第21話 未知なる力

「星夜、来る」

「分かってる。お前はお前の仕事をやれ」

「陽、行くぞ」

「はい」


  バシッ


 陽を連れ龍くんがサッと私達の元を離れ作戦開始直後。

 感じ覚えがある殺気を漂わせた人物が目にも止まらぬ速さで近づくが、それをパパが間一髪で受け止める。


 片腕を失ったままの男だった。


「オレの閃光の一撃を受け止めるなんて、弱っちい癖にやるじゃん。だけど娘の心配は良いのか?」


 捕まえた男は相変わらずの余裕で傲慢な口調だった。


「星歌、危ない」

「え?」


 背後からのふとしのただ事じゃない声に振り向けば、モンスターが私を襲おうと飛び掛かってくる。

 間一髪で避けるもモンスターはすぐに体制を立て直し、再び私に襲いかかろうとするが、


「お前の相手はオレだ」


 バサリ


 私の前に太が出て来て、モンスターに剣を振り上げ切り捨てる。

 初めての実践なのに、剣道と同じきれいで迷いのない太刀筋。


「な。あいつは誰だ?」

「娘の護衛だ。お前こそ油断は禁物」


 いくら男でもこれは予想外だったようで焦りが現れ、その隙をすかさずパパが蹴り飛ばし男は吹っ飛ぶ。


 そして始まる二人の目には追えない激しい戦闘。

 さっきとまったく異なり龍くんの言う通り互角で死闘が繰り広げている。

 私には戦闘を見守りパパの勝利を祈る事しか出来ない。




「星歌。おっさんのことが心配なのはよく分かるが、オレ達も結構ヤバいんだが」

「え、あごめん」


 切羽詰まった声に気づき視線を戻せば、いつの間にかモンスター達に囲まれ追い詰められていた。

 倒しても倒しても数は減らないようで、太に疲れが見え始める。

 私の今出来る事は、パパの勝利を祈る事ではなく、この状況をどう切り抜ける事だった。


「星歌、カマイタチは使えるか?」

「うん、だけど男に使いたいから後一回」

「だったらオレの合図でとびっきりの一撃をお見舞いしろ」

「了解」


 本当にこう言う時の太は頼りになって信用できる。


 こんな状況でもまったく怖くないどころか、太の声が私の勇気に変わっていく。

 私やっぱり太の事………。


 脳裏にカマイタチではない新しい言葉に出来ない文字が浮かんでくる。

 カマイタチと違って、暖かくて優しい物。

 これは魔王の力ではない、たぶん別の力。

 だとしたらこれが魔術?

 それならばカマイタチを使うより、この力を使った方が安全なんだろう。


「星歌、今だ」


 太のかけ声の合図で、光り輝く言葉に出来ない文字を念じる。


 バシッ

 ビシュ


 解き放たれた光の一部はあさっての方向に向かうも、残りの光は次々とモンスター達は包み込み泡となって消えていく。


 浄化?


「グアァー」


『え?』


 状況を整理する前に、上からとち狂った悲鳴が部屋中に響き渡り、目の前に何かが勢いよく落下する。


 ドッスーン


 爆音に似た音とともに地面にめり込みクレーターとなった。



「星歌、太くん、大丈夫か?」

「うん大丈夫って、パパこそその腕?」

「大丈夫だから心配するな」

「大丈夫って、その腕完全に感覚ねぇだろう?」

「ああ。でも骨が折れただけで、もう一本と両足が正常ならば、さほど問題じゃない」


 唖然となる私と太の元にパパは戻って来て心配してくれるのは良いんだけれど、パパの左腕はパンパンで青紫に染まっていてぐったりとしていた。

 他にもシャツはグチャグチャ引きちぎられ、胸元が赤く血に染まり身体中至る所に出来た真新しい生傷が痛々しい。

 片腕と両足だってかなりのダメージを負っていて、立っているのさえ普通だったら困難に違いない。

 それなのにまったくと言って良いほど疲れを感じさせない上に、まだまだ余裕がありそうだった。


「いや充分に問題だろう? おっさん本当に星歌の親父なのか?」

「決まってるだろう? 親だから娘のために火事場の馬鹿力以上の力が沸いてくるんだ」


 なんだかそれは嫌な台詞だった。


「親ってすげぇんだな? それじゃぁおっさんは勝てたんだな?」


 なのに太は目を輝かせ感心してしまう。


「いいや、突然忍の背後から光が襲ってきて引きずり下ろされた」

「え、それって私が解き放った光?」

「星歌、すげぇな。ラスボスを倒すなんて」


 あさっての方向に向かったとばかり思っていたら、まさか男に直撃したなんて自分でも驚きである。

 あの驚異の強さを持っていて腕をなくしてもパパをここまでさせている男を、私が放った一撃で倒したなんて嘘みたい。


 モンスター達もすべて浄化させたみたいだし、あの光は一体なんの魔術なんだろう?

 除霊系?


「いろいろ聞きたい事はあるが、今は忍の様子を見てくる」


 男を倒した事で完全に浮かれている私と太とは違い、パパは途端に眉間にしわを寄せものすごく低い声でそう言い残しクレーターの中に入っていく。

 かってないほど怒っている。


 ……………。

 ……………。

 あれは魔術………だよね?

 実はやっぱり魔王の力だったらどうしよう?

 瞳が完全に赤く染まったりしたら、どんなにパパを傷つき悲しむのだろう?

 私を見る度傷ついて苦しむ事になったとしても、それでも私を見捨てないで傍にいてくれる。

 そんな事になったら絶対に嫌。


「おっさんは用心深いんだな」

「……そうだね。ねぇ太、私の瞳の色おかしくないよね?」

「は、何焦ってんだ? 瞳ね?」


 私とパパの約束なんて知らず暢気にしている太の至近距離に迫り、背伸びをして太を見上げる。

 太の吐息を間近に感じ、瞳には私の顔が映る。

 鏡とはなんだか違う私に見えて、太にはこうやって私が見えている。

 今は私だけが見えて……?

 鼓動が高鳴り出す。


「いつも通りの赤が強調した茶色。だけどお前の瞳って、すげぇ澄んでて綺麗だよな?」

「は、いきなり何言ってんの?」

「いや本当にそう思っただけだ」


 なぜ今ここで太は無邪気に口説き文句を繰り出すんだろうか?

 無自覚だって分かっているから変な突っ込みは出来なくて、懸命に平然を装いお礼をして少し距離を取り背を向ける。

 そして少し心を落ち着かせようと深呼吸した。


 高鳴り続けている鼓動の音を聞かれなかったよね?

 私の態度おかしくないよね?

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