第17話 作戦会議
「これからオレ達は地球と異世界に繋ぐゲートがあると思われる場所に行く。目的はゲートの異世界起動装置を見つけ出し忍を強制退去させること。途中忍が何か仕掛けてきたら星夜頼む。星歌は星夜が危なくなった時にカマイタチをお見舞いしろ。
「え、太陽も行くの?」
龍くん主催の作戦会議が始まり全貌を聞いただけで、あまりにも寝耳に水で席を立ち目をまん丸にしつつ意見する。
太陽は事情を知っていても確実な部外者で、私達のように特別な力はない。
普通の村人をいきなりラストダンジョンに連れて行く感じじゃないだろうか?
「ああ、ここで留守番するのは危ないからな。太は雑魚モンスターなら倒せる実力はすでに備えてある。なんせオレの唯一の弟子だからな。陽一人ぐらいならオレが護れるよ」
「師匠、サンキュー。オレ期待に応えられるよう頑張るから」
「……龍ノ介さん」
なのに龍くんは至って真面目で筋の通った考えにそう言う事ならばと納得するも、太の無駄な張り切りように少しばかりの不安も残る。
あ、だから今朝、太なら良いかって言ったんだ。
陽はすっかり恋する乙女になっていて、思う存分龍くんに護られて下さいと言いたい。
「太くん、星歌をよろしくと言いたいが、もし命の危険を感じたら先に逃げても良いからな。その後の事はオレがなんとかする」
「パパ、大丈夫だよ。まだ使いこなす自信はないけれど、少なくても自分の身は自分で護れるから」
「……そうだったな」
確実に私がカマイタチを使うのを快く思っていないようで、最悪の事態には無茶をする気満々のパパだったが、そんな時はパパにとっても最悪の事態。
また命を落としてでも助けると言いだし嫌な気持ちになるのは目に見えていたため、胸を張って自分の身は自分で護ると言い切る。
そのために私は習得したんだから、いざと言う時は躊躇わずにばんばん使う。
「星歌、カマイタチは魔王の力で危険な事を忘れるな。そして今日使えるのは後四回が限度だろう」
「え、制限なんてあるの?」
固い決意をするのも空しく、よく考えなくても当たり前の制限があることを知る。
魔術初心者が魔王の力を一日六回も使えれば、たいした物なんだろうか?
しかし後四回。
意外に少なくって、これでは無闇やたらに使えない。
せめて一回分だけは残すようにしなければ。
「そりゃぁな。無限に使えたら無敵だろう?」
「龍くんにもあるの?」
「当たり前だろう? ただオレのスキルに魔力貯蓄って言うのがあるから、今日だけなら使い放題だな」
「うわぁ、やっぱ龍くんチートだ」
自慢げに答えられ、感心してそれしか言えない。
英雄候補になるとチートスキルは、一人何個ぐらいあるんだろうか?
「師匠、オレも魔術を使いたい」
「残念ながら#太__つよし__#には魔術の潜在能力はまったくない。剣術一本だ」
「そんな……」
「太あなたって実は相当な中二病だったのね」
魔術を使えないと分かった太の激しい落ち込みように、太の理解者である陽は冷めた口調で呆れていた。
私から言わせれば太は中二病と言うより子供だと思う。
本当にこの人はこれからの事を、ちゃんと理解しているんだろうか?
……魔王の孫娘で魔王の力を使える私が怖くないのかな?
「まったく太は。この剣を貸してやるから元気出せ。真剣だが竹刀と重さは同じだから、すぐ実践でも問題ないだろう」
「!! 少し素振りして感触をつかんできます」
どこからともなく日本刀を取り出した龍くんが哀れむかのようにそう言い落ち込む太に差し出せば、一瞬で立ち直り目をキラキラ輝かせ日本刀を受け取りルンルンで庭へと飛び出す。
単純なのか、剣に一途なのか。
「本当に剣術に対する姿勢は純真で教えた以上の事をスポンジのように吸収してしまう。生まれる世界を間違えた剣豪の天才だよな」
「龍くんって結構太の事買っているんだね? そのうち師匠を超えちゃうとか?」
「馬鹿言え。こっちは生死を賭けた実戦を何度も積んでいるんだ。老いぼれ爺になっても負ける気はしねぇよ」
本人の目の前では絶対言わなさそうな太の高評価をする龍くんに、ちょっと意地悪な問いをすれば鼻で笑われ軽くあしらわれてしまう。
すごい自信である。
でもそれってつまり自分の方が剣豪の天才で、あ、そうしたら龍くんに勝ち続けているパパもそうなるんだ。
私も小六まで龍くんの実家である剣道教室に通っていたけれど、パパが剣道をしている所を見た事がない。
「パパってすごいんだね。今度太と勝負してよ」
「え?」
パパが剣道をする姿が見たくなりいきなり話題を振ると、まさかそんな展開になるなど思ってもなかったんだろう目を見開き私を見つめる。
「この流れでどうして星夜が出てくる? すごいのはオレだろう? 魔術と剣術の二刀流なんだぞ?」
「それはそうだけれど、自画自讃する時点でマイナスじゃない?」
「うっ……」
「私は龍ノ介さんがすごいと思いますよ。剣術に魔術なんて無敵ですよね」
「……陽だけはオレにいつだって優しいよな? ありがとう……」
傲慢な龍くんをスルーしている私が気に入らないのか更なるアピールに、冷ややかにダサいと教えると口ごもって肩を落とす。
一部始終を聞いていた龍くん派の陽は慌てて龍くんを持ち上げようと褒め称えるも、なんだか無理に言わせられている感バリバリであった。
これでも陽は本気で心配して本心を言っている。
ただ私と太みたく中二病っ気がまったくないのに今の状況を受け止めたから、どこか言わされているような言い方になってしまう。
私の事もちゃんと受け入れてくれた優しい子だ。
「話はもう良いか? 少し一人にさせてくれ」
「ああ、なら二時間後呼びに行く」
「そうしてくれ」
「え、パパどうしちゃったの?」
「星夜なら大丈夫だよ。精神統一して気を高めるだけだから、そっとしておけ」
いきなり深刻そうな雰囲気を醸し出したパパは席を立ちそう言ってリビングを後にするから、びっくりした私は後を追いかけようとするも龍くんに止められる。
この作戦はそれだけ危険なんだ。
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