ストレンジャー

第1話

もう春になったのだろうか、こんなに寒いのであればきっとまだ冬なのだろう。


今まで散々なことがあったばかりか、創太郎は特に表情を曇らせることはなかった。


テーブルの上には二人分のティーカップが置かれており、

フレンチプレスに入れられた茶葉の中には、ゴキブリの卵が混ざっている。


「キャンプでは食料に虫が入るのはよくあることだからな」

そう言いながら彼は十分に蒸らしたフィルターをゆっくり押し下げていった。


それをぼんやり眺めながら、心の奥底から浮き上がってくる歪な感情を、茶葉を押し込むように元あった場所まで下げていった。


ここではないどこかへ、どんなに寒い場所でも良い、どんなに暗い場所でも良い、どんなに...


父さんのいない、ここではないどこかへ

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