第18話 友達以上恋人未満



 龍くんは陽と細かい作戦を立てると言って私だけ暇になり、それならつよしとちゃんと話そうと思い栄養ドリンクとタオルを持って庭に出ると真剣なまなざしで素振りの最中だった。

 風を切るようなきれいな太刀筋で汗だくになっても一切気にしていなくって、本当に剣道が好きなんだなって思える。

  普段の太を知らない女性だったら好きになるのも当然だと思えて、私も剣道をしている太を見るのは好きだったりする。


「星歌、何か用か?」

「え、あうん。でも休憩まで待っているよ」

「そうか。なら少し待っててくれ」


 私の気配に気づかれ素振りを続けたまま聞かれるけれど、邪魔をしたら悪いと思ってそう言いデッキに腰掛ける。

 この真剣な取り組みを剣道以外にも生かせれば、もっともモテると思うのにもったいない。


 太くんなんて、どうだ?


 パパの台詞がふいに頭を横切る。

 太なんて問題外と答えて否定をし続けていたけれど、心の整理をして考えてみよう。


 太の武士道は立派で尊敬に値する。

 それ以外は少し褒めるだけですぐ調子に乗って、やることなすこと餓鬼でしかない。

 事実そのギャップが激しくて、女性達は幻滅して寄っては来ない。

 でも私は両方の太を良く知っているから、幻滅もするけれどそれが太なんだからと思える。

 それってつまり?


「お前、怖くないのか?」

「へ、なんで?」


 考えがまとまる前に話しかけられ、私が聞くはずの問いに目を丸くする。


「だってお前いきなり魔王の孫娘だとか言われて、命を狙われてんだぞ?」

「そりゃぁ怖いしいろいろ悩みどこだけれど、パパと龍くんが何も変わらないって言うから大丈夫。それよりパパが私を護るためにズタボロにされて殺されていく姿は見たくない」


 太にしては珍しく私の事を本気で心配してくれているから、軽い口調でも本音を漏らすと素振りを止め私の隣に座る。


 なんだか口にするだけで辛くなって涙が出そう。


「辛かったんだな。だったら今度はオレが少しでもおっさんの負担を減らせるよう頑張るよ」

「それなんだけど、#太__つよし__#、今の状況ちゃんと理解している?」


 頭をポンポンとなぜられ頼もしい台詞に心強さを感じるも、素直に甘えられなくてつい突っぱねるような問いをしてしまった。


 龍くんはパパと同じでチートで私の父ちゃんだからまだしも、太は本当の本当に無関係で剣豪の天才と言われていても実践はないほぼ素人。

 いくら雑魚が相手でも大怪我する可能性は大。

 そう言うのが分かっていなくってゲーム感覚で言っているんなら、現実を理解させる必要がある。


「これは遊びじゃない事ぐらい分かってるさ。でもお前は陽の親友で俺の大切なダチなんだから、協力出来る事がある以上協力するのは当然だろう? もし逆の立場だったら、お前ならどうする?」


 なのに理解しているかは別として、最早卑怯でしかない事を当然とばかりに言う。

  それを言われたら私だって協力できる事があるのならば、状況を理解していなくても迷わず手を差し伸べる。

 だからこれ以上聞いても無駄だね。


 私は太の大切ダチなんだ。

 それなら私も太とは今の関係を崩したくないから、考えるのはもうやめにしよう。


「そうだよね。でも絶対に無理しないでよね?」

「大丈夫だって。いざとなったら師匠がなんとかしてくれるだろう?」


 せっかくのイケメンが台無しの考えなさに幻滅するよりらしいと思え苦笑してしまい、なんとなく栄養ドリンクを太のほほに当ててみる。


「冷てぇ!!」

「それ頑張っているから差し入れ。それに汗だくだからそのタオルで拭くと良いよ」

「サンキュー。気が利くじゃん。後少しで感覚が掴めそうだから、もう少し続ける」

「じゃぁ、着替え用意しとくから、頑張ってね」


 一度やってみたかった青春漫画のやり取りが出来た事に満足し、私もそろそろ準備しようと家の中に入ろうとすると、


「なぁ星歌、お前に魔王の孫娘で魔王の力があったとしても、師匠とおっさんと同じでオレと陽にも関係ないんだから、んなくだらない事で悩むんじゃねぇぞ」


 なぜ今聞いていないけれど、欲しかった答えをさらりと言う?

 あまりにも不意打ちでたった今友達のままでいいやと思ったはずなのに、心の奥が暖かくなりざわつき始める。

 太に友達以上の感情が生まれそうになった。

 でも太の事だから本心でも、友達に対する言葉でしかない。

 期待なんてしたら、駄目なんだ。


「太もたまには優しい言葉をくれるんだね。だけどまぁありがとう」

「は、オレがせっかく良い言葉を言ってやったのに、なんだよその可愛くない反応。お前ひょっとしてツンデレか?」

「太に可愛くしたって、私に何一つ得がないからね」


 この気持ちを悟られないよう普段通りの憎たらしい言葉を返し、元の残念な太くんに戻ってもらい最後はあかんべーをして家の中へと入っていく。


 私と太は、友達以上恋人未満。

 それでいいじゃない?

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