第20話 龍くんはチート魔術師


「パパ、私の事ギュッとしていいよ」

「え、いきなりなんだ?」

「なんだっていいから早く」

「星歌は甘えん坊だな」


 そんなパパの心の悲鳴を聞き取った私はいてもたってもいられなくなって、戻って来るパパに駆け寄って懐に飛び込む。

 ただ命を奪った罪って言葉にしたら保っている戦闘モードを壊しそうだから、驚かれても理由を言わず強制しギュッとしてもらう。

 屍の悪臭が漂って多少多めな筋肉がさっきと異なる居心地になっていて戸惑いはあるけれど、これは私の事を愛してくれている証だって思えばここも心地の良い場所に変わる。


 パパは自分の意思を押し殺していたとしても、私を一番に考えてくれているんだもん。

 今日一日でますます大好きになった。


「パパは私のヒーローだね」

「ありがとう。だったら星歌はお父さんの聖女だな。こうしているだけで何もかもが癒やされていく」


 今のパパにはその称号がピッタリだから言ったのに、喜んでくれた以上に他人に聞かれたら爆笑される称号が与えられてしまう。

 確かに抱きしめるだけですべてが回復するのなら私はパパだけの聖女。

 そう言うことにしとこう。


「それなら良かった。そう言うことならいつでも気力補給しても良いんだからね」

「だったら手を握っててくれるか?」

「うん」


 癒やし作戦は成功のようでパパの顔は和らぎ、今度は望み通り手を恋人繋ぎで手を握る。

 私はこの大きな手に護られ励まされて来たから、今度は私の番。

  龍くんと陽は空気を読んで触れないでいてくれるから良いとして、空気を読めない太になんか言われたらぶっ飛ばす。

 と意気込み三人の元に戻れば、太はすっかりしょげていて心配は無用だったらしい。

 この分だと龍くんにこってり絞られ、車に戻されていないとこを見れば今度こそ自覚した?


「流石星夜だな。ご苦労さん。ほらこれ飲んだらすぐに忍のとこ行くぞ。どうやら異世界起動装置は忍の元にあるらしい」

「そうか、分かった。こっちはいつでも準備は出来てる」


 手を繋いだままでもやっぱり龍くんは微笑むだけで、パパに何か液体入りの小瓶を渡しこれからのことを話し出す。

 パパには想定内なのか私の手を離し、小瓶を開け液体を飲み干す。


随分急展開だね?」

「これはRPGじゃないからね。目的地さえ分かれば、最短ルートを作れば良い」

「最短ルート?」


 言われて意味はなんとなく分かるも、方法が分からなく首をかしげ復唱。

 するとニヤと勝ち誇った笑みを浮かばせ、私達と少し距離を取る。


「そう。こうやって作れば良い」


 地面に両手をつき目を瞑り何かを念じ、力を解放する。


 バリバリ


 地面が割れ、穴が出来る。


「これでよし。ここを降りれば目的地だ。陽少しだけだから許せ。太はオレの後を付いてこい」

「え、キャァ?」


 穴をのぞき込みそう言うと、陽をお姫様抱っこして穴の中へ。


 まさかこれが最短ルートで男の部屋まで続いているとか?

 そんな無茶苦茶な都合が良い展開で良いのか?


「……師匠、これはオレには無理ゲーだよ」

「え、あ確かにこれはパパと龍くんにしか無理だよね?」


 続いて太も行くかと思えば穴をのぞいた途端、顔を青ざめ柄にもなく尻込みしていた。

 気になり私ものぞくと真っ暗で底が見えないほど深い。

 らせん階段と言う階段は一応あるにはあるんだけれど、一段一段の間隔が普通の十段ぐらいはある。

 何を思ってこれを太に降りてこいと言ったのかは知らないけれど、これはいくらなんでも可愛そう。


「だったら二人は俺が連れて行く」

「パパ?」

「おっさん?」


 まったくもって問題ないと言わんばかりに、パパはそう言って私達を驚かせる。

 そして私達を軽々持ち上げ、楽々と三段抜かしで降りていく。

 しかも急降下のジェットコースター並みの速さがあって本気で怖い。


 私、あれ心臓が飛び出る感覚が嫌いなんだよね?




『死ぬかと思った~』

「本当に、すまない」


 目的地にたどり着き解放された私と太は声をハモらせ心境を語り、地面に足をつけられた感動を分かち合う。

 申し訳なく謝るパパだけれど、パパはそんなに悪くはない。

 悪いのは誰がなんと言おうと欠陥を作った龍くん。

 しかも龍くんにお姫様抱っこされて降りた陽は夢見心地ではある事からして、ちゃんと降りられる方法があった。

 それを教えてくれなかった龍くんの罪は重い。


「オレも少しは反省してる。作るのに手を抜きすぎた。太は剣の腕以外は普通なんだよな」

「師匠、勘弁して下さいよ」

「そうだよ。降り方にコツがあるんなら、パパにも教えてよね」

「本当にすまない。だがオレは瞬間移動でうまい具合に階段を使っただけだから、魔術が使えない星夜には無理……」


 流石に龍くんも反省はしていて私達のブーイングも受け付けてくれるも、魔術師専用の降り方だった事を知り私の怒りを買う。


「へぇ~。そんじゃ私のカマイタチで冷静になってもらおうか?」

「わぁ馬鹿。それはあの扉を的にしろ。罪滅ぼしなら後でいくらでもしてやるから」


 指を鳴らし警告するもそれは許されず目の前の大きな扉を指さし、必死に拝まれ釈明の機会を望まれる。


 もちろんそれは言葉のあやで、そんな事で魔王の力を使うはずがない。


「これも龍くんが解けない封印?」


 状況が状況なだけに無視は出来ず、話の筋を戻し扉に注目する。

 扉の向こうからさっきと同じ嫌な空気が漂い周囲も薄暗く、いかにもラスボスの部屋って感じだ。


「ああ。ここで忍は回復途中だな。まだ時間的に完全はないだろうから、今の星夜なら互角だろう」


 今のパパなら余裕で倒せると言って欲しかったのに、現実はそんなに甘くないようで互角。

 男は本当に化け物で、そんな化け物が適わない魔王の力を私が持っている。

 この扉を壊しても後二回は使えるから、パパが危なくなったら私が倒す。

 いざとなったらそれ以上の力を……。


「星歌、もうお前の前で無様な負け方はしない。お前の笑顔を護ってみせる」


 そんな考えをしたらいけないのに最悪その決断をしそうになれば、そんな負の感情を察知したのかパパは私の手を握り抱き寄せ、私の望む未来を約束してくれる。

 迷いのない信じてもよさそうな力強い決意。


「そうだね。私もパパを絶対に悲しませないようにするからね」

「ああ、約束だ」


 それなら私も似た約束を交わし、カマイタチを発動。


 バーン


 今までと違いすんなりといって威力も増しているのか、扉が破壊され開かれる。


 こう言うのでやっぱり心の持ちようで威力は上がる?


 扉の向こうから感じていた嫌な空気はダダ漏れ。

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