第2話 幼馴染みとの会話

「太陽、おはよう。私の誕生日に遊園地へ遊びに行かない?」

「星ちゃん、おはよう。私達も今その話をしてたんだよねつよし

「おはよう。フリーの悲しい星歌にオレ達が救済の手を差し伸べてやるよ」

「何よそれ酷い。そう言う太だってフリーじゃん」


 登校途中幼馴染みの太陽に出会い早速誘ってみると頷いてくれるもの、相変わらずつよしは上から目線の皮肉。

 しかし慣れっ子の私は負けていない。


 太は見た目爽やかなイケメンで、幼い時から龍くんに剣道を教わっているため先日高一にも関わらず県大会で優勝した実力保持者。

 しかし性格がお調子者で餓鬼っぽい所があるからそこまではモテないとかで、付き合ったとしてもすぐに本性を暴かれ破局。

 一方陽は非の打ち所のない大和撫子系の美少女。

 勘が鋭く言いたいことははっきり言うお姉さんタイプでもあるかな?

 戸籍上太が兄で陽が妹。二人合わせた呼び名は太陽で、私とは小二の頃からの付き合いだ。


「そう言えば昨日道場で聞いたんだけど、最近道場破りが多発してるらしいぜ?」

「道場破りってあの漫画に良く出てくる突然戦いを挑んで勝ったら道場を乗っ取るって奴?」

「そう。実際はその一番強い奴らをボコボコにして帰って行くらしい。柔道 空手 合気道 テコンドー 相撲 ボクシング プロレスすべてが有段者なんだぜ? 化けもんだよなそいつ」


 何を思ったのかいきなり物騒な話題になり、嘘みたいな話に耳を疑ってしまう。

 

 太はいつも面白おかしく大袈裟に話をするから、いまいち信用がないんだよね。

 そもそも本当にそんな人がいたら、間違えなく化けもんでサイコパスなら世界征服を企んでそう。


「太が通っている道場は大丈夫なの?」

「そのうち来るんじゃねぇの。でもうちにはオレと師匠がいるから、返り討ちにしてやるよ」


 化け物と言っている割には、太は何故か自信満々で意気込んでいた。


 確かに龍くんだったら返り討ちにするかもだけれど、太はこの台詞で負け……最悪死亡フラグが立ったかも知れない。


 あまりのお気楽ぶりに嫌気が差し陽に何か言ってもらおうと視線を向ければ、顔が真っ青になっていて私の袖を掴む。


「ちょっと陽、どうしたの?」

「なんだかすごく嫌な予感がして……ほら最近残虐事件が多いじゃない? それと何か関係があるような」

「分かった。オレは関わらないようにするから心配するな」


 あんなにやる気満々だった癖に陽の警告は素直に聞き入れ、陽の頭を優しくなぜニコッと笑う。

 陽にしか見せない兄らしい姿の太が悔しいけれど格好良く思え迂闊にもドキッと高鳴ってしまう。

 かと言って絶対に好きになるなんてありえない。太は異性の悪友なのだから。


「絶対だよ。星ちゃんも」

「私は端から関わるつもりないよ。そんな強い奴相手に出来るはずがないじゃん」


 なぜか私の心配までしてくれる陽に、笑いながら相手に出来ないと言葉を返す。


 最近関東圏内で多発している残虐事件。

 あまりにも酷い状態でDNA鑑定も出来ず遺体の身元さえ分かっていないらしく、捜査は難航しているとニュースキャスターが言っていた。

 お父さんからも必要以上に心配されているけれど、私にしたらお父さんこそ用心してと言いたい。


 運動なんてまったくやっていなさそうだし滅茶苦茶弱そう。

でももし道場破りと同一人物だったら、用心しようがなさそうで怖いな。

 本当のサイコパス?


「お前ら、なんの話をしてんだ?」

「あ、龍くんおはよう。この辺で起きている道場破りと残虐事件の話していたの」

「それか。まったく朝から物騒な話しをすんなよ」


 そこで龍くんと遭遇し興味津々とばかりに問われ答えると、意味深な反応をされ笑われる。


 ?


「それで陽が惨殺事件と道場破りが関係があるかもと言い出して。師匠なんとかして下さい」

「は、それは警察の仕事だろう? そりゃぁ襲われたら必死で抵抗はするが、正義の味方をする気なんてまったくないよ」

「なんだよ師匠は案外冷たいな」

「オレは一教師だからな。正義の味方をしたければ警官になるんだな」

『ごもっともです』


 龍くんをヒーローか何かと思い込んでいる太には残酷であろう回答だけれど、私と陽にしてみればこれ以上もない正論に納得する。

 確かにヒーローをしたかったら警官になれば良いこと。

 特撮ではないのだから教師の傍らヒーローする物好きなんているはずがない。

 そんなことも考えられない太はやっぱり馬鹿だな。


「そうか。ならオレは警察官になる!!」

「……馬鹿」

「なんかごめん……」


 案の定太は目を輝かして乗り気になってはいるが、太の将来の夢は未だ月単位で変わるので私達は痛い脳みそを哀れみ彼を置き去り先に行く。


 

「しかしまぁその道場破りと惨殺事件は無関係だよ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。度々やってくるから、道場の師範達には有名人物でむしろ歓迎されている」

「龍くんは試合したことあるの?」

「もちろん。毎回あと一歩のとこで負けてるよ」


 聞いているうちに道場破りと言って良いのか分からない真相にホッとするのと同時に、龍くんでも適わない武道全般の強者がいることに驚きである。

 剣道の公式戦十八年無敗を誇る平成令和の武蔵と言われる龍くんに、勝ち続ける人って一体どんな人だろうか?

 普通だったら悔しいはずなのに、龍くんは清々しくてなんだか嬉しそう。


「その割には嬉しそうだね?」

「まぁな。オレが唯一本気でやり合える相手だからな。それにいつか勝ってみせるよ」

「へぇ~、なんだかいいですねそう言うの」


 負け続けて相手の強さを認めているのに、それでも諦めずに挑み続けようとするのは芯も強い剣士なのだろう。

 眩しいぐらい輝いている龍くんは本当に格好良くって、私の理想の男性像なのだと思う。

 後十年龍くんが若ければ好きになっていたかもと思うのだけれど、陽の顔は完全に恋する乙女になっていた。

 本人は必死に隠しているつもりでも、私は陽が中二の頃から龍くんに片想いしていることを知っている。


 年の差十五歳はありなのだろうか?

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