそのどうすれば!!それに相手は人殺人鬼ですよ」


焦りながら指を指しながら車掌に訴える。車掌は焦りもせず普通に相槌を打った。


 「そうですね~なら...!」

 「あ...車掌!」


グサッ...鈍い音がした。何かが刺されるような音が。一瞬の出来事で直ぐには理解できなかった。車掌が何かを言いかけた瞬間、乗客は懐から取り出したナイフで車掌を襲った。片腕を切られた。車掌は片腕を押さえながら乗客に向って言う。


 「やられましたね」

 「車掌!!大丈夫って...血が出ていない」


車掌の腕は確かに切られたはずだ。なのに傷一つなかった。


 「何故だ!!僕は確かに腕を切ったはずなのに。ナイフにも血がついてない」

 「当たり前ですよ。私は人ではなく異形の生き物ですからね。」

 「「え...?」」


乗客と共に驚いた私をおいて車掌は続けて話す。


 「それにしてもまさか車掌である私を殺そうとするとは...少々驚きですね」

 「異形の生き物だとそんな馬鹿な!!」

 「だって死神が人間のナイフごときで切られた程度で死ぬわけないじゃないですか」

 「し...死神!!」

 「ええ。言ってませんでしたね。私の正体は死神です。人の魂の前世を導きその魂に天罰を下す。それが死神である私の仕事です」

 「死神...」

 「驚かれましたか?」


車掌は不気味に笑った。その笑いは死神そのものだった。乗客はおびえた様子で車掌を見る。車掌は乗客をあざ笑うかのように笑うと片腕を上げた。するとそこから大釜が現れた。


 「ヒィッ!おっ大鎌!」

 「ですが...あなたは決してしてはいけない罪を犯しました。それが何かわかりますか?」

 「そんなの分かるわけないだろ!!」


すぐさま乗客は否定する。その様子を見た車掌が追い打ちをかけるように言った。


 「では教えてあげます。前世の魂がしてはいけないこと。それは...死神である私を傷つけることです」

 「じゃあ傷つけた彼は」

 「地獄に落ちるよ~」

 「ヒィっ!そ..そんな...」


グリンが言うと乗客は恐怖で震え出し追い打ちをかけるようにカーナも話し出す。


 「そうね~もともと前世で人を殺していたのだから地獄行は確定事項だったの~。でも...車掌を襲ったのだから話は別よ。彼には車掌直々に罰が下るわ~」

 「ど..どんな罰だよ!!」

 「それは..私直々にその魂を食らい地獄でも天国でも成仏できない亡霊になってもらいます」


そう言うと車掌は乗客に近づいた。乗客は慌ててロビーから逃げ出すがもつれてしまう。振り向くとすぐ傍に車掌が立っていた。


 「くっ来るな!!来るなよ!」

 「それはできない約束ですね。それでは...罪深きあなたの魂を食らいましょうか。あれ?なぜ逃げるのです」


逃げようとした乗客をみて車掌は大釜を近くに振り上げて止める。


 「嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない!!」


そう言い逃げ出そうとする乗客に車掌はため息をついた。


 「全く...あなたはとことん救いようがないですね。」


車掌は大釜を一度地面に下すと乗客を見下ろした。


 「この期に及んであなたは...ならば今から問う質問にお答え出来たら考えましょう」

 「みっ見逃してくれるのか?」

 「はあ...ならあなたにお聞きしましょうか?貴方はそうやって助けを求めた女性たちをどうしましたか?」

 「...え...っと...」

 「答えられるわけないですよね」


車掌の問いに乗客は何も言うことが出来なかった。なぜなら過去に助けを求める女性たちを自分は殺していたからだ。


 「そうです。あなたは殺したんです。罪のない多くの女性たちを...助けを求める女性たちを無視し惨たらしく殺害した。なら..あなたは狩る立場から狩られる立場になっても誰も助けてはくれませんよ。あなたはそうやって殺していたんですから...さようなら」


車掌はそう言うと大釜で乗客の両足を切った。切られたことで血が飛び散り車掌の顔にも返り血がつく。悲鳴をあげる乗客は動けずその場で暴れた。


 「あがっ!!」

 「暴れないでくださいよ。床が汚れるでしょ?さて、ではその魂を食らいましょうか」

 「ばっ化け物...」


死にかけている乗客が最後に見たのは不気味な化け物だった。その化け物は乗客の体を噛みつき喰らい付いた。


 「ぎゃああああああああああああああああ!やめてくれえええええええ!!」

 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


乗客の醜い悲鳴が響き渡り廊下や窓が血で染まった。


 「死んでいる魂も生きているときのように血を流すのですね。ご馳走様」


車掌はそう言うと口に着いた血を舐めた。


 「血が!血が!血が!」


乗客はそう言い続け消えてしまった。乗客が消えた床には名札が落ちていた。カーナにお教えてもらったが車掌が前世の天罰を下すと乗客の名前が分かるらしい。今回も天罰を下したからこれが現れたのだろう。


 「見苦しい所をお見せしましたね。ではこれで列車が動きます。それではまた旅を続けましょう」


 車掌がそう言うと同時に列車は動き出した。動き出すと乗客の遺体や血の跡や彼の部屋も何もかもが消えてなかったことにされたのだ。しばらくすると他の乗客たちは目を覚ましカーナたちも各々の仕事に戻った。一体今までは何だったのだろう。自分の前世はどのようなものなのか。考えたがこれは夢ではないことは確かだ。窓の外を見ていると謎の集団を見かけた。


 「あれは..あそこにいるのは?」

 「あれは亡霊たちの集団です」

 「亡霊ってことはさっきの彼は..」


車掌に聞くと車掌は黙って頷いた。


 「そうです。彼らは自分の罪を償わなければならない。死んでもなお成仏できずさまようのです。それが彼らの宿命です」

 「死んでもなお成仏できず魂がさまようなんて辛い」

 「それが彼らの選んだ道なのですから」


 車掌はそう言うとどこかへ行ってしまった。列車が亡霊たちを通りすぎる直後に先ほどの乗客の姿があった。骨となり変わり果てた姿を見て複雑な気持ちになった。確かに前世で殺人を犯したとしてもこんな姿になって永遠にさまようなんて...哀れに思えた。今まで自身が行った罰やツケが来たのだろう。しかし亡霊となった彼らはかつては人で乗客だった。存在を消され亡き者にされた彼らを見るとこの世界は変わっているのかもしれない...


『一章 気まぐれな殺人鬼』(終)NEXT→ 『二章 本当の家族』

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