第25話 魔王の孫娘は十六歳
四日ぶりに外に出るとやっぱり太陽の日差しがまぶしくて、まだ早朝なのにすぐ肌がヒリヒリして来て汗ばむ程の猛烈な暑さ。
日焼け止めクリームを塗らなかった事に速攻で後悔するけれども、それでも空気が気持ちよくって大きく深呼吸。
あ、太陽にパパが目覚めたって連絡しないとね。
そしたら盛大に打ち上げをやって、……私の誕生日を祝ってくれるよね?
「星歌、おはよう」
「星ちゃん、おはよう。その様子だとおじさんが気づいたんだね」
「太陽、おはよう。うん!! さっき。今電話しようと思っていたの」
思っている矢先に太陽は今日も我が家にやってきて、私の表情で察してくれたのか太陽にも笑みが浮かび私の元まで駆け寄ってくれる。
太陽に同時に抱きしめられますます嬉しくなるけれど、同時に太に抱きつかれるのには意識してしまう。
私、臭くないよね?
お風呂は毎日入っているけれど、昨日入ったのは昼間。
服もまだ部屋着のままだし、髪もボサボサ………。
陽なんて軽く化粧をして柑橘系の香水を良い感じに付けている。
服だって、アイロンが掛かった水色のシャツに花柄のスカート。
髪もきちんとしていて、今日もいつもと変わらずの美少女。
太は相変わらずのタンクトップとショートパンツ。
陽のおかげなのか清潔感はある。
違和感があるのは私だけ。
「星ちゃん、まさか?」
「へ?」
「……ひょっとして、太の事男性として意識してる? ……」
私の異変に気づいた陽に図星でしかない事を耳打ちされてしまう。
小声だったから太には気づかれてないと思う。
しかし私は動揺を隠せず、二人からとっさに離れる。
「わ、私着替えてくるから二人はリビングで待っていて。そしたら打ち上げの準備しようよ」
「そうだな。派手に打ち上げしようぜ? それと今日は星歌の誕生日だからそれも兼ねてな。星歌、誕生日おめでとう」
「え、いきなりそれを言うの? だったら私も。星ちゃん、お誕生日おめでとう」
心がついていかない。
なぜ突然誕生日を祝われる流れになるの?
陽の言う通りいきなりすぎです。
毎年恒例の事だけれど、今年は特別で少しだけ意識が飛んだ。
しかしさらに驚くサプライズが私を待っていた。
「星歌、お待たせ」
「!?」
太陽と打ち上げの準備中、ようやくパパと龍くんがリビングにきたと思えば、そこには良い意味で違うパパの姿があった。
驚きすぎて目と口を開けたまま立ち尽くす。
新品のシャツとカットソーの重ね着とスリムパンツをうまく着こなし、ヘアースタイルはワックスで髪を遊ばせた流行のヘアー。無精ひげもさっぱり剃っている。
いつもと違って年相応……もっと若々しく見えて、下手したら龍くんより格好いいかも知れない。
「俺にはやっぱり似合わないよな?」
「そんなことない。パパってイケメンだったんだね」
「イケメン? それはいくらなんでも言い過ぎだろう?」
驚き無言の私が不安になったのか後ろ向きの問いに、首を横に降り興奮ぎみで褒めまくると、顔が真っ赤に染まり頭上から湯気が立つ。
とても高校生の娘を持つ父親だとは思えないぐらいの初な反応。
可愛い。
「言いすぎじゃないよ。龍くんもそう思うでしょ?」
「そうだな。試しにこれから渋谷へナンパしに行こうぜ?」
そんなパパを見てクスクス笑う龍くんに話を振れば、いかにも龍くんらしい答えが返ってくる。
娘の前でそう言うこと言います?
と本来なら言うべき事なんだろうけれど、パパは独身だしまだ三十一歳。
新しい恋をして幸せになって欲しい……。
そしたらその人は新しい私のお義母さんになる?
……………。
それはそれで娘としては結構複雑……。
「パパ、彼女は作っても良いけど、最低でも二十六歳の人にしてね?」
パパの幸せを考えたら彼女なんて作らないでとは言えないけれど、私の十歳上だけは譲れない条件。
あんまり私と年の近い人をお義母さんとは呼べないしそもそも認めたくない。
「龍ノ介、ナンパならお前一人でして来いよ。俺にはもう先約があるし、ナンパなんて興味がない」
「え、もうそんな人がいるの?」
まさかの展開だった。
パパに彼女がいるなんて、今まで考えた事がなかった。
基本在宅業務で、午前様は月にあっても三回。
休日だって出掛けても夕食までには帰ってくる。
女の気配があるとは思えない規則ある生活。
でもそうか、デートだから気合いを入れてお洒落までした。
パパが好きになる人って、どんなタイプの女性なんだろう?
……でもそしたら私はどうなっちゃうんだろう?
私は彼女にとって邪魔な存在になる?
「いるよ。俺の目の前の人。先週約束しただろう?」
「え、私? ……そう言えば?」
当然とばかりに私を指さしパパは微笑む。
一瞬はてなマークが頭に浮かぶけれど、完全に忘れていた一週間近く前の約束を思い出した。
誕生日の夜はパパと二人で外食に行く約束をして、その時は格好良くするって張り切っていたっけぇ?
いろんな事件がたくさんあってしかも目覚めたばかりなのに、ちゃんと覚えていてこうして決行してくれて………。
私のパパはやっぱり最高だね?
パパに適う人なんてこの世の中にいるのかな?
「星歌、十六歳のお誕生日おめでとう」
「ありがとう。これからもよろしくね」
「もちろんだよ。だからこれからは父さんを一番に頼って欲しい。父さんは星歌の一番の良き理解者でありたいんだ」
いつもと変わらないお祝いなのにいつも以上に嬉しくて、みんながいるのにパパの胸元にダイビング。
するとパパは私を優しく受け止めてくれて、珍しく自分の願望を口にする。
本音でさえも私が一番に考えているのは、いかにもパパらしいね。
でもだからこそ滅多に言わないパパの望みを叶えよう。
親離れできない馬鹿娘と言われたって、そんなの別になんとも思わない。
辛い思いばかりしてきたパパには、これからずーと笑顔で過ごしてもらいたいから。
「うん。パパ、世界で一番大好き!!」
「太、星夜は強敵だぞ?」
「は?」
「ですね。太じゃ到底適いそうもないと思うけれど、まぁ片割れのよしみで応援してあげるね」
「オレは今まで以上に鍛え上げてやるから心配するな」
「師匠も陽も一体何を言っている?」
そんなラブラブな父娘に、距離を置く三人。
龍くんと陽はうんざりとばかりに太に激励を送るも、まったく心当たりのない太は意味不明なんだろう声を上げるだけだった。
二人して余計な根回ししないで下さい。
始まりの章 完
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